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教育も人も社会も変えられる。『学校の「当たり前」をやめた。』は本当にすごい本

■単なる教育書ではない
何とも刺激的な本だ。

千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長が書いた『学校の「当たり前」をやめた。』が、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」のマネジメント部門で第1位を獲得した。

この本はつまり単に「教育書」にとどまらず、人を動かし組織を動かし、社会を変えていく、そういう力を持つ本であることが多くのビジネスマンからも認められたということだろう。

ご存知の方も多いと思うが、この麹町中学校で行われている「改革」は公立中学校としては異例の、目耳を疑うような内容ばかりである。

2014年の就任以来、工藤校長はなんと宿題を無くしクラス担任制も廃止、さらに定期考査(いわゆる中間・期末テスト)も無くしてしまったのだ。

なぜこんなことが可能だったのか。その根底には工藤校長の一貫した想いがある。それが次の3つである。

・目的と手段を取り違えない
・上位目標を忘れない
・自律のための教育を大切にする

これらの信念に基づいて、学校のさまざまな課題を洗い出して約500項目にも及ぶリストを作成。それをひとつひとつ解決していった。宿題や定期考査の廃止などは、そのほんの一例に過ぎない。

■生徒に「他者意識」を持たせる
麹町中学校で行われている興味深い取り組みのひとつが「修学旅行」である。

修学旅行は何のために行われるのだろう。普通の学校ではその目的は「規律を守る」「集団行動について学ぶ」といったところが定番で、旅行から帰ってきたら生徒個人で新聞を作らせたり作文をさせたりして終わり、のところも多いだろう。

しかし工藤校長は、もっと「真の目的」を持たせ生徒の成長や学びにプラスになることはできないだろうか、と考えた。そして、なんとJTBとタイアップし旅行のパンフレットを制作させ、生徒たちに旅行の「参加者」ではなく「企画者」になってもらうことにしたというのだ。

生徒たちは班ごとに「どうやったら楽しい旅行がつくれるか」を自分たちで考えながら企画・取材し、旅行会社のデザイン・編集担当者の出前授業を受け、パンフレットの具体的な作成方法を学んだ後、制作したパンフレットをもとに、最終的には旅行会社の社員の前でプレゼンテーションを行うのだ。

工藤校長は、生徒に何かをさせる時、常に生徒たちが「他者意識」を持てるようにしているという。これまでのお仕着せの修学旅行ではなく、どうやったら「ターゲット」が喜ぶかを生徒たちが能動的に考え、アウトプットをして、発表・シェアする。これこそまさに、これからの日本に必要な教育のあり方ではないだろうか。

■工藤校長にお会いして
実は私は2016年に、仕事で麹町中学校を視察させていただき、工藤校長とお話をさせていただいたことがある。

麹町中学校は、国会議事堂や最高裁判所、首相官邸などがある千代田区の「ど真ん中」に立地し、かつては「番町小学校→麹町中学校→日比谷高校→東京大学」という進学「ルート」が存在し、名門中学校のひとつだったらしい。

そういった立地や卒業生に恵まれていることもあり、施設・設備はかなり充実しており、階段型のホールや温水プールなど、普通の公立中学校では考えられない、ため息が出るような立派なものだった。

しかし、そういった好条件が上記のような改革を可能にしたかと言えば、私はそうではないと考える。

工藤校長にお会いしてすぐに、この校長が持つ強い信念と情熱を感じることができたからだ。

それはつまり、現状「当たり前」に行われていることを「当たり前」と考えず、「その人や組織にとって何が一番大事なのか」を常に考え課題として意識する力と、その仕組みを継続的に変えていく実行力を兼ね備えた人物であることがはっきりと見て取れたのだ。

工藤校長は言う。

教室に「みんな仲良く」と目標を掲示したところで生徒は何も変わらない。むしろ「人は仲良くすることが難しい」ということを伝え、それを当事者としてどう乗り越えていくかを体験・経験させることの方がよっぽど重要なんです。

この言葉に、私は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。そして思った。この人こそ真の教育者であり、改革のリーダーだ、と。

■「本音で話せる」という安心感
おそらくこの本がビジエンス書(しかもマネジメント部門)としてビジネスマンにも支持されている理由は、「この人は本音で話せる」という安心感から来ているのではないだろうか。

工藤校長によれば、組織を変えようという時には「人は動かない」「意見の相違があって当然」というところからはじめると言う。そして、常に上位目標を忘れずに、コミュニケーションを密に取り、対話を重ねることで課題はかならず解決できるという。

工藤校長は教員時代、東京都台東区の高校(いわゆる教育困難校)に赴任した時にも、「どうやら工藤は違うらしい」問題行動を繰り返す生徒たちに思ってもらうところから改善活動がはじまったらしい。やはりここにも、「この人なら本音で話せる」という安心感を相手に与えるというマネジメントの極意がある。

この本は、閉塞感が漂う今の日本の教育に風穴を開ける力を持っていると言っても過言ではないだろう。教育も人も社会も変えられる。その勇気をもらえる本なのである。

工藤校長はこの本を皮切りに、すでに他にも著書を出されており、そのどれもが非常に評判が良いという。引き継ぎウォッチして、あらためて紹介したいと思う。


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