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ざっくり文体論コラム。悪用厳禁。誤解を誘うレトリック。【情報待機3】 #13
ざっくり文体論コラム~🎉🎉🎉
配列の原理、5回目!
すっかり文体の沼にハマっているななくさつゆりです。
いま絶賛おハマり中なのはレトリックの沼。
前回の内容はこちら!
📚未決法
スキをまだ押していない方はリンクからじゃんじゃん押してってくださいね!
ではさっそく今回も、レトリックにおける配列の原理をやっていきたいと思います。
の、前に。
念のため以下をご覧ください。
レトリックは用法を理解した上で正しく運用しましょう。
注意
この回では、ミスリーディングのレトリック「誤解誘導」を扱います。
誤解誘導は文章の配列で受け手を誤った認識に誘い込む修辞技法ですが、本コラムではあくまで爽快な読後感を目すという前提に立ってこのレトリックに触れていきます。
どうかご理解の上でお楽しみください。
よろしくお願いいたします。
ちょっと大仰だったかな?
何やらカタいことを書きましたが、ともあれ今はざっくり文体論。
より魅力的な文章表現のためのレトリックの話が最優先です。
行ってみましょう!
レトリックのおさらい。
はじめての方もいらっしゃると思うので、軽くおさらいをします。
(次の見出しまで飛ばしてOKです。)
ここで言うレトリックとは一体どういうものなのか。
それについて、私の聖書でもある中村明先生の『文体トレーニング』から引用して説明します。
「レトリック」ということばは文章のうわべを飾るまやかしの技術といった、虚飾のにおいがしみついている。だが、真正のレトリックは的確な表現を選び、あるいは考え出す行為としての方法のすべてなのだ。
厚化粧をしたデコラティヴな文章の時代は終わった。レトリックは今、もっとも基本的な表現技術としてよみがえる。
ざっくり文体論コラムは、私の勉強noteも兼ねています。
学びの過程をそのまま共有していけるように、ざっくりと書いていけたらと思います。
📚
次はレトリックの中身について。
レトリックには2つの在り方があり、その下で7つの原理に分けられるとします。
展開のレトリック
1.配列の原理
2.反復の原理
3.付加の原理
4.省略の原理
伝達のレトリック
5.間接の原理
6.置換の原理
7.多重の原理
これらの原理に基づき、あまたの文彩が定義されているとします。
文彩/文采 ・・・ 1 取り合わせた色彩。模様。色どり。あや。 2 文章の巧みな言い回し。
その文彩の中身を見ていくのが本コラムの当座の試み。
今は最初のダンジョンである配列の原理を勉強しています。
今回の内容は、これまでに触れた情報待機の詳しい中身。
その後半。
誤解誘導についてです。
概説、誤解誘導。
誤解誘導 ・・・ 必要情報を故意に伏せて誤った思い込みを誘う修辞技法。
誤解誘導は、必要情報を故意に伏せて誤解を誘う修辞技法です。
故意に伏せることで情報を完全なものにさせない点は未決法と同様ですが、なかでもより強力な、未決感を通り越して誤った思い込みにまで読み手を誘い込むのが誤解誘導の特徴になります。
意図的に的確さを欠いた文章にしたり、複数の意味を持つ単語や比喩を用いて誤った意味を前面に出したりするなどで、読み手の認識をさりげなく誘導するのがこのレトリックです。
この修辞技法において、書き手は読み手の連想を文章の配置によってリードすることを狙います。
普段のコミュニケーションにおいてもそうであるように、前後の文脈や行間に指示語、単語の多義性や言外の情趣などが要因となって、話し手と聞き手の認識は簡単に食い違います。
それを文章の仕掛けによって意図的に起こし、読み手の連想を効果的に導くことで、より深く伝わる文体や爽快感のある文体に仕上げるのがこのレトリックのゴールです。
実践、誤解誘導。
具体例を出したほうがわかりやすいと思うので、うちのホロとケインに実演してもらいます。
📚
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ホロ ホロです。直観でエモさを語ります。
述懐担当で、口ぐせは“かなり好き”。
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ケイン ケインです。内容面の言及に加え、作者のプロフィールや作品の来歴もカバーします。
よければ、日本の近現代文学についてふたりが語る『文学のハイライト』もあわせて御覧ください。
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ホロ 呼ばれてやってきたわけだけど。
今回はレトリックの話をするのよね?
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ケイン そうです。配列でミスリーディングを起こす過程を実際に例示してみようという試みになります。
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ホロ で、私がその実験台なの?
不完全な情報にしろ、誇張や曖昧の表現にしろ、事前に誤解誘導しますよと言われて引っかかるヒトはいないでしょ。
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ケイン そこもまた、このレトリックの奥深いところです。
もちろん用いる文脈によりますが。
とりあえず、やってみましょう。
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ホロ りょーかい。じゃあ、なんでもどうぞ。
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ケイン ホロさん。我々は英語も一応話せますよね。
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ホロ まァ、私はビミョーに母語話者じゃないけど、一応ね。
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ケイン では、今から言う言葉を英単語にしてください。
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ホロ 英単語? いいけど。
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ケイン 「熊」を英語で何と言いますか。
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ホロ Bear でしょ。
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ケイン 「狐」は?
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ホロ Fox。やけに簡単ね。
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ケイン 「蛙」は?
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ホロ Frog。
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ケイン 「蝸牛」は?
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ホロ Snail。
サイゼのescargotはフランス語ね。
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ケイン 蓮はどうでしょう。
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ホロ Lotus。
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ケイン では、「かっぱ」は?
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ホロ は? カッパ?
なによ、カッパの英単語って。
強いていうなら“Kappa”? あとは“water imp”的なやつ?
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ケイン 不正解です。
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ホロ 不正解なんて言われても……。
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ケイン かっぱは“raincoat”ですね。
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ホロ なにそれ。
……あ。もしかして、「合羽」?
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ケイン 御名答。
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ホロ それはズルでしょ。
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ケイン とんでもない。
こちらは“雨合羽”というオチに合わせて、徐々に雨を思わせる単語へと寄せていったわけですし。
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ホロ 同時に河童にも寄っちゃってるでしょうが。
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ケイン ということで、これが誤解誘導のレトリックです。
この誤解の成功如何は、事前に仕込んだ文脈次第。
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ホロ なるほどねぇ。意地悪なレトリックだわ。
📚
以上のように、物語として本来伝えるべき情報とは別の文脈を用意し、相手をそちらへと誘うように配列することで、誤解誘導は効果を発揮します。
その文章を精巧につくって誘い込むことを、種本では「前景化」と言い表しました。
ちなみに、「合羽」という言葉、最近見聞きされますか?
上記の例でいえば、合羽という語の使用頻度が社会的に少なければ少ないほど、同音異義語としての「合羽」は存在感がなくなっていき、誤解誘導の文脈に使いやすくなります。
そこを利用するのもまた、「意図的に的確さを欠いた文章」につながるというわけですね。
📚
ということで、今回は誤解誘導のレトリックについて話しました。
読み手側がどう感じるかをイメージし、それに基づき文章を配置していくことで、文体は様々な変化を見せます。
そして、読み手もまたその文章を受けて様々なイメージを作り上げていくという点で、創作の文体とはいかにも双方向性のあるものだなァという余韻を残しつつ、今回のコラムを締めくくりたいと思います。
次回に向けて。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
さて、今回までで情報待機でお話したい内容はだいたい出せたかなと思います。
いかがでしたか。
未決法と誤解誘導から成る情報待機の手法は、ジャンルにとらわれず様々な文章表現で活用されています。
今回は詳細を省きましたが、たとえば十代のころの私が穴あくほど読んだ『ハリー・ポッター』シリーズは、スネイプ先生の風評をはじめ随所に誤解誘導のレトリックが仕込まれています。
『賢者の石』なんて、常にスネイプ先生の態度や振る舞いがストーリーに連なっていますから、犯沢さんが未決法の化身ならスネイプ先生は誤解誘導の化身かもしれません。
最後に、冒頭の注意書きについて。
これについては、大仰に思われることを承知の上で念のために後から付け加えたものです。
誤解誘導とは結局、読み手の快感のためとはいえ、書き手が読み手に罠を仕掛けるレトリック。
特に、読み手の連想をリードして意図的に誤認させる配列の修辞技法は、扱い方ひとつで毒にも薬にもなるものです。
釈迦に説法ながら、今回ご紹介したのはあくまで小説における的確な表現のための方法のひとつであり、日常のコミュニケーションで用いるものではありません。
くれぐれもご注意ください。
📚
さて、最後に説教臭いくだりが入ってしまってすみません。
今回のざっくり文体論コラムはいったんここまでです。
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次回もお楽しみに。
今日もよい一日を。
ななくさつゆり
参考文献
📚日本語の文体・レトリック辞典(中村明)
おすすめ記事
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