プロジェクトが実行フェーズでとん挫する理由
3分の2が失敗する変革プロジェクト
VUCA時代。
多くの企業が変化を求め、多種多様なプロジェクトを立ち上げる。
最近のトレンドは、デジタルトランスフォーメーション(DX)や人事制度制度等だろうか。
しかし残念ながら、変革プロジェクトの3分の2は思ったような成果を挙げられてない。(McKinsey’s Global Survey, 2017)
それはなぜか?
その理由を変革の3つの成功要件から紐解いていこう。
成功要因:第3位 Expertise(適切な専門知識)
変革には、そのプロジェクトの設計から導入までに求められる知識やスキルが必要になる。
事実、多くの企業が変革の支援をコンサルティングファームの様な専門家に依頼する。
もちろんパートナー選びは慎重にする必要があるが、予め「そこに段差がありますよ」、「横に脇道がありますよ」といったアドバイスがあった方がゴールにはたどり着きやすくなる。
成功要因:第2位 Prioritization(優先度付け)
合意形成を重要視する日本の文化においては、周囲を説得するために完璧なストーリーを追求し、最終的にあれもこれもと総花的な取り組みになり、結果総倒れなってしまうリスクがある。
以前にも触れたが、戦略の本質は何を取るかより何を捨てるかにある。
それはプロジェクトの適用範囲(例.国、部署、商品・サービス)かもしれないし、施策の数かもしれないし、完成度かもしれない。
「妥協を許さない」と聞くと聞こえはいいが、「妥協を許して早く進み、早く学び、早く修正する」が、特にVUCA時代では重要だ。
成功要因:第1位 Communication(コミュニケーション)
多くの企業が、変革プロジェクトをコミュニケーションを理由に失敗しているという。
私自身アクセンチュア時代から20以上の変革プロジェクトに携わっているが、個人的にも納得感がある。
ここからは私自身の経験も踏まえ、変革プロジェクトを失敗へと導く代表的なコミュニケーション上の3つの問題を紹介したい。
コミュニケーションの問題①:プロジェクト背景が十分に説明されていない、又は理解されていない。
人は理由を求める生き物である。
理由が分からないものに時間と労力を割くことを嫌う。
これは特に高学歴、キャリア志向、若手(X世代よりX・Y世代)に顕著だ。
有名なTEDスピーカSimon Sinekも、人の心を動かすにはストーリーを「WHY」から設計することを進めている(参照:How great leaders inspire action)。
しかし残念ながら、経営層がミドル層に話す時には「WHY」が強調されても、ミドル層がその先のメンバーに伝達する過程で「WHY」の割合は劇的に減り、一気に「HOW」の比率が増える。
すると実際に現場を動かすメンバー達は「よくわからないけど、なんかやることが増えた」という状態になる。
結果的に現場は「やらされ感」によって非協力的となり、ミドル層は自分の説明にその一端があることに気が付かず、現場の不満をトップ層に伝える。
自分がミドル層に伝えたことは全て伝わっていると思い込んでいるトップ層が何が起きているのかよくわからず、よりトップダウン的なコミュニケーションになり、状況が悪化する。
ここでの学びは、「WHY」は数回ミドル層(組織の一部)に伝えても組織全体まで伝わらないし、全社会議で一度伝えても理解されないということである。
プロジェクトオーナーによる現場行脚とありとあらゆる場面でうんざりするくらい説明することよってはじめて「なんとなくやりたいことがわかった」レベルになる。
「WHY」というのはプロジェクトの北極星である。
これが忘れられたまま各部が「HOW」に走り出すと、気が付けば船隊がバラバラになっているなんてことが起きかねない。
これを怠ると「総論賛成」にすら持ちこめない。
コミュニケーションの問題②:「WHY」が会社目線。
これも残念な例の一つである。
プロジェクトの理由は語られているが、それが会社の利益の文脈で語られている点である。(例.会社の収益を上げるためにこのプロジェクトが必要等)
組織を動かすのは人である。
人それぞれに人生があり、それを支える価値観や動機がある。
「会社のためにこのプロジェクトを推進する」を言われ、やる気が出る人がどの程度いるだろうか?
マズローの欲求5段階説に従うと、この説明で満たされるのはせいぜい下から2番目の「安全欲求(会社の業績が上がり、自身の雇用が安定する)」程度だろう。
しかし、特に先ほど触れた層(高学歴、キャリア志向、若手 : X世代よりX・Y世代)は、その先の「社会的欲求」や「承認欲求」、「自己実現の欲求」を重視する傾向にある。
つまりプロジェクトの理由付けは、「社会のため」、「顧客のため」そして会社で働く「社員のため」にどのような意味があるのかという視点で設計されなければならない。
コミュニケーションの問題③:負荷が高いという不満を解消できていない
もう一歩踏み込もう。
プロジェクトを推進する上で発生する不満のNo1がおそらく「業務負荷」だろう。
それはプロジェクトの推進過程で発生する負荷であり、現状の業務を変える負荷である。
なぜか?
プロジェクトの導入フェーズでは、その負荷は容易に想像できるがその効果はまだ想像できないからである。
そのためいくつかコミュニケーション上の工夫が必要である。
例えば、負荷を上回る効果をしっかりと見積もって一緒に説明すること。
一次的に増える負荷を、人材の補填や日常業務の再配置などで極力軽減すること。
それでも納得してもらえない可能性が高い場合は、協力的な一部の部署に先行的に導入し、実際の効果を実績として生み出してから横展開すること。
以上の3つはあくまで起きうる問題の一部でしかない。
一番重要なのは、ここまで精妙なコミュニケーション設計をしないと人で構成される組織は動かないということを認識し、しっかりを準備をし、丁寧に根気強くコミュニケーションを取り続けることである。