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1、古希

いよいよ12回目、最終回となります。6年ごとに考察してきた世代考察。67歳から72歳までです。前回はこちらから↓。

キーワードは「古希」です。還暦が60歳なら、古希は70歳。

出典は、中国の唐王朝の時代の詩人である杜甫(とほ)の詩、曲江(きょっこう)より。「酒債は尋常行く処に有り 人生七十古来稀なり」からです。現代語訳すると、「酒代のツケはどこにでもあるが、七十年生きる人は古くから稀である」。…すごいことを言ってますね、杜甫。「稀」という字が常用漢字ではないので、「古希」と書くことが多いそうです。

 タイトルは、長寿の象徴である「鶴」と「亀」が入ったこちら。この記事をご参考までにリンクを貼ります↓。

現在の日本では、60歳を超える方はざらですが、70歳つまり古希を越えてくると、尊重すべき高齢者の方、という感じがしますね。もちろん、80歳、90歳、100歳の方もたくさんいらっしゃいますが、まずはこの70歳が1つの分水嶺であるように思えるのです。なぜか? 今回はそのあたりから。

2、平均寿命と健康寿命

日本は世界に冠たる長寿国と言われます。では、平均寿命は?

◆男性:81.09歳(2017年平均寿命)

◆女性:87.26歳(2017年平均寿命)

ここ25年間で、約5歳ずつ伸びているとのこと。つまり、男性は25年前は76歳くらい、女性は82歳だったのが、どんどん伸びている。将来的には90歳くらいまで行くのではないかと言われています。ちなみに、明治時代の調査によると、「男性は42.8歳、女性は44.3歳」だったそうです。明治時代ならば「古来稀なり」と言われてもおかしくない70歳も、現代日本では「まあふつうにいるよね」と言われそうですね。

しかし、これは日本に住んでいるから言えることであり、世界の平均寿命を見てみると、いかに日本が平和な高齢大国かがわかります。

ずばり、世界的に数値をならすと、平均寿命は約「72歳」です

この記事のランキングによると、アフリカ諸国などでは平均寿命が50歳代のところも多い。1980年の頃の東南アジアのカンボジアなど、「平均寿命が約27歳」ですよ…。1970年代のポルポト政権下のカンボジアでは、メガネをかけていたり外国語を話せたりしただけで「知識人かぶれ」と言われて殺され、国民の約4分の1が虐殺されたと言われています。障害を持った方や高齢者も、有無を言わさず殺されたそうです。それに比べると、いかに戦後日本が平和で穏やかだったかがわかりますね…。

とはいえ、もう1つの寿命もあります。「健康寿命」です。

この記事によると、健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されているそうです。つまり、健康でなくなると、日常生活が制限されるのです。いかに100歳まで生きようと、健康ではなく、ずっと寝たきりの入院生活、となると、健康寿命上ではカウントされません。この健康寿命の2016年のデータはこちら。

◆男性:72.14歳(2016年健康寿命)

◆女性:74.79歳(2016年健康寿命)

もちろん個人差はありますが、「平均寿命」と「健康寿命」には開きがあります。「健康上の問題で日常生活が制限される期間」が、平均的には約10年くらいある、ということです。

「ぴんぴんころり」という言葉があります。元気でぴんぴんしていた人が、ころりと死去する。誰にも迷惑をかけない「ぴんころ」が理想とされ、各地に「ぴんころ地蔵さん」がありますが、裏を返せばそうでない人が多いということです。

ただし、ぴんころなら迷惑をかけないかというとそうではなく、急死されたら残された遺族は銀行口座から貯金を引き出すのに四苦八苦する、パソコンなどのパスワードもわからない、という話もよく聞きます。

70歳を越えてくると、「認知症」の危険性も高まります。肉体的にはよくても、精神的に弱まることもあります。「高齢者の事故」「免許返納」というトピックも、毎年ニュースを賑わせ議論されています。いざという時の事態に備えて「終活」も視野に入れていく。何かあった時に関係者に迷惑をかけないように、「エンディングノート」に必要事項を記入しておく。そのようなことも、必要となってくるかもしれません。

3、さよならだけが人生だ

高齢や老化に関する諸問題は、本人だけの問題ではない。そこが難しいところです。また、自覚的な部分と、客観的な部分に開きがあることも、難しさに拍車をかけています。

基本、人間は1人でこの世に出てきて、1人で去っていくものなのですが、母親から生まれ、最初は保護者によって保育されるように、死ぬ時もなかなか1人だけでは死ねず、関係者のお世話になる。それなのに、心配して声をかけると「ワシを老人扱いする気か! 死ねということか! 遺産は誰にもやらん!」と逆ギレする(される)ケースは後を絶ちません。経済的な問題もからんで「免許返納」の問題が議論を呼んでいるように…。

「老老介護」「認認介護」の問題も増えてきています↓。

老老介護(高齢者が高齢者の介護を行う)の中でも、特に認知症の要介護者を認知症の方が介護するケースを、認認介護と呼びます。事故が起きやすい。一方で、誰にも看取られることなく、「孤独死」を迎えるケースも少なくありません。大家族が普通だった以前ならば、誰かが介護したり発見したりしてくれるでしょうが、核家族化が進んだ現在では、このような問題は常に生じる危険性があります。

ですが、と問いかけたいと思います。

これは、この世代だけの問題なのでしょうか?

働き盛りの世代が突然倒れて、車いす生活を余儀なくされることはあります。突然の事故により、若い人がハンディを持つこともあります。介護をしていた60歳の方が、「若年性認知症」(65歳以下の認知症)で知らず知らずのうちに認認介護になることもあります。高齢者は老化や寿命の話があるから目に見えやすいだけで、どの世代でも起こりえるのです。

そう考えると、あなたはどうでしょうか? いま自分の取り組んでいることを、誰かに円滑に「引継ぎ」することはできますか? 「バックアップ」はちゃんと取っていますか?

エンディングノートは、別に70歳を越えてから書く必要はありません。10歳で書いてもいいんです。例えば高齢の親にエンディングノートを書いてほしい方は、「先ず隗より始めよ」の精神で、自分自身のエンディングノートを書いてみてはいかがでしょうか。

ダウンタウンの松本人志さんは、30歳くらいで「遺書」を書いています↓。

内容はともかく、自分のいま考えていること、知っておいてもらいたいこと、自分がいなくなっても残しておきたいこと、それらをどんな形でも表現して世に表すことは、プラスになりこそすれ、決してマイナスにはなりません。「遺書の無い自殺」が、どれだけ遺された関係者の白紙の自責を生むことか。何歳であっても生きた証を残していくことが大事ではないのか。

その「エンディング」への行為こそが、逆説的ではありますが、新たな「オープニング」のカギになります。なぜならば、終わりを意識して来し方を振り返ることこそが、客観的に自分を見つめ、棚卸しをし、足りなかったことややりたかったことを浮かび上がらせ、次への活力となるからです。

将棋の世界では、「感想戦」というものがあります。勝負のあとで、自分たちの差し手を1つ1つ確認するものです↓。

負けて悔しいのに、なぜ感想戦を行うのか。それは、明日に向かうためです。77歳で引退した加藤一二三さんは、引退が確定した最後の対局後には感想戦を行わずに帰ったそうですが、これは特別な例であって、加藤さんも棋士生活の中でおびただしい数の感想戦を行ってきています。

あなたは、人生の「感想戦」をしていますか?

例えば、自分のこれまでの歴史をまとめた「自分史」を書いていますか?

「自分史」は、別に人生の最後の最後に書かなくてもいい。むしろ、明日がある人が明日のために書くものだと、私は思います。そして、どんな人にも、どんな状況であろうと、生きている限り、明日は来ます。

参考までに、自分史の参考文献をご紹介して、この項のまとめにします。倉林奈々子さん・野見山肇さんの『書かない自分史』です↓。

4、セブンティさんさん

いかがでしたでしょうか? 今回の記事では、67歳から72歳の世代を考察しつつ、各世代に共通のことも書いてみました。

漫画紹介を2つ。まずは、こうの史代さんの『さんさん録』↓

『この世界の片隅に』でさらに有名になったこうの史代さんですが、漫画を描くのをあきらめようとした時期もあったそうです。その時に、一番苦手な「爺さん」を描くことで踏ん切りをつけようとした。その後の名作が生まれたのも、この作品に出てくる「さんさん」のおかげかもしれません。それにしても、こうの史代さんは、日常の空気を表現するのが上手すぎますね…。ある夫婦の日常を描いた『長い道』などもおすすめです。

次はこちら。タイム涼介さんの『セブンティウイザン』↓。

「70歳で初産」というファンタジーな設定だけで敬遠してしまうと、それこそ人生の損失だと思われる感動の名作です。人によっては号泣すると思いますので、ハンカチやティッシュを用意してお読み頂ければと幸いです。

…12回にわたり、6年ごとの世代を考察してきました。6年×12回=72歳。もちろん平均寿命が示している通り、73歳以降も人生は続いていきますが、ここでいったん締めとしたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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