クローチェのパン・デピス

那須のパン屋さん、
クローチェのマダムが
パン・デピスを作った。
フランス語の綴りでは
Pain d’epicesと書く。
Painはパン、Epiceは
香辛料のことである。

いろいろな香辛料が入った
パンということになるが、
蜂蜜をたっぷり入れるので
ケーキのような焼き菓子だ。
ランスではライ麦粉で作り、
ディジョンでは小麦粉を使う。
どちらもバターは使わない。

クローチェでは小麦粉と
ライ麦の両方を用い、
卵やバターも使っている。
香辛料はシナモン、
ジンジャー、グローブ、
バニラビーンズ、
アニスパウダーも入れる。

クローチェのマダムは
あまり甘くしたくないと
蜂蜜の量を減らしている。
様々な香辛料さえ入れば
パン・デピスなのだから、
好きにアレンジして
クローチェ風でいいのだ。

香辛料の風味たっぷりで
ちょっと甘くてとても美味しい。
バターやチーズを塗ってもいいし、
生クリームと一緒もいいだろう。
堀江敏幸の『その姿の消し方』で
パン・デピスのことを知ったが、
チーズを添えて手土産としていた。

パン・デピスの起源は中国、
10世紀宋の時代の「ミ・コン」で、
兵士の保存食だったという。
これがシルクロードを経て、
十字軍によって欧州に渡り、
香辛料が加わってパン・デピスになる。
パンひとつでも長い歴史がある。
そうしたことに思いを馳せて食す、
何ともいいのである。