ワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」_2021年11月20日
先日、ワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の、新国立プルミエに行ってきました。
この日をどれほど楽しみにしてきたことか! 大好きな大野和士マエストロが振ることもあって、数日前から胸は躍り、序曲が皮膚の内側を巡って止まりませんでした。
序曲冒頭の金管重奏が「ゥゥブォン!」と固まった響きに聴こえたことには、素人耳に少し違和感を覚えました。また、「カルメン」「チェネレントラ」に続き、今回も舞台を現代に移していたことに対して、「ああ、またファストファッション(に見えるカジュアル)やらジーパンか……」と最初こそいささかガッカリしました。
しかしこれらは杞憂で、オペラは違和感なく進み、今回も美しい音楽により細胞が隅々まで洗われるような体験をしました。
すでに色々な方が書かれていらっしゃいますが、ベックメッサー役のアドリアン・エレートさんの演技力には私も目を見張りました。姑息で女々しく、プライドばかり高い男ーー。しかし、アドリアンさんの気品によりどこかコミカルに見え、その歌唱力によって、ベックメッサーもまた詩に魅了され芸術に敬意と憧憬を抱く、純粋な人物であることも伝わっていました。
歌比べを巡る物語の中で、とくに私にとり興味深かったのは、詩づくりの技法をマイスターであるザックスが春秋に富む騎士ヴァルターに開示する場面でした。
夢で見た美しい光景を描写し、押韻などのルールを外すことなく歌に昇華させていく。具体的に描かれていた技法の数々は、拙いながら私が小説を書くことにも通じるものがあり、とても勉強になりました。
そうしてできあがったアリア「朝はバラ色に輝き」(第3幕)は、音と言葉、そのすべての響きの美しさが筆舌につくしがたいほどで、願わくばずっと聴いていたいほど。休憩を含めた6時間半が矢のように過ぎました。
これもすでに色々な方が書かれていらっしゃいますが、ある場面の演出に多大なインパクトがあり、混乱とともにブーイングも出ていました。
しかし、喝采の中で舞台上から向けられた視線に促されて後ろを振り返ると、2階席の最前列ではある観客が電光板で「toll」と掲げていました。
「toll」とは、ドイツ語で「素晴らしい」という意味なのだそう。私も心から賛同するところで、数日経った今もなお皮膚の内側を巡り続ける旋律に魂を浸しながら、私の人生にオペラがあって幸福だと天に感謝しています。
※撮影をお手伝いくださった方との間には距離を保ち、撮影時以外は常時マスクを着用しています。