好きな歌に好きを言いたい 2020/12/08
腐食のことも慈雨に数へてあけぼのの寺院かをれる春の弱酸
山尾悠子『角砂糖の日』
山尾悠子さんの歌集「角砂糖の日」は、ずっと読みたくて、でも古本市場でとてつもなく高騰していて手が出ず、葉ね文庫さんで非売品を触らせてもらって「あ~読みたい」と恋い焦がれ、その後新装版が出てようやく入手した、ちょっと思い入れの強い一冊です。
そうしてようやく読めた歌集なのですが、残念ながらわたしには難解で読み解けない歌が多いのです。なので言葉の並びから浮かぶイメージをすくい取り、その中ですとんと落ちたものだけおいしくいただくという「そんな読みかたでいいのかな」という楽しみ方をしています。
そんな歌集の中で、この歌は具体的な景の浮かぶ一首です。
「腐食」「弱酸」から酸性雨のことを歌ったものと考えられます。酸性雨により教会の大理石やブロンズ像が溶ける、というニュースが1980年代にありました。今ではまるで聞かなくなりましたが溶けて曖昧になった輪郭、春の明るい光のイメージから、モネのルーアン大聖堂を描いたシリーズが思い浮かびました。
初句七音の破調も、少し崩れかかった寺院のイメージを増幅させてる効果を上げているように感じられます。
己を溶かす雨もまた慈しみの雨として身に受ける春の寺院のたたずまいが、受難に逆らうことなく十字架刑を受け入れたキリストと重なるように思われて、私の中では動かざる基準点となっている歌です
出典:角砂糖の日 新装版 2016年発行
(ただようさんの「推し歌歌会」に書いた「推しポイントコメント」を加筆修正したものです。ただようさん、面白い歌会をありがとうございました。)
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