推敲はどこまでやるのか。八段階のステップアップを考察。
「推敲地獄」という言葉があります。
阿刀田高氏の書籍で見つけた言葉です。際限のない推敲のために作品が完成せず、発表できない状態が続くことでしょうか。
推敲作業の中で、作者は憔悴し、自分を責めたり、やめたくなったりします。『こんなに自分を追い詰めて、いったい何になるのか。作品は何をもって完成とするか』など自問自答する日々が続きます。
完成したと思っても、しばらくして読み返すと直しが発生して、あの達成感は何だったのかと落胆します。
アマチュア、セミプロ、ブロで創作の推敲手順は違うと考えますが、未熟な私なりに、推敲の主要な要素とステップアップについて考察してみます。
※ 何度もタイトルを変更してすみません。試験的に遂行している次第です。
1 推敲の第一段階 「自分は何を書きたいのか」
書いてすぐに読み直す。
この段階では「書きたいことが書けているのか」を、誤字脱字を点検しつつ読み直しています。ところが、「何を書きたいのか」は、実は曖昧です。
文を読みながら、自分を見つめている時期ではないでしょうか。
「自己発見」がこの段階ですね。
2 推敲の第二段階 「テーマを深める」
よく、時間をおいて、読み返すとよいといいます。
できるだけ「自分なりに読者のつもりになって」読みたい段階です。
実際には、創作が一段落して間を置くことで、推敲の疲労とストレスが解消し気分転換をしてから、改めて読みなおしているわけです。
元気な自分が読み直しているのですから、集中力が回復しています。
加筆訂正しながら、「テーマを深めて、展開する」取り組みをしています。この第二段階の作業で、なんとなく完成したように思えます。
実際、これで発表するケースも多いと思われます。
3 推敲の第三段階 「根拠の確認」
テーマを掴み、構成も踏まえ、一通り書き直した時、改めて根拠の確認が必要になります。
根拠とは、
①取材、時代考証、科学、法律、制度等の調査
②理屈が通っているのか、人物のふり舞に説得力のある動機が゜あるか、 展開に必然性はあるのかといった論理的分析。
③伏線や構成に穴や漏れや矛盾はないのかといった技術的なチェックをしていく必要があります。
たとえ書く前に事前準備をしていても、描写に不足を感じて、改めて点検と確認していくのがこの段階です。
人体に例えると、前記の第一段階は「頭」、第二段階は「骨」、第三段階は「筋肉や皮膚」といったところでしょうか。
こうして作品が姿を現すわけです。
4 推敲の第四段階 「他人の視点」
作品を子供に例えると「子供を社会に送り出す直前」の時期。この場合、色々な試験的方法があります。
①友人・知人に読んでもらう
②投稿サイトなどに発表する
③他人になんらかの方法で感想を求める。
④公募ガイドの先生など、プロの方に添削してもらう。
⑤同人仲間に読んでもらうなどです。
他人に批判を求めるのですから、カチンとくることもあるでしょう。ただし、人により反応はバラバラで、振り回されてはいけません。場合によっては、正反対の指摘もあります。
「自分なりの基準と方法」が問われる時期です。
時には全否定されて落ち込むこともあるでしょう。でも好きなことは好きなこと。前に進むのみです。
5 推敲の第五段階 「小技による見直し」
最近気が付いたのですが、作品がまとまってから、試しに「表現手法の変更」をしてみると、文章の粗を見つける場合があります。人に例えると、手鏡の角度を変えて、「お化粧を手直しする」ようなものです。パソコンならではの手法です。
①縦書きを横書きにして読み直す
②行数、文字数、色々変えて読み直す
③PC画面で読むだけではなく、印刷して紙文書にしてみる。
また違った変更点が浮かび上がってきます。
異なる出力方法で読み直すと、意外と
①思い入れが強すぎる文章、
②省略しすぎ、
③逆に重複、
④不適切な表現などを見つけたりします。
自分なりのチェック方法を作りたいものですね。
6 推敲の第六段階 「ゴールを意識する」
賞への応募や原稿の持ち込みなど、ゴールの設定は色々な方法があるでしょう。プロの編集者を意識した推敲です。
方法として、①公募ガイドなどの添削を受ける、②カルチャースクールで先生に読んでもらう、③セミナーに参加する、といった方法があります。
④テクニック本も多々あります。編集者の方の書籍もあります。
この場合、その先生のご専門と自分の目指す方向を間違えないことが大切です。諸先生の立場により、違う指摘をされることがあります。エンタメ、中間小説、純文学。
結局、最後のゴールの場所を決めるのは、自分です。
7 推敲の第七段階 「読者を意識する」
最初から最後まで意識すべきは「読者」です。
ところが、推敲のプロセスでは、最初の読者は「自分」で、各段階に沿って自分から離れ「第三者の視点」に移り、ようやく作品の成熟につれて「具体的な読者」を絞り込むに至ります。
プロ作家の方々は、最初から「読者層」を絞っているのでしょう。編集者から「読者に受ける作品を書いてください」と依頼を受けて、書いているのですから。
アマチュアは自分なりに意識的に読者を特定し、なんとか分かりやすくなるよう描写に手を入れるしかありません。町を歩き、職場に行き、友と会い、家族の会話に耳を傾ける。色々な場面で「そうだ、この人のために書こう」と思えればいいのですが、どうでしょうか。
たとえば、子育て中のお母さんが、童話を子供たちのために書く。
わかりやすい事例ですが、人により読者のターゲットは千差万別です。
自分なりの「読者像」があれば、創作の方向と発表の道は決まります。原稿へのインプットと鑑賞されるアウトプットの場が、連結するわけです。
この道の高速道路が整備され完成すること。これが理想でしょうね。
8 推敲の第八段階 「特殊な独自の条件」
歴史的な大作家にみられるように、独自の文学理論や哲学により、創作の新分野を開拓されていく場合です。
これについては、項目を上げるにとどめます。
9 推敲のゴールについて
作品の完成は、自分が自分の作品に合格点を与えた段階が、自分なりの完成でしょう。本人にとっては。自分の書きたいことを書きまくって、第一段階で燃え尽きないようにしたものですね。
創作は自己責任の世界です。
作品推敲のプロセスで、自分が成長することを自覚できるのが醍醐味です。だからこそ、自分が成長し続ける限り、作品に手を入れたくなり、終わりがないよう思えてきます。
「子供が社会人として一人前になる」ように、作品が社会の中で生かされる段階が真の完成なのでしょうが、これは夢でもあり希望でもあります。
幻にはしたくないものですね。
では、ご健闘をお祈ります。
[追記] お勧めしない方法
一日に数百枚の推敲をしたことがあります。12時間もかかりました。終わった時は、達成感がありました。
でも、この方法は、やめたほうがよいです。
あとで読み直すと、見落としが多いのに驚きました。
原因は疲労だけではないようです。考えられるのは、目前の原稿に目を走らせているのに、実は頭の中の原稿を読んでいたようです。集中すると、目前の映像と脳のイメージが重なっていたように思えます。
時間を分けて、何日もかけることがよいでしょう。取り組み時間も、朝昼晩と、適当に分散してみましょう。過度に集中しはじめたら、あえて無理せず、明日にまわすのもお勧めです。では。