短編小説 神屋宗湛 - 砂浜に町を描いた男 - (5)了
高札場の砂塵
背振山地の山間から午前中の陽が博多を照らす。
山から降りてくる風と海からそよいでくる風とが町に張られた縄を揺らしていた。
町割りがはじまった博多は俄かに騒がしくなり、近隣からも様子見ついでに普請に加わる者達も日増しにふえて賑わいはさらなる様相を呈していた。
島井宗室は、普請で喧しい様子を高札場のそばで眺めつつ、
「成ったな。町割り」と、呟きながら着衣の砂埃を払う。
宗湛は汗を拭い、
「徳さんは気が早い。何事もこれからです」
と、言葉を返すも、
「成ったようなものだ」
と答えて宗湛の言葉をさらりと受け流した。
「関白様の後ろ盾あらば、日の本で為せぬことなどなかろう」
宗室はつとめて冷静に場を見つめて言う。
そこに、先ほどまで櫓の上で町割を監督していた石田三成が現れた。
「博多衆とは、早耳の集まりですかな」
三成は砂煙を手で払いのけながら高札を一瞥する。
「既に町人の間では、この定の話で持ち切りのようで。触書が早く広まるのは大いに結構。ですが、こうも早いと少々腑に落ちませぬ」
宗湛らを見、
「もしや、その方ら。博多の年行司にこのことを昨夜の内から伝え漏らしたか」
と、やや冷めた視線を浴びせてきた。
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