はじめに
柳田國男の『橋姫』について、7年前に集めていた資料を発掘したので、整理して公開してく5回目になります。
前回まで、婦人が手紙を託す幸福譚と、河童が手紙を渡してくる不気味な話を読んできました。
今回は、こうした話の型が、古くからあるというお話です。長いので前後篇になっています。
初回↓
前回↓
06.手紙を託すこと(歴史的側面)前篇
13『今昔物語集』27-22
『今昔物語集』は、平安後期の保安元(1120)年頃に成立した説話集です。全31巻で、天竺(インド)1~5、震旦(中国)6~10、本朝(日本)11~31の三部に分かれています。
近江の勢田橋から美濃の段の橋へお届け物は、27巻にあります。
7年前に資料を用意したときに拠っていた『国史大系』では、この話は第21話となっていました。今、『新編日本古典文学全集』で確認してみると、第22話になっています。
『国史大系』の底本は『丹鶴叢書』所収のもので、確認してみると、そのまま「廿一」と書かれています。
一方新編全集は、鈴鹿本を底本としており、頭注に次のように説明されています。
確認してみると、確かにそのようになっていました。
最古写本の鈴鹿本に従って「廿二」とするのが、より原典に近い形なのでしょう。
本文は長いので、適宜区切りながら読んでみましょう。
卷廿七 美濃國紀遠助値女靈遂死語第廿一 p833
『新訂増補國史大系』第十七卷
女から女房へのお届け物で、中身は人間の身体の一部でした。これは婦人の手紙のやり取りと、河童の話を足したような要素になっていますね。(時代的にはこっちの方が古いのですが)
帰宅後に亡くなっているのも、07「甲斐口碑傳説」では気絶、12『趣味の傳説』では発熱となっていました。
また、「橋姫」では省略されていますが、最後の部分で、嫉妬深い女への戒め教訓譚となっています。
さすが今昔物語!と言いたくなる生々しさがあって、味わい深い話ですね。
14『今昔物語集』27-14
国男曰、勢田橋の西端には鬼女がいて、旅人を脅かしたことが「今昔物語」にあるそうです。
探してみたところ、勢田橋については、巻第27「従東国上人値鬼語第14」がありました。これは旅人と鬼が出てくるので、おそらくこの話であろうと思うのですが、鬼女ではありません。
「鬼女」をJapanKnowledgeとやたがらすナビ「攷証今昔物語集(本文)」、さらに、駒澤大学総合教育研究部日本文化部門「情報言語学研究室」が公開している鈴鹿本のテキストデータで検索してみましたが、該当するものは見つかりませんでした。
というわけで、27-14を読んでみましょう。
本文は京都大学附属図書館が鈴鹿本の画像と共に公開しているテキストに拠ります。
以下脱落しており、この後どうなったのかはわかりません。すごく気になるところで終わっていて憎らしいですね。
紙面を見ても、途中でぶつ切りになっていることがわかります。
おわりに
今回は『今昔物語集』の二例を確認しました。
一つ目は、これまで確認してきた婦人や河童の話を複合したような内容でした。むしろこれが様々に分離して後の説話を構成したのではないかとさへ思えてきます。
時代を追うごとに残虐さが和らいでいくのを思うと、目と男根、最後には死という直接的で残虐な描写が、根本として相応しそうです。しらんけど。
二つ目は、こうした橋に関わるもので、近辺に鬼が住んでいることが知れる内容でした。
新編全集の頭注には、12-28に鬼難を免れる類話があり、27-7に、上京の途次、宿で鬼に襲われるモチーフを紹介しています(p.52)。また、「橋や渡し場は異界との境界で、妖怪・霊鬼が出現する場所。」(p.53)と説明されています。
橋の境界性や、境界における妖怪・霊鬼との関係という面からも、アプローチが必要であることがわかりますね。