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プロのコーチと素人のアドバイス
プールサイダーという言葉は造語になるのだろうか。
イザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」に出てくる言葉で後に著者は山本七平が本名(?)と知った。プールサイダーというのは文字通りプールサイドにいてプールで泳ぐ人のフォームの善し悪しを評価したりアドバイスする人のことであったと記憶している。ところが、一方でこのプールサイダーは泳げない人でもある。ここから机上の空論だけで実践出来ない人のことを象徴的にそう名付けた様だ。
プールで泳いでいるとプールサイダーとは言わないまでも他人の泳ぎを見て何かアドバイスをしないと気が済まない人が目に付くことがある。やれ腕がどうのとか身体が沈んでいるとか。特におじさんが若い女性にアドバイスする姿を見かけた。
ある程度泳ぎに自信を持っていて一家言を持っているスイマーが側を泳いでいる人のフォームを見て何かアドバイスをしたくなる心理は分からなくもない。親切心からであれば尚更である。
しかし、思う。中途半端な素人のアドバイスなら止めた方が良い。
自分は小学校5年から高校までスイミングスクールに通っていた。その経験から思うのだが優秀なコーチというのはその教え方にもいろいろ考えた上でなされている。
まず、身体の構造を熟知している。素人が見て足の蹴り方をアドバイスするのに対しプロのコーチは必ずしもそこを指摘したりしない。腰の浮き沈みや上半身の力の入れ具合が足の蹴り方に悪影響を及ぼしている場合があり例えば頭をもっと水の中に沈めなさいとアドバイスすることになる。一見、上半身のフォームを矯正する指導に思えるがこの場合全く別の下半身の位置の矯正となり結果的に身体全体の使い方が改善される。
もっと言えば、プロの立場からすれば矯正すべきフォームの箇所は1カ所とは限らない。腕も腰も脚もいろいろな箇所に課題があるのが分かっている。しかし、そのどこから矯正すべきか、直すべきフォームの優先順位はどこなのか、どこからなのかを理解している。指導を受ける生徒のフォームの全体を見てまずここをこの様に矯正した結果こうなるから次にあそこの箇所をあの様に直す様指導する。そうすれば後はこっちの箇所が問題として残るから相当改善されて今よりずっと良くなる。優秀なコーチはそんなフォームの改善すべき優先順位と順序をあらかじめ頭に描きながら理解しその都度状況を把握しアドバイスする。
更に言えば指導を受ける生徒の性格や気質を理解した上でどの様にアドバイスすれば良いかも考慮する。同じ課題を抱え同じ矯正をするにしても指導の仕方を微妙に変えたりする。自分が泳ぐフォームというのは自分でリアルタイムで見ることは出来ないのでコーチの説明の仕方が受け取った側に影響することをきちんと理解しているからだ。
違和感がある見かけのフォームを単純に指摘する素人とは違いプロのコーチの指導は知れば知るほど奥が深い。しっかり見て判断する透察力、長い経験からくる知見とたゆまぬ勉強のどれが欠けても致命的になるほど指導の中身は濃く緻密だ。
更に更にもっと言えば、理想のフォームというのも時代によって変わる。10年前にオリンピックで泳ぐメダリストのフォームが今ではあの頃はあのフォームがベストだと思っていたよね、言われていたよね、なんてことが起こり得る。時代とともに身体の構造への理解や水の抵抗や水の中での推進特性の解析が比較的短期間で発達する。水泳の世界はここ数十年で理想の泳ぎ方が激変した。
プロのコーチはそういったことも分かっているので常に新しい情報なり世の中の動向をリサーチしたりインプットしている。
別にこれは水泳の泳ぎ方に限ったことではない。どんな分野でもプロのコーチというものはプロであるだけの価値を持っている。その優秀なプロに出逢えたときの幸せは計り知れない。