眠れる「メシア」

博物館*に眠っている
ヴァイオリンがある。
ストラディバリウスの
名器中の名器と謳われる
「メシア」。

17、18世紀の天才職人、
ストラディバリは生涯で
約1000挺のヴァイオリンを
作りだして現存は約600挺。
彼が生涯手離さなかった逸品。

「メシア」が演奏されたのは
およそ100年前のこと。
それ以来このヴァイオリンは
飾られているだけだ。
誰もその音を聞いたことがない。

ヴァイオリニストは言う。
「演奏されてこそ輝く」。
つまり飾られていては
どんな名器であろうが、
音は死んでいるかもしれない。

日本国宝が作った陶器も
使わなければただの美術品。
使ってこそ価値がある。
ヴァイオリンでも一緒だ。
博物館の人間は愚か者だ。

その音を聞きたいという
英国王女の申し出も断った。
ストラド「メシア」を
眠らせておいてはいけない。
天才に弾かせるべきだ!

*英国オックスフォード、アシュモレアン博物館