はじめに
前回は、『今昔物語集』における、橋から橋へ、モノを届ける説話を確認しました。長くなってしまったので、今回はその続きの、後篇です。
初回↓
前回↓
07.手紙を託すこと(歴史的側面)後篇
15『宇治拾遺物語』
『宇治拾遺物語』は、鎌倉時代初期、13世紀前半頃に成立した説話集で、「今昔物語集」「古本説話集」「古事談」などと共通する話が多いです。
紹介されている話は、巻第15-7(通番192)にあります。
これも長いので、少しづつ読んでみましょう。
卷十五 伊良縁の世恒毗沙門御下文の事 p281
『新訂増補國史体系 第十八卷』
これは毘沙門天?から鬼?へのお使いです。但し、手紙を届けたお礼ではなく、直接もらいに行っているというのが、これまでにないタイプですね。
国男は切っていますが、最後は欲深い国守の話になっています。13『今昔物語集』では、嫉妬深い妻が出てきました。何か話のオチに性格の異なる人を登場させる流れがありますね。ただ、『今昔物語集』と違って、死ぬ人も酷い目に遭う人もいません。まいるどです。
この話は『今昔物語集』17-47、『元亨釈書』29に同話があります。
また、新編全集の頭注には、呪宝の米袋をもらう話が第48話に、社寺に祈って福を得る話が第88話、第96話にあると言います。
16『三國傳記』
『三國傳記』は、室町時代中期の15世紀前期に、沙弥玄棟が著した仏教説話集です。インド・中国・本朝の三国の説話、360話が集められています。
本文は7年前に入力したものをそのまま使っているので、レ点や一二点が混入するなど混沌を極めていますが、もう直すのがあまりにしんどいので、大目に見てください。
絶妙に読みにくいので、訳はかなり適当に書きました。バカみたいな間違いがあれば指摘してください。
卷第十一〔第九〕貧僧依二山王ノ恵ニ一勤二彼岸ニ一事。
「三國傳記」玄棟『大日本仏教全書148』仏書刊行会
(昭和58年1月覆刻)名著普及会 p455 二七三頁
国立国会図書館デジタルコレクション
このお話では、やりたい仕事を得るために、手紙を届けることになります。行った先で天狗たちに見つからないように隠れ、帰りには攫われてきた娘さんを送り返すことで、願いを叶えることができます。
単純に手紙を届ける事で得られる幸不幸とは異なり、何か別の要素が強いですね。
異界へ行って、そこで鬼に見つからないように隠れるという展開は、「ジャックと豆の木」なんかにも見られます。
日本にもいろいろあったなと思うのですが、具体的な例を思い出すことができませんでした。簡単に調べてみると、「鬼の子小綱」というのが見つかりました。いずれにしても、鬼どもが人間の匂いを嗅ぎつけるのを、何とかして隠し通すというドキドキハラハラの展開があります。
17『酉陽雜俎』
酉陽雜俎(ゆうよざっそ)は、晩唐時代の860年ごろに段成式 (だんせいしき)が著した異聞雑記の随筆です。
元は漢文ですが、東洋文庫の現代語訳を引いておきます。
「酉陽雜俎3」『東洋文庫397』今村与志雄(1981年5月)平凡社 p36
巻十四 諾臯記上 五四五
呉江から済伯への通信を邵敬伯という人が任されます。
水中に葉っぱを投げ入れると人が出てくるという「金の斧、銀の斧」みたいな展開、さらに水中の宮殿に案内される「浦島太郎」みたいな展開があります。
帰りに、水厄を免れる刀をもらったことで、洪水を免れますが、住んでいるところが大きな亀の背になっていたようです。
短いお話ですが、これまでとはまた違った要素が込み込みになっていますね。
相当不思議なお使いなので、神から神への伝達の話型であることは間違いありませんが、本文には「呉江の使い」から「済伯」なので、特段神とは書いていません。
国男は一口の刀も宝刀としており、かなり意を汲んで端的にまとめていることがわかります。
おわりに
今回は、神から神へ手紙を届けるお話でした。
神話などを読むと、神様同士が人間らしいやりとりを行っています。
だんだんとそうした直接的なやり取りが、人間界を仲介するようになるのでしょうか。
たまたま『俊頼髄脳』を読んでいたところ、次の文を見つけました。
なるほど神様も歌を贈りあうのだなぁと、直接的な表現だったので目にとまりました。
もしこれを人が伝達することがあれば、今回の類型に含められそうです。
まぁこれは単なる妄想ですが。
風土記などを思い返しても、やはり神様が活発に行動していた上代には、人がわざわざ仲介する物語はなかったのでしょうか。
手紙というのも気になります。口伝えはないんでしょうか。夢枕に立って、というのはありますが、それが、他の神に何かを伝えて欲しいという内容のものは思いつきません。あったら教えて欲しいです。
ある程度文化的に文書行政が行き届いていて、尚且つ神との距離が離れてきた時代でないと、こういう物語は作られないのかもしれません。