『星を編む』読後感想
著者 凪良ゆう
以下の、三篇が収録されている。
※感想には『星のごとく』の内容にもふれています。
・『春に翔ぶ』
『汝、星のごとく』で主人公、青埜櫂と井上暁海の二人を見守っている高校教師:北原草介が、娘(実子ではない):結を引き取ることになる物語。
・『星を編む』
漫画雑誌編集長:植木渋柿、文芸雑誌の編集長:二階堂絵里の二人が、櫂の亡きあと、櫂の遺作となった「汝、星のごとく」を刊行するまでの話。
・『波を渡る』
櫂の亡くなった後に、北原先生と暁海が共に夫婦として生きて行く、その後の物語。
『星を編む』が現実とリンクして、色々考えてしまった。
今年、漫画家の芦原妃名子さんが、亡くなった。
細かな部分は違えど、ネット上での問題で、精神的に追い詰められた漫画家などの表現者が命を絶ってしまうことが、『汝、星のごとく』でも起きる。
『汝、星のごとく』では、櫂の原作をもとに、作画をしていた久住尚人が、週刊誌に真実ではないことを報道され、漫画の連載が停止になり、発売されていた単行本も回収されてしまう。週刊誌の間違った報道やそれを鵜呑みにした世間からのバッシングで追い詰められた尚人は自ら命を絶ってしまう。
その後、櫂は病気で若くして亡くなる。編集者として、二人を守れなかったこと、二人の作品を守れなかったことを後悔している植木。そして遺稿となった作品『汝、星のごとく』を託された五十嵐。
二人は互いに、櫂の亡くなった後、作品を世に出すべく、それぞれの場所で編集者としての経験や地位を作っていく。
当事者であればあるほど、全体を俯瞰して見るのは難しい。適切な対応とか、的確な助言などを行うのには、更に経験や立場が必要だろう。
だからこそ、植木は編集長という立場を手に入れるべく、仕事を続け、『星を編む』でも、同じ轍を繰り返すことなく、部下である編集者と若手の漫画家を守る指示を出せるようになる。
この本の刊行は昨年。でも、今年、芦原先生は亡くなってしまった。
芦原先生の担当編集者や、編集長を責めているのではない。
勿論、守るための手立てはしているだろうし、ネットだけではない問題が山のようにあった事が推察できる。
言葉を強くして言えば、編集者だけでは、表現者を守りきれないと思う。
理想論かもしれないが、必要なのは、ネットや社会を構成する人々のリテラシーではないのか。
物語では、スピンオフとして編集者の視点とその後が描かれる。
表現者に影響され、その後、表現者になっていく人々も。(映画化された時の監督等)
そういう人々の気持ちを考える時、また、自分自身も影響を受ける側だからこそ、影響を与えることが出来る表現者に感謝したい気持ちや、その才能を大切にしたいと、強く思う。
血のつながらない家族や、社会の偏見、子育てに対して刷り込まれている常識にとらわれることなど、考えた点はまだあるが、それはまた別の機会に。