30歳の幸せ
今勤めている会社を辞め、新たな勤務先へ転職することを決めた。
退職するにあたって、お世話になった取引先に行ける限り挨拶をしている。
取引先の方々から驚く様子と惜しむ声をいただき辞める本人である俺も驚いた。
大した仕事なんてひとつたりともできた記憶なんてない。
お客様に寄り添った提案なんかできなかった。
もっと上手いやり方もあったはず。
それでも、感謝の言葉をかけてくれる人がいた。
こんな俺でも惜しんでくれる人が居たんだ。
これはとても幸せで有り難いことだと思った。
30歳になって6ヶ月が過ぎようとしていた。
いま、感じている幸せは見えないだけですぐそばにあるようなものだと感じた。
良い仕事はできなかったけど俺なりに向き合ってもいた。
気付かないだけで多くの人のご厚意があってここまで辿り着けた。
この、いろんな人たちに助けられたこと、俺の力が少しでも誰かの役に立てたことが「幸せ」なのではないかと考えている。
30代からの幸せは他者の力あってのものなのだろう。
20代はどんな幸福を感じていたか。
20歳、大学生活のために地元を離れて一人暮らししていた時だった。
大学で友達に会うだけで幸せだった。
家庭がギスギスしてたからこそ、実家を出てプレッシャーがなくなって笑顔で話せるようになった。
自分を卑屈に演じることなく友達と話せることがほんとうに嬉しかった。
居場所がようやくできた感覚だった。
自分がひとりではないことを感じられたことが幸せだったのかもしれない。
20代の頃と違うのは、誰かのために力を使おうとする気持ちが現れたことだと思う。
人は独りでは生きられないというか、他者とふれあうエネルギーは馬鹿にできないと感じている。
ずっと卑屈で、何も持ってなくて、自信がなかった俺でも誰かの役に立てた。
ひとりでは何もできない人間だからこそ、誰かの力になれた。
矛盾しているようだけど、人生はそういうものなのだろう。
こんな俺を買ってくれる人もいた。
辞めることを惜しんで連絡をくれる人もいた。
その人たちの存在が俺の力、自信になってくれた。
何にも目的なく生きてきたつもりだったけど、どんな仕事であれ役に立てる人でありたいと思う。
不器用でも、何もできなくても誰かが救いの手を差し伸べてくれるから。