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世界スパイス会議レポ〜スパイスの旅後半戦スタート!

いよいよ2023年スパイスの後半戦がスタートしました!

実はその前、7月から8月にかけて日本に一時帰国し、前半戦でリサーチした「スパイスの持続可能性」について、日本の企業や専門家に情報提供をさせていただいたり、イベントやラジオ、Podcastでお届けしてきました。そこで得た情報やフィードバックにより、よりスパイスへの解像度が高めることができました。

特に、B2Cで販売されているスパイスは、スパイスの輸入量のほんの一部に過ぎず、逆に多くを占めるB2Bの場合でも、生産国から直接日本に輸出されず、第三国で加工を経て輸入するというルートがあるということです。こうした複雑性は、持続可能性とトレーサビリティを示しにくくします。B2Bのビジネスが、オーガニックやフェアトレードなどのスパイスを輸入したいと思っても、取引先のニーズがなければできません。

ただ、B2Bのビジネスをしている中にも、スパイスの持続可能性を理解している人たちはいます。調達の最前線にいれば、気候変動や土地の劣化、経済危機による影響など、さまざまな情報は入ってきます。最終的には、一般消費者がどこまで関心を持つか、また小売店や飲食店にどれだけ理解してもらえるかが鍵になりそうです。

World Spice Congressの会場入り口

インドは雨季も後半の9月13日、マハーラーシュトラ州のムンバイに降り立ちました。目的は「World Spice Congress(世界スパイス会議)」に参加するため。インド国内外からスパイス企業や専門家が集まり、スパイスに関するセッションやブース展示が3日間にわたり行われるのです。

私がこの会議に参加した理由は、スパイス企業や専門家と情報交換をすること。最初は「女一人単身で乗り込んで相手にしてもらえるのか?」と不安な気持ちでいましたが、早々に払拭されることになりました。一つは前半戦で訪問した、スパイスの輸出を支援する機関「スパイスボード」の方々が私を見つけて歓迎してくれたから。もう一つは、こちらが声をかけずとも、多くのスパイス企業が名刺を渡してくるほどに、積極的な企業が多いからです。

また、私は東南アジア人に間違われやすいので「Are you Vietnamese?」と声をかけられることも多々ありました。この場合は先方がベトナムとビジネスをしたいわけですが、ベトナムは先述したB2Bの第三国として重要な役割を占めています。さらにベトナムは胡椒とシナモンの生産量もトップクラスで、インドのトレーダーは輸出先としても、輸入相手としても見ているわけです。

声をかけてくれた企業で目立っていたのは、グジャラート州やラジャスタン州というシードスパイス(クミンやコリアンダー、フェンネルなど)の産地でした。また、ムンバイがあるマハーラーシュトラ州の企業も多く、そのほとんどが会場がある「ナヴィムンバイ(新ボンベイ)」に工場を構えています。幹線道路を南に行くと貿易港があり、立地としてもメリットが大きいわけです。

そしてマハーラーシュトラ州と言えば、近年インドでNo.1のターメリックの産地として注目されています。World Spice Congressでは、最もスパイスの輸出に貢献した企業をスパイスごとに表彰しますが、ターメリックの輸出No.1の企業も、やはりマハーラーシュトラ州のナヴィムンバイに工場を持っていました。

会場の中の様子
色々なターメリック。割合の数字はクルクミン含有量

セッションでは、海外ゲストが自国のスパイスのマーケットについて話すセッションがありました。日本からは全日本スパイス協会によるプレゼンテーションがあり、ワサビなど日本におけるスパイスの多様な文化が紹介されました。そして、スパイスごとに企業や有識者がトレンドを発表しましたが、特に私が注目したのは、旅の後半戦で重点的にリサーチしたかった「ターメリック」と「コリアンダー」でした。

ターメリックのプレゼンで最も印象に残ったのは、水不足による不作のリスクです。今年のモンスーンにおいては、降雨の時期が遅れなかなか播種ができなかっただけでなく、現在飲料水も枯渇し始めている地域もあるなど、インド全土で降雨量が減少しているそうです。世界一のターメリック生産国インド。この状況は、間違いなく日本にも影響が出るでしょう。

そしてもう一つ、コリアンダーのプレゼンの中では、価格による農家の作付け量の変動に関心を持ちました。現在コリアンダーの価格が伸びていて、この状況が播種の時期まで続けば、農家がより多くのコリアンダーを生産することにつながるというのです。そして、それをよりスパイスボードなどの政府機関が意識して情報提供することが重要だと語っていました。こうしたトピックがスパイスにおいて語られていることは、日本にいる限りではわかりませんでした。

コリアンダーの生産地の分布について。近年ではMPが圧倒的に多い

また、より環境に配慮したパッケージの開発の話や、メガラヤ州(北東インド)のポテンシャルを最大化するという、モディ政権の政策が反映された話題もいくつかありました。もっと驚いたのは、気候変動に関するリスクが、どのセッションでも語られていたことです。これは政策からというよりも、農家などの現場レベルの声から来ているように感じました。

スパイスのパッケージへの責任について。環境への配慮を呼びかけていました

セッションの合間には、日本に輸出している・したい企業、インド料理好きなら誰もが知っているメーカーから、抽出物の専門企業まで、様々な企業のブースを周り、インド滞在中に訪問する先を見つけていきました。(その様子はまた追ってご報告していきます!)そして、最終日には、ナヴィムンバイに拠点がある企業の一社に、工場ツアーをしていただくことができました。

企業名と写真は公開できませんが、見学させていただいた中で印象に残った情報をいくつかお伝えしたいと思います。

今回見学したところに限らずですが、工場の基本設計は数フロアに分かれていて、そこを下から上にジグザグに行き来するように加工を進めていきます。ローマテリアルは企業により様々ですが、マンディという公設市場で買い付けする場合と、提携農家から調達する場合があります。

ローマテリアルは、加工をする前に事前にラボで検査をします。残留農薬やアフラトキシンなどの食品衛生に関する数値をチェックするためです。設備投資をして自社にラボを設ける大手企業もあれば、第三者機関に全て委託をしている企業もありますが、いずれも基準値を超えたローマテリアルは返品するのだそうです。

さらに、最も企業が恐れているのは異物の混入。当たり前ですが、スパイスは植物なので、収穫した段階でも枝や茎、砂や石など、様々なものが混入します。さらに、流通の過程でも意図せず異物が入ってしまうことがあります。これを、比重の違いを生かして分離させる機械や、カラーソーティングの機械を使って取り除いていくのです。また、あらゆるプロセスにおいて異物が混入するのを未然に防ぐ工夫がされています。

企業によっては、加工の途中段階でも、時間を区切ってサンプルを採取し、一定のクオリティになっているかのチェックを行なっています。ミックススパイスなどは最終品を」実際に調理して風味をチェックすることもあるようです。

また、スパイスの殺菌方法も企業によって様々ですが、私が見学したところでは、加熱殺菌をしていました。興味深かったのは、2回に分けて徐々にスパイス自体の温度を上げていたことです。一気に温度を上げないのは、表面だけを焦がさず、香りの揮発を最小限にするためでしょう。

殺菌方法は、スパイスの香りを左右することもあり、より深く理解したいテーマの一つです。ある企業から、日本では認可されていない放射線殺菌に関する話を聞きました。放射線殺菌のメリットは、香りを逃さず殺菌できることと、加工プロセスを減らし安価にすることができるのだそうです。過去に安全性が検証されていたこともあり、欧米では早くに導入されましたが、今また安全性を疑問視する声が上がっていて、加熱殺菌に移行する動きも見られるのだとか。

しかし、ヨーロッパと日本のマーケットでは菌数に対する考え方が大きく異なります。日本では食品衛生に対する消費者の目が厳しいので、多少香りがとんでしまっても、確実に殺菌をして安全・安心のスパイスを提供することに力を入れます。一方で、ヨーロッパでは日本ほどのレベルで菌数を重視していないのだそうです。その代わり、重視されるのは「含油量」。つまり油分に含まれる香りです。確かに、トレーダーと話していると「High oil content」をアピールされることがありました。ラボにも、含油量をチェックする機会があります。個人的には、香りを重視するヨーロッパの考え方の方が共感できると思いました。もしも今後、ヨーロッパに行ける機会があれば、嗅ぎ比べてみたいです。

たくさんの学びと繋がりを得たWorld Spice Congressを終えて、ここからはそこで出会ったスパイス企業の取り組み、生産と流通の現場に迫ってきます!ぜひ後半戦もご注目いただけると嬉しいです🙏

2日目のディナーではインドのスパイスの産地の伝統舞踊も!メガラヤのダンスが面白かった




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