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『マザー』第4話「秘密のゴッドファーザー」

 お気に入りのセフレの彼女が二度目の妊娠をしてしまい、俺は頭を抱えていた。一度目の妊娠は彼女が39歳の時で、すでに結婚していた俺は認知もできないし、何も協力できないからその子は諦めてくれと、なんとか彼女をなだめることに成功していた。中絶後も関係を続けようとしたものの、彼女の方から避けられるようになり、しばらくは関係が途切れていた。それから12年経過し、半年前に51歳の彼女と52歳の俺は再会を果たし、セフレ関係を再開していた。1年前に閉経したという彼女に安心し、避妊する必要のない性交を楽しんでしまっていたけれど、まさか50歳を過ぎている彼女が妊娠するなんて、最初は信じられなかった。けれど明らかにつわりと思われる吐き気がひどそうで、胸も張っている彼女からエコー写真を見せられたら、妊娠していることを認めざるを得なくなった。不特定多数の相手と性交している俺と違って、彼女は俺としか性交していなかった。つまりおなかの子の父親は俺以外に考えられなかった。高齢出産になるし、堕ろしてほしいと言ってみたけれど、一度中絶し、絶望のどん底を経験している彼女は二度と中絶なんて考えてはいないらしく、あなたには迷惑かけないから一人で産むという一点張りだった。認知や養育費が問題で、出産を反対しているわけではなかった。俺は我が子を作ってはいけない規則の元、生かされている存在だったため、まだ死にたくない俺は自分の身の危険を感じて、どうにか彼女をまた中絶させなければと強情な母性をもつ彼女を説得する策を練っていた。

 子を作ってはいけない理由を説明する前に、子どもの頃の俺の話を聞いてほしい。俺はシングルマザーの母親に育てられた一人息子だった。父親は俺みたいに性にだらしない人間だったのか、俺を認知することなく、妊娠が判明すると母の前から消えたらしい。父親のいない状況で、母と子二人暮らしだったせいか、他の親子と比べたら母子のつながりは強かった気がする。母は俺のことをもちろん愛してくれたし、俺も母のことが大好きだった。

 マザコン気質なのか、そういうフェチなのか、母のおっぱいが大好きだった俺は、小学生になるまで時々、母におっぱいを吸わせてもらっていた。もちろん母乳は出ないけれど、おしゃぶりのように乳首を吸っていた。別にエロい気持ちで母を性の対象に見なしていたわけではない。なかなか寝付けない夜なんかは、母のおっぱいを吸っているうちに、幸福感と安心感に包まれ、ぐっすり眠ることができた。幼い俺にとっては気持ちを落ち着かせてくれる安定剤みたいなものだった。母も寝かしつけるのに都合が良いと思ったのか、拒むことなくおっぱいを吸わせてくれた。けれどそれも幼稚園児までの期間限定で、さすがに教育上良くないと思ったのか、小学生になってからは吸わせてもらえなくなった。

 母のおっぱいを吸えなくなったせいか精神が不安定になり、心細くなった俺は、自然と異性に興味を持つようになった。かわいいと思った同年代の子にはキスしたいという欲求が芽生えたし、好みの大人の女性を見るとおっぱいを触りたいという気持ちに襲われた。母のおっぱいから強制的に卒業させられた途端、性に目覚めてしまったらしい。小学低学年のうちから、ムラムラした気持ちを感じ始め、自分では抑えられないその欲求をどう処理していいか分からず、とりあえず好きになった子には手あたり次第、告白していた。自分で言うのも何だけど、美人の母に似た俺はいわゆるイケメンの類で、女子から人気のある方だった。告白されたら受け入れ、好きな子には自らアプローチし、たくさんの女の子と付き合うことができたけれど、キスやそれ以上のことをしようとすると、「瞬くんのエッチ」と言われて、フラれてしまうことが少なくなかった。同級生だとまだ初心な女の子が多いと気づいた俺は、自分の性欲を満たすために、少しでも年上の女の子に目を向けることにした。年上のお姉さんからもかわいがられることが多かったから、自分のことを好きになってくれた年上の女の子に「おっぱいを触ってみたい」とか、何も知らない子どものフリをして甘え、止めどなく溢れる欲望を満たしていた。小学生のうちは中高生のお姉さんとエッチなことをして、性欲を解消することが多かった。

 でもさすがに小学生の間は性交まで経験することはできず、お互いの身体を触り合ったり愛撫する程度で、次第にその程度では物足りなくなっていた。「女の子の中で思い切り、射精したい」そんな欲望を抱きながら、一人で自慰することも覚えた。かわいがってくれるお姉さんたちやそれからなぜか懐かしい母のおっぱいを想像しながら、宿題もほったらかして、暇さえあれば悶々と射精する日々を送っていた。自慰の最中に母のおっぱいを想像してしまうなんて、結局俺は大好きな母さんのことを性の対象にしてしまっているのかと気づくと、自己嫌悪することもあった。

 母は俺を養うために、昼間だけでなく夜も働いていた。俺が幼稚園児の頃までは昼間はスーパーで働いていたけれど、小学生になるとスーパーから帰宅して一緒に食事をとった後は、夜間のコールセンター業務も掛け持ちするようになっていた。美人な母だから、給与の高い夜のお店で働かないかと声をかけられることもあったらしいけれど、真面目な母は水商売には手を出さず、地道にコツコツ働いていた。

 そんな母を性処理の道具にしてしまうなんて…自分が情けなくなった。おそらく他の男子より旺盛らしい強情な性欲が嫌にもなった。母は俺に惨めな思いをさせまいと、人並みの生活をさせるために一生懸命働いてくれている。大学にも行けるようにと、自分はろくに欲しいものも買わず、俺の将来のために貯金もしてくれていた。性欲に溺れている場合ではない。中学生になったら、家計を助けるために、母がダブルワークしなくて済むように、アルバイトしようと一念発起した。

 中学生になると、ますます盛んになった性欲をなだめつつ、バイト先を探し始めた。高校生ならコンビニでも雇ってもらえるけれど、中学生はなかなかバイト先が見つからなかった。原則として中学生の労働は認められていないらしく、各所から許可をもらった上で例外的に中学生が働けるのは、学業に支障のない時間帯で、22時から翌5時までという深夜労働にあたらない時間に限られていた。最初に考えていた新聞朝刊を配る仕事は夜間労働になってしまうため、無理だった。夕刊も学校が終わってからでは業務に間に合わないと知った。顔なじみの定食屋さんで、どうにかして皿洗いのバイトでもさせてもらえないかなと考え始めていた矢先、遊んでもらっていた高校生のお姉さんから、「瞬くんってかっこいいし、モデル事務所に応募してみたら?」とモデルの仕事を勧められた。

 たしかにモデルなら小学生とかもっと小さい子もしているし、売れればお金もそこそこもらえそうだし、悪くないかもと思い、モデル業界なんて知らない俺でも知っている有名なモデルが揃っている大手モデル事務所にダメ元で履歴書を送ってみた。すると面接してもらえることになり、その場で即採用が決まった。
「キミ、本当に恵まれた容姿で、中1のわりに大人びているし、雰囲気がとっても魅力的だね。モデルとしてファッション誌の表紙を飾れたら、次は俳優業も夢じゃないと思うよ。期待してるから、がんばってくれ。」
なんて事務所の社長から太鼓判を押されて喜んだのも束の間、ここでも自分の性欲が邪魔をした。

 まず異性のモデルと共演となると、相手の身体が気になって仕事に集中できなかった。モデルをしているくらいだから、かわいい子も多くて、学校にいる時より目移りしてしまった。たとえソロでの撮影だとしても、カメラマンやスタッフの中に好みのきれいなお姉さんがいると、やっぱり仕事どころではなかった。胸元やおしりが気になって、「視線違ってるよ」と注意されることも多かった。母さんを助けるために、性欲も封印して少しでも稼ごうと思ったのに、好みの異性が多く現れる環境のせいで、性欲はますます亢進してしまい、撮影中に勃起することさえあった。それに気づかれ、苦笑いされることもあるほどだった。

 せっかく社長からも期待してもらっているのに…。モデル業もこなせない俺が、濡れ場シーンもあるかもしれない俳優業なんてできるわけがない…。仕事の演技ということを忘れて、きっとほんとにやりたくなってしまう…。高校生のお姉さんに今度、性交させてくださいってお願いしてみようかな…。きっとうまく性欲を処理しきれていないから、撮影中もあんな風になってしまうんだ。早く、女の人の中で射精してみたい…。

 撮影帰りの午後八時、どうにも収まらない俺は家の近くの公園で、自慰してから帰宅することにした。公園に行くと誰もいないのをいいことに、ベンチに座って勃起しきっていた陰茎を手で擦り始めた。
「今日、共演した子とヘアメイクのお姉さん、かわいかったな…。ああいう子たちと性交したい…。」
なんてうわ言を呟きながら、はぁはぁ自慰し続けていると、もう少しで出そうという時に、背後からガサっという音が聞こえて、手の動きを止めざるを得なかった。
「性交…したいなら、私で良ければ今すぐ相手してあげるわよ、ぼうや。」
ベンチの後ろから現れたのは自分と一回りほど違う20代くらいのきれいなお姉さんだった。
「えっ…?性交…させてくれるの?」
「えぇ、もちろん。ただし、ぼうやの精液をちょっとだけ…もらいたいのよ。」
胸が半分露わになっているチューブトップにショーツが見えそうなマイクロミニスカートという、性欲を刺激される服装のエロいお姉さんに耳元で囁かれた俺は、彼女に手を引かれ、気づけば彼女の車に乗り込んでいた。

 「こんなガチガチにしちゃって…今にも熱くて濃い精液がほとばしりそうね…。」
お姉さんは人気のない駐車場に停めた車内で、躊躇なく俺の陰茎を口で咥え始めた。
「おっ、お姉さん…そんなに口でされたら、もう我慢できないよ…。」
俺の視界に入る彼女の豊満すぎる胸の谷間には汗がにじみ始めていた。そんな彼女のすべてに俺はそそられた。
「一発目は口内で射精していいわよ。さっきは寸止めさせちゃってごめんなさいね。」
お姉さんの温かくてぬるぬるした舌と唇…。今までも高校生のお姉さんたちにしゃぶられた経験はあったけれど、その経験とは比べものにならないほど、上手な彼女のテクニックですぐに絶頂を迎えてしまった。
「あっ、お姉さん…出ちゃうよっ。」
ずっと我慢していた精液は彼女の口から溢れ出てしまうほど大量だった。
「すごい…こんなにたくさん…。やっぱり私の目に狂いはなかったわ。一発目の精液もちゃんと採取させてもらうわね。」
彼女は自分の口から溢れ出た精液の一部を小さなトレーの中にだらっと垂らした。
「さぁ、次は私の中で気持ち良くなってちょうだい。性交…したいんでしょ?」
彼女は自らショーツを脱ぎ捨てると、すでにぬるぬるに濡れている秘部をくぱっと開き、わざわざライトで照らして見せてくれた。
「うぁ…女の人のあそこって…こうなってるんだ…。」
ショーツ越しに触ったことはあったけれど、じっくり細部まで見るのは初めてだった。
「ぼうや…見たことなかったのね。それじゃあ性交も…初めて…なのかしら…。」
「う、うん。俺、まだ性交したことなくて…。」
暗がりの中で蜜を滴らせている彼女の秘密の花園を見ているだけで、条件反射的にその甘い蜜に吸い寄せられる昆虫のように、俺の陰茎は瞬く間にまた完全に勃起してしまった。
「もう準備万端のようね。入れ方…分からないなら、まずは私が教えてあげるわね。」
後部座席に俺を仰向きに寝かせると、彼女は騎乗位で性交になれていない俺の陰茎を挿入させてくれた。
「あっ、お姉さん、口も気持ち良かったけど、下のお口の方がもっと気持ちいいよっ。」
彼女に誘導され、小さな穴の中に入った俺は、自ら腰を動かし始めていた。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ。私が動いて、ぼうやを気持ち良くしてあげるから…。」
彼女は長い髪をなびかせながら、ゆっくり腰を動かし始め、俺の陰茎をその小さな穴で奥まで念入りにずっぽり咥えた。
「お姉さん、気持ちいいっ。とろけそうだよ…。」
いつの間にか、ずれたチューブトップからむき出しになっていた彼女のあられもない胸が、目の前で揺れていたものだから、俺は断りもなく思いきり、むしゃぶりついてしまった。
「おっぱいだ…お姉さんのおっぱい…おいしいよ。」
「ぼうやったら…甘えん坊ね。」
乳首を吸われ、乳房を揉まれていた彼女はそう言うと、やさしく俺に口づけをした。
「ぼうやの精液は濃くて量が多いから、このまま騎乗位でも採取できそうだけど、できれば正常位で確実に採取したいの。今度はぼうやが上になってくれないかしら?」
しばらく俺を好きなように犯し、俺におっぱいを弄ばれていたお姉さんは上目遣いでやさしく囁いた。
「う、うん。俺、正常位でもやってみたい。」
膣の位置を把握した俺は起き上がると的確に彼女のそこに陰茎を突っ込んだ。
「あ、ん…ぼうやの陰茎…とってもかたくて大きくてステキね…。」
俺を喜ばせるための演技なのか、彼女はまだおぼつかない俺の陰茎で喘いでくれた。
「お、お姉さんも気持ちいい?俺もとっても気持ちいいよ。」
「はっ…あっ…お姉さんもぼうやのおかげで気持ちいいわよ。」
「俺…俺…また出ちゃうよっ。」
よくしまる彼女の膣に長くはもたなかった俺はすぐに射精してしまいそうになった。
「ぼうや…射精する時はできれば中じゃなくて、外に出してね。出そうってなったらタイミング良く、抜いてほしいの。」
「う、うん、分かった…けど、もう我慢できないっ。」
完全に彼女の中から抜け出す前に、彼女の中で射精してしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい…。中で出しちゃった…。」
「外での方が確実に採取できると思ったけど、大丈夫そうよ。ぼうやの精液は多いから、ほら…こんなに垂れてきちゃう…。」
彼女は自分の膣からぽとぽと零れ出る俺の精液をまた小さなトレーで受け止めていた。
「お姉さん…性交させてくれてありがとう。とっても気持ち良かった。」
夢心地のまま、俺は射精に疲れて横たわっていた。
「私の方こそ、こんなにたくさん精液をもらえて幸せだわ。ありがとう、ぼうや。」
彼女は俺にやさしくキスをすると、自分の名前を教えるでもなく、俺の名前も聞かずに、俺を車から降ろすと、どこかへ去ってしまった。

 「せめて、名前を聞けば良かったな…。どこに住んでるのかとか教えてもらえば良かった…。」
見知らぬお姉さんとの初体験後、俺は彼女と出会えた時間帯になると公園へ行き、あの夜のことを思い出しながら自慰することが多くなっていた。もはやいつも遊んでもらっている高校生のお姉さんやモデルの女の子たちではイクことができず、彼女のことだけおかずにしていた。薄暗くてよく見えなかったけど、彼女は母さんの若い頃に似ている気もした。
「あぁ…またあの時のお姉さんと性交したい。気持ち良かったな…。」
日曜日の夜、そんなことを呟きながらあの時と同じようにベンチに座って、自慰していると、どこからともなく彼女が俺の目の前に現れた。露出の多い服装ではなく、なぜかスーツを着ていて、まるで別人のように見えた。
「あっ、お姉さん…会いたかった。」
「私も…会いたかったのよ、ぼうや。今日は改めて、ぼうやにお願いがあって来たの。」
前と同じように俺を自分の車に誘った彼女は、車内で性交しようとするわけではなく、どこかへ車を走らせた。到着した先は、密かに興味のあったラブホテルではなく、高級なビジネスホテルのような場所だった。
「今回はね、単にぼうやの精液を採取したいわけじゃなくて、あなたの人生に関わる、大事なお話をしたいの。だから、名前…教えてもらえるかしら?」
ホテルの一室に入ると、彼女は俺に名刺を差し出した。明るい場所で見た彼女の顔はやっぱり若い頃の母さんによく似ていた。
「国立T大学付属 生殖能力研究所 人工精子開発部 宝井響子(たからいきょうこ)」
名刺にはそう書かれていた。
「俺の名前は菅生瞬(すごうしゅん)です。お姉さんは響子さんってお名前なんですね。人工精子開発部って…?」
「その名の通り、人工精子を開発しているの。人工精子を作るためにはね、優秀な精子のサンプルが必要なの。それで瞬くんの精子を調べさせてもらったら、私たちが求めていた完璧な精子で、受胎させる力も強いと分かったの。あなたの精子を元に人工精子を作ることをあなた自身に許可してほしくて。あなたが納得してくれないなら、もちろん諦めるわ。」
ただのエロいお姉さんだと思っていた彼女は、ひどく真剣におかしな話を聞かせた。
「そんな…急に人工精子がどうとか言われても、俺…よく分かりません。俺はただ、響子さんとまた性交できたらいいなと思っていただけで…。」
「勝手なことをして申し訳ないけど、瞬くんのことはちょっとだけ調べさせてもらったの。お母さんと二人暮らしで、家計を助けるために、モデルの仕事をしているそうじゃない?モデルの仕事ってたいへんよね…。厳しい世界で、売れる子と売れない子がいるもの。この人工精子の研究に協力してくれたらね、あなたに給与が支払われるの。その研究の一環として、私と定期的に性交もしてもらうことになるわ。悪い話じゃないでしょ?瞬くんは射精して、精子を提供するだけで、お金がもらえるのよ。」
彼女は微笑みながら、にわかには信じ難い夢のような話をした。
「そんな…お姉さんと性交して、精子をあげるだけでお金がもらえるなんて虫が良すぎる話…信じられません。お金はほしいけど、詐欺とか悪いことはしたくないので…。」
「瞬くんは慎重で賢い子ね。その遺伝子も素敵よ。詐欺みたいな話に聞こえるかもしれないけど、これは国家プロジェクトだから、悪いことではなくて、困っている人たちを救えるかもしれない素晴らしいことなのよ。私は詐欺師じゃなくて、こう見えて国の職員だから安心して。すぐに信じてもらえなくても仕方ないし、すぐに答えを出す必要もないから。あなたが納得した上で、決めてほしいことなの。瞬くんの一生に関わることだから…。でも協力してもらえたら、それ相応の給与は定期的に発生するわ。」
彼女はそう話すと、俺をベッドに押し倒し、いきなり性交を始めた。
「き、響子さん…俺、あなたと性交はしたいけど、国家プロジェクトとか言われても、正直怖いです…。」
「そうよね…怖いわよね…でも、もし私のことを信じる気になったら、協力してほしいの。瞬くんの精子は今までに採取した精子の中で、一番優れているから。人工精子のオリジナル精子に、とても向いているのよ。」
彼女は巧みに腰を振りながら、熱心に俺を口説こうとしていた。
「精子が優れているとか褒められても、そんなにうれしくないです。正直、俺…自分の性欲の強さに嫌気がさす時もあるから…。そんな俺の精子を人工的に作って増やしたら、たいへんなことになると思います…。」
「性欲が旺盛でたしかに困ることもあるからもしれないけど、瞬くんがコンプレックスに感じているその性欲が、世界を変えるかもしれないのよ。あなたの性欲や精子は不妊症で子どもを授かれない人たちにとって、救世主なの。類まれなる精力に自信をもっていいのよ。」
やたら俺を褒める彼女に戸惑いつつも、正直な陰茎は彼女のテクニックであっという間に射精していた。
「今日の瞬くんの精液も濃くて、量が多くて、ステキだわ…。」
俺の精液をうっとりしながら見つめると、彼女はこの前と同じように、まるで大事な宝物でも扱うように、トレーに丁寧に垂らした。
「今日、話したことはゆっくり考えてくれていいの。返事は急がないから。でも、今日のお話は瞬くんと私の二人だけの秘密ね。誰にも話しちゃダメよ。誰かにバレたら、私たちは二度と会えなくなってしまうから…。」
胡散臭くてあやしい話と思いつつも、初体験の相手をしてくれた響子さんのことは好きだし、彼女と性交だけは続けたい俺は誰にも打ち明けることなく、とりあえず彼女との逢瀬は続けることにした。

 今になって振り返れば、彼女が俺にしたことはグルーミングや洗脳に近い行為だったと思う。しかし彼女との性交に心地良さを覚えた俺は、次第に彼女なしでは生きられないと考えるようになり、彼女に心を許し、彼女の言うことを信じ始めた。国の予測によると、今後不妊症のカップルが増え、ますます少子化が進むらしい。将来的に、子どもが授からないカップルに人工精子と人工卵子から作った人工受精卵を培養し、さらに二人の遺伝子も掛け合わせて、人工的作られた子どもを提供することが目標で、まずはその人工精子を完成させようとしている段階ということだった。それが事実だとすれば、たしかに彼女のいう通り、俺の精子提供は社会貢献につながる。子どもを望む人たちに子どもをプレゼントできるなら、慈善事業とも言える。しかも俺はただ、彼女と性交して、彼女に精子をあげるだけで、お金までもらえる。自分には向いていないモデルの仕事と比べたら、はるかに自分に向いている仕事だ。コンプレックスの性欲を武器に、稼ぐことができたら、きっと旺盛すぎる自分の性欲も認めることができて、自分に自信が持てるだろう。

 けれど、一つだけ彼女自身も最後まで懸念してくれた問題点があった。それは、もし人工精子のオリジナル精子に決まれば、婚姻関係に関係なく、生涯、勝手に誰かと子をもうけてはいけないという決まりがあったからだ。理由は、もし人工人間が完成したとして、その人工人間に生殖能力も備わり、かつ俺自身に子どもがいたら、どこかで人工人間として生まれた子と俺の子が偶然出会い、繁殖してしまったら、兄弟同士で子を作ってしまうようなもので、血が濃くなりすぎて、遺伝子的に問題のある子が誕生してしまう恐れがあるからということだった。今の所、人工人間には生殖能力を持たせないように考えているそうだが、ヒトの精子と卵子を人工的に作る以上、そこから生まれた子は生殖能力を完全に排除できない可能性もあるという。いずれにしても、本当に俺の精子を元に人工精子を作り、受精卵が誕生したとして、つまり俺由来の遺伝子をもつ子が世界中で勝手に生み出される可能性があるということだから、同じ遺伝子をもつ人工人間同士で繁殖できてしまったら、やはり近親相姦となり、種の存続を考えれば厄介な問題が生じてしまう。それを避けるためにも、人工人間の生殖能力は排除しようとしているのだろう。彼女によると、人工人間を生み出すための、オリジナル精子やオリジナル卵子はひとつに限らず、なるべく多くの人たちから協力を得て、人工人間にも多様性をもたせる予定だという。つまり俺の精子のみで、人工人間が作られるわけではないなら、別に構わないかなとも考え始めた。

 何しろまだ中学生だった俺は、将来子どもをもつかどうかなんてまだ考えたこともなかった。しかし母子家庭で育ち、俺を認知しなかった父親のことが許せなかったのか、はたまたそんな父親と同じような人間になりそうで自信がなかったのか、積極的に何が何でも自分の子がほしいとは思えなかった。性欲は強いし、性交は好きだけど、好きな相手との子どもがほしいと思ったことはなかった。むしろ俺みたいな父に構ってもらえない子が生まれるくらいなら、かわいそうだし、自分の遺伝子をもつ子は生まれない方がいいだろうと漠然と考えていた。

 結局、俺は親になる自信のない人間だったのだと思う。好きな女性と二人で好きなだけ性交して、快楽を求め合って生きていけたらそれだけでいいと…。子どもなんて存在は邪魔だろうと。きっと大人になってもほしくならないだろうと考えたから、中3になった俺は彼女の話に乗り、人工精子を作る国家プロジェクトに参加することに決めた。1年に渡って、定期的に彼女と性交し、精子を提供するだけで、その都度、給与が発生し、さらに人工精子が完成したあかつきには、さらに給与がもらえ、順調に人工受精卵、人工人間が生まれれば、生涯に渡って、国から定期的に賞与も与えられるという。彼女の説明と渡さされていた極秘資料の内容に納得した俺は、「生涯、性交渉等で子を作らない。無断で子を存在させた場合、それなりの懲罰を受ける。勝手に生まれた子は始末される可能性も受け入れる。」というよく考えれば恐ろしい誓約書にサインを書き、指紋を押捺した。

 性交して子どもを作れないのは、子どもがほしくなったら少し寂しいことかもしれないけれど、もしも人工人間が誕生したら、自分は少しも育児に手を貸すことなく、知らないうちにたくさんの我が子たちの父親になれるんじゃないか、人工人間たちのファーザーになれるかもしれないと考えると感傷的な気持ちはふっきれた。

 彼女と契約を交わした時、1年という期限が気になり、その後も会えるのかどうか確認すると、プロジェクトとは関係なく会い続けることは可能と言われ、安心していた。しかし約束の期間の1年が過ぎると、なぜか彼女とは連絡が取れなくなり、代わりに現れたプロジェクトの研究員から、「宝井響子研究員は亡くなった」という知らせを受けた。俺が高校2年生になった時のことだった。それまで人工精子やプロジェクトのことは関係なく、彼女との性交を楽しみ、彼女に依存していた俺は、最愛の性交相手を亡くし、途方に暮れた。寂しさのあまり、いつの間にか言い寄ってくる女と手あたり次第、性交するという堕落した日々を送るようになっていた。今、俺と関わっている女たちは信じられないだろうけど、彼女の死を知るまでは、俺は一途な男で、中1で彼女に童貞を奪われて以来、3年以上は彼女としか性交していなかった。性に目覚め、一番性欲旺盛だったあの頃に関係したあの女性は、今でも忘れられない魅力的な女性で、俺にとって特別な存在だった。どんなにたくさんの女と性交しても、満たされない部分があった。子どもを作る気もないし、誰にも言えない秘密だけれど、そもそも子を作れない理由があったから、結婚にはこだわっていなかったものの、関わっていた中で一番響子さんに近いタイプの女・心織(しおり)に押し切られて、結婚した。あくまで雰囲気が近いだけで、完全に響子さんとは言えないけれど。俺が結婚してくださいとプロポーズしたわけではないから、子どもは作らないという俺の意志は無理にでも押し通した。それが嫌なら別れてもいいとまで言った。観念した妻は、子どもは諦めた様子だったけれど、なんと妻の元に「AIの子(人工人間)推進プロジェクト」から声がかかり、予期せず俺は自分の精子を元に作られたかもしれない子を我が子として迎えることになった。妻からは俺の遺伝子も提供してほしいとねだられたものの、そもそも俺の遺伝子が入っている可能性の高い子に提供しても意味がないし、子をもってはいけないという誓約にも反すると考え、頑なに俺の遺伝子抜きで作ってくれと言った。妻は渋々、自分の遺伝子だけを提供し、雪心(ゆきみ)と名付けたAI脳をもつ人工人間を育て始めた。

 俺は妻がいても、他の女たちと遊ぶのに忙しいし、子どもなんていても邪魔と思っていたけれど、娘という存在がいる生活に心地良さも覚え、少しは子育てに協力するようになっていた。

 娘が小4の時、仕事の都合で引っ越し、そこでセフレの藤宮透子(ふじみやとうこ)と再会した。かつて彼女はただ妊娠してみたいと言い張り、いつもは誰とやるにしても徹底的に避妊していた俺も、たまには中出ししてみたいという欲望に駆られ、子どもができたとしても必ず中絶することを条件に彼女とやりたい放題の性交をしていた。本当に妊娠してしまい、約束とは裏腹に産みたいなんて言い出した彼女をどうにか説得し、子どもを堕胎させた。俺は、あの時の誓約を破ったら、自分の身が危ない、最悪、命を始末されるかもしれないと恐れ、自分をかばって我が子の死を選んだ。彼女を傷つけた上に、我が子を殺した。その当時すでに人工受精卵は誕生していたから、俺はどんなに多くの人工人間の父親になれるとしても、やっぱり自分の父親と同じように最後は自分が一番大切で、自分の命を守りたがる身勝手で愚かな人間だと思った。我が子を始末してしまったから、しばらくは性交を自粛していたけれど、そのうちまた性欲は戻り、彼女とは音信不通になっても、妻や他の女たちとやりまくっていた。

 透子は別に響子さんや妻に似ているわけではないし、地味で冴えないタイプの女性だったけれど、セフレとしては気に入っていた。だから再会できたら、性交せずにはいられなかった。閉経したのをいいことに、中出しを楽しんでいた。閉経したはずなのに、また妊娠するなんて…。彼女の妊孕力が高いのか、それとも響子さんが褒めてくれたように俺の精子が孕ませる力が強いのか…。いずれにしても、人工精子の件は打ち明けられないし、どうにかして中絶してもらわないと今度こそ、自分が始末されてしまう。俺はまだ死にたいとは思えなかった。まだ性交したいし、雪心の成長も見届けたいし…。彼女をまた傷つけることになると分かっていながら、自分勝手な俺は産むことを諦めさせるための秘策を考えていた。

 そんな俺の元へ、久しぶりに研究員が現れた。なぜか俺が彼女を妊娠させたことを知っている様子だった。
「菅生さん、誓約書の件を気にしてお悩みのようですが、大丈夫ですよ。今回は特別にあなたが性交して妊娠させた女性の出産・育児のお手伝いをすることになりましたから。あなたのお子さんは始末されることはありません。むしろ大事に育てられます。あなたに懲罰が科せられることもございませんので、安心してください。何しろあなたは今や、人工精子のゴッドファーザーと呼ばれていますからね。」
その研究員は不穏な笑みをこぼしながら、淡々とそう言った。
 理由はよく分からないけれど、どうやら俺は助かったらしい。透子の子宮に宿った俺の子も助かって良かったと、なぜかほっとする自分もいた。

 俺は性欲が強くて優れた精子を持っているおかげで、人工精子の作成に協力でき、たくさんの子のファーザーになれたけれど、性交してできた子がなぜか一番気になる。妻や娘がいるし、もちろん彼女とは一緒に生活することはできないけれど、これから生まれる子の成長が気になる。無事に生まれるといいなと願ってしまう。俺はダメな人間だけど、心のどこかで本物の父親になりたかったんだろうか。でも父親なんて母親と比べたらたいしたことはできない。そもそも自分の身体で受胎することはできないし、胎内で命を育むことも、産みの苦しみや命がけの出産も経験することはできないのだから。ただ、卵子に向かって精子を発射することしかできないのだ。その精子だって結局は、母親の胎内で生まれる。精子の元になる始原生殖細胞は命を授かった時、まだ胎児のうちに母胎で作られるらしいから。結局、ファーザーはマザーに敵わないってことか。

 母親のおっぱいから卒業した寂しさから性が芽生え、性欲旺盛になった俺は、若い頃の母親によく似た響子さんという女性と出会い、彼女と初体験をした。もう二度と会えないというのに今でも彼女のことが気になってしまう俺は、マザコンなんだろうか…。本物の母親に欲情することはないけれど、年老いた母と会うと時々思うことがある。できることなら、母親の胎内に戻ってみたいと…。娘の雪心に与えられているマザーという保育カプセルは母胎を再現しているらしい。その中に娘が入っているのを見ているせいかもしれないが、俺も生きている間にもう一度、マザーの中に入りたい。それがいつの間にやら秘密のゴッドファーザーになってしまったらしい俺の究極の願いかもしれない。

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