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『学力喪失 認知科学による回復への道筋』を読んで

先月(2024年9月)出版された今井むつみ・慶應大教授の著書『学力喪失 認知科学による回復への道筋』(岩波新書)を読むと、少なくない小中学生が、算数・数学をなぜ苦手とするか、がよく分かります。


つまずきを明らかにする「たつじんテスト」

今井教授(認知科学、言語心理学、発達心理学)は、広島県教育委員会の依頼を受け、他大学の先生らと共に、子供がどこで、何につまずいているか、何故つまずいているか、を明らかにするテスト作成することになりました。
小学生用の「たつじんテスト」に続いて、中学生用も作成し、いろいろな学校などで活用されています。

本の中では、このテストの問題と、学年別・問題別の正答率や、典型的な誤答の例などが紹介され、どうして、正答率が低いかが分析されています。
私が教えている補習塾「ほめるん」の子供らに「たつじんテスト」を受けてもらったわけではないのですが、分数や小数の間違い方などは、当然のことながら共通しています。

本書の第4章の「分数というエイリアン」というタイトルの項で紹介された問題は、子供のつまずき方がよく分かります。
両端に「0」と「1」と書かれた十等分された数直線上に、「0.5、0.8、1、2分の1、10分の9、5分の2」の位置を矢印で書かせる問題です。

分数以外の3問は、4、5年生とも8割台後半の正答率だったのに対し、「2分の1」は4年生が26%、5年生が46%の正答率でした。「10分の9」の正答率は6〜7割あったものの、「5分の2」は2〜3割程度と低いものでした。

十等分した目盛を数えることで正答にたどり着ける問題は比較的成績がよいが、「2分の1」の結果を見ると、分数の基本である「分母とは、1を何等分するかを表す数字」を理解していない子供は半数以上いたことになります。
「5分の2」を正解するには、十等分の目盛を2つで1つと読み替える必要があり、一段と難しかったようです。

「ひとしい」の意味は「同じ」でなくて、「近い」?

第5章の「読解につまずく」では、教科書の説明文や問題文が読み取れない原因を探るため、語彙テストの結果も紹介されています。

「ひとしい (数字がひとしいです。)」と似た意味の単語を3つの選択肢(1=同じ、2=大きい、3=近い)から選ばせたところ、2、3年生は1と3を選んだのが3割強ずつ、2が2割前後でした。4年生になると正答率が95%を超えました。今井教授が「もしかしたら、意味を学校で説明されたばかりだったのかもしれない」と推測するほどの高さでした。

子供の語彙力への不安から、分母の数字の意味を説明する際、私は「1を何等分するかを表す。等分というのは、等しく分けること。同じ大きさに分けることだよ」と正方形の図を描きながら、念を押します。さらに、正方形を2対1ぐらいに分ける線を引いた図を見せて、「これは2分の1と言えるかな?」と尋ねます。

今井教授は、子供のつまずきの原因を分析した上で、解決策として「記号接地を助けるプレイフル・ラーニング」(第8章)を提案しています。最後まで学びの多い本です。

「8分の1=0.125」、とすぐに分かりますか

「プレイフル・ラーニング」で教えることは当面できそうもありませんが、分数・小数の加減の学習が終わった生徒には、以下のように正方形の図を使って、分数と小数の関係を覚えさせます。

まず、「分母とは、1を何等分するかを表す数字」を説明し、10分の1=0.1、100分の1=0.01であることを復習します。

正方形内には事前に、8個の二等辺三角形が点線で描かれています。
1)左の半分に斜線を引いて、分数を答えさせ、それと等しい小数を書かせます。2分の1は即答できませうが、0.5は意外と苦戦するので、「10の半分はいくつ?」とヒントを出します。

2分の1=0.5


2)次に左上の正方形だけ斜線を追加します。これも分数は容易ですが、0.5の半分は筆算で計算してもいいよと誘導します。

4分の1=0.25

3)小さい正方形3つの小数の求め方は。2個が0.5で1個が0.25だから足して0.75と教えます。

4分の3=0.75

4)二等辺三角形1つの分数は、なかなか自力で正解しません。
「分母とは、1を何等分するかを表す数字」を思い出してもらえれば、三角形の数を数えればよいと分かるのですが・・・。
4分の1の半分だから8分の1と考えらえる子供も少ないです。この両方の考え方を教えた後で、小数の方は、0.25を筆算で割ってもらいます。

8分の1=0.125

5)ここまで来ると、三角形3つだと8分の3、6つで8分の6という分数は比較的正解しやすいです。小数の方は、すでに書き出している小数を足したり、引いたりできるというヒントを出して、考えさせます。

8分の3=0.375
8分の5=0.625


6)8分の7は、0.75+0.125か、1−0.125で計算させます。

8分の8=0・875


こうして一通り分数・小数の答えが埋まったら、今度は、一人で、正方形に斜線を引きながら、もう一度答えを書かせます。
これらの学習が終わった後で、小数の後ろ2桁が「25」や「75」の場合は、分母が「4」や「8」でないかと検討することや、分母が8の場合は小数が3桁になることを教えます。

この学習は、分数とは何かや、分数・小数の関係を理解するのに役立つ上、これらを知っていると分数・小数混じりの計算で助かることが少なくありません。
0.125=1000分の125から約分をして8分の1に辿り着くのは、けっこう手間だからです。

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