家を建てる父と、コンテンツをつくる私。 息をするようにつくり、届けたい
「なあ、パパってなんでこの仕事しとん? 」
家族で晩御飯を食べた後、若干酔っ払った父に思い切って聞いた。
どこにでもある、ふうつの親子の会話かもしれない。
でも私は、聞くのにちょっとだけ勇気を出した。
父に真面目に仕事の理由を聞いたのは、24年目にして、初めてのこと。
初対面の人でも、あれこれと質問攻めをしてよく相手を困らせる私だが、父にはなぜかそれがなかなかできなかった。
父は、建築士をしている。
当然、私や兄が産まれた時には既に仕事をしていて、父が建築士であることは当たり前だった。父は大学卒業後、住宅メーカーで建築士として入社し、建築設計時事務所を経て独立した。
父に仕事について聞いたのには、理由がある。
私は、東京・恵比寿にある「ラブソル」という会社で、主にコンテンツを制作をしている。お客さまの課題に合わせて、記事やデザイン、イラスト、動画、さまざまなものをつくり、届ける。
“つくって、届ける。”
これが何より好きで、気づけば手を動かしている。家族や会社の代表から「もう夢中だね」と言われ、自分でももはや趣味なのでは?と思うほど、無意識に、息をするように動いている。
でも、ずっと疑問に思うことがあった。
私は、なぜこんなにも「つくり、届ける」ことがやりたいのか。いつから、何がきっかけなのか、明確には分からなかった。もしかしたら、理由はないのかもしれないけれど、知りたかった。
だから、同じ「つくる」仕事をしている父に仕事の理由を聞いてみた。
酔っ払っていたのに、父は少し考えてから答えてくれた。
「中学生のとき、技術の授業で本棚をつくったんだよ。自分で図面を描いて、その通りに材料を切って、組み立てたら、本棚ができた。それにすごい感動して、嬉しくてさ。自分が書いた図面が、本当にかたちになるってすごい、って。」
父の建築士になった理由を聞いて、正直「え、それだけ?! 」と思った。私も中学生のとき、授業で本棚をつくったが、そこまで感動をした覚えはない。でも、夢を目指すきっかけは人それぞれだし、何が自分に影響を与えるかは分からない。
そのまま父は、これまでに建てた家や建物の写真や図面を見せてくれた。
「この一枚の図面が、こんな立体の、人が住める家になるんだよ。すごくないか? 」
確かに、本棚をつくった中学生が、今では家や建物をつくっていると思うと、夢がある。父の表情や声は、まるで少年のようで、キラキラしていた。そんな父の姿を見ていると、「あれ、もしかして…」と思い出すことがあった。
幼い頃から、父が建築設計した家や建物を何度も見てきた。
「あれ、俺がつくった家なんだよ。」と言われる度、すごーいという尊敬の気持ちより「いいなあ」という気持ちが強かった。自分がつくったものが、かたちになって、誰かに自慢できることが羨ましかったのだ。
私も、誰かに見せられるものをつくりたい。
そのせいか、小さい頃からいろんなものをつくっては、母や父にあげて反応を楽しみにしていた。友達へプレゼントをつくって渡すのも好きだった。大人になった今でも、イラストや記事を制作しては「こんなのつくった! 」と両親に見せている。
もしかして、何かかたちあるものをつくりたいと思うのは、父の影響なのかもしれない。それも、ただつくるだけでなく、誰かに届けたい。できることなら反応まで欲しい。
多分私にとって、つくり、届けることは、仕事を超えてある種のコミュニケーションになっている時もある。だから無意識なのかもしれない。
つくるだけ、届けるだけのどちらかではだめなんだ。
大学に入学した頃、アナウンサーを目指していた。伝える仕事がしたくてラジオ局でバイトしたり、フリーの事務所で活動したりもしたけれど、どこか夢中まではなれなかった。それは、伝える・届けるだけだったからなのかもしれない。用意された原稿や話題を伝え続けていると、次第に原稿や話題をつくりたいと思うようになっていた。
そして今、ラブソルという会社で、つくり、届けることに辿り着いた。
さまざまな職業がある中でも、本当に贅沢な仕事だと思っている。それでも私は、できるだけ自分や会社の手でつくり、届けていきたい。
父に、「もし人生やり直すとしたら何の仕事する? 」と聞いてみた。
「うーん、多分また建築士かなあ。それ以上に他にやりたいこともないし(笑)。」という父の答えに、ああ、親子だなあと納得した。
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野元 萌乃佳 / Honoka Nomoto X / Instagram
デザイン・記事・イラスト・動画などのコンテンツ制作、SNSマーケティングをしています。ブランドづくり、Eコマース領域を勉強中。