見出し画像

歌舞伎みてきました!15 仁左衛門『与話情浮名横櫛』

2023年4月。歌舞伎座にて観劇。(他のSNSより転載)

仁左衛門さんと玉三郎さん主演。2022年6月の上演が取りやめになって以来、再演を待ちに待っていました!

1列目14番というありがたいお席を友達にとってもらったので、仁左衛門さんの尊顔とぴんと伸びた美しい背筋と、白い足を拝見しました。ありがたいという言葉の意味そのままの、有り難さでした。

お話は、木更津の浜で、やくざの親分の女であるお富(玉三郎)と気のいい放蕩者の若旦那与三郎(仁左衛門)が、通りすがりに一目惚れをする「見染」の場から始まる。その瞬間、二人の間に走る閃光は、あまりに鮮やかで、あるはずのない光が目に見えるようだった。与三郎は通りすがりの人が振り向くぐらいの、一目で「いい男」。誰にでもできる役ではない。

親分が留守の間に、与三郎はお富に呼ばれて家に忍んでゆく。密会したあと、親分にバレて与三郎が滅多切りにされる「赤間別荘」の場。以前みた時はこの場面が省略されていたので、言葉で解説があってもなんだか腑におちなかった。今回はばっちりである。親分が木更津でいかに権勢をふるっているか、その親分をコケにした者はどんな目に合うかが、じっくり描かれているのだ。

「源氏店」の場面。川でおぼれて死んだはずのお富は、助けられて和泉屋多左衛門の妾として豊かな生活を送っている。湯上りの髪をしっとりと結い上げ、こぼれんばかりの色香である。下心のある番頭(松之助)にいたずらをしかける場面では、ふざけながら日々を愉快に送っているように見える。いや、違うのだ。もはやお富にとってはすべてが時間潰しだ。生きていることに飽いているが、死ぬほどの絶望もない。静かな虚無感がお富の背中に漂っている。

「イキな黒塀、 見越しの松に、あだな姿の洗い髪。死んだはずだよお富さん、生きていたとはお釈迦様でも知らぬ仏のお富さん♪」と春日八郎が歌っていた「お富さん」は、この源氏店の場面の歌だ。いやー、幼稚園児の時に、意味も知らないでこの歌を歌ってたなぁ。

一方、与三郎は、三十幾つもの刀傷が残った身で、ゆすりたかりのチンピラ稼業に成り下がっている。木更津の場面ではなよなよと頼りない優男ぶりが目立った与三郎だが、ここでは品の良さと凄みと羞恥が絶妙に混ざり合っている。成り下がった仁左衛門さんもまたステキ。

片岡松之助さんが下心のある番頭役を、河原崎権十郎さんが懐の深い大店の番頭役を演じて、話に彩りを添える。

実はこの4月公演、仁左衛門さんが病気で3日ばかり休演になっていたので、お元気で復帰されるかどうか不安だったが、杞憂だった。こういう場合、歌舞伎ではよく代役を立てるのだが、玉三郎のお富の場合、仁左衛門さんの与三郎以外は考えられないので、まるっと休演になったのではないかと思われる。

『与話情浮名横櫛』を仁左・玉で演じたのは、6回。
S57.3
H3.6
H12.10
H15.3
H17.4
R5.4
そのうち、「赤間別荘」の場が演じられたのは、H15年の2回のみ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集