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#よかったらスキください
ショートショート:インビジブルハンマー
東京某所
「麻理…麻理…あああぁぁ!」
「麻理…どうして…」
宙に浮いた娘の足元で泣き崩れる母親と、その母親を抱きしめる父親。
「娘が首を吊っている」
そう通報を受け、駆けつけたのが10分後。
慎重に体を下ろし、状態を確認する。
脈はなく、瞳孔は開いていた。
死んでいる。
死亡した女性は斉藤麻理、18歳。
遺族や友人に聴取したところ、明るい性格で男女問わず人気者だったという。
学校に通いながら
ショートショート:応援
7月。
厳しい陽射しが照りつける日曜日。
こんな暑い日は、クーラーの効いた部屋で冷たいアイスコーヒーを飲む。
ボトルではなく、水出しのコーヒーだ。
場所は、L字型ソファーの1番右端。
ここが1番テレビが見やすい、僕の特等席だ。
この完璧な空間を整えて日常の喧騒から離れ、のんびりと映画を見て過ごす。
これが僕の休日の楽しみだ。
しかし、今日はそうもいかないみたいだ。
「もう少しでなっつやっすみ〜!
ショートショート:3人の賢者
「これでよし!」
クリスマスまで残り1週間を切った。
やっと欲しい物が決まった僕は、サンタさんへ手紙を書いた。
ルンルン気分で玄関に手紙を置くと、同時に父ちゃんが帰ってきた。
「ただいまーっと」
「おかえり父ちゃん!」
「お、なんだこれ?」
「サンタさんへのお手紙だよ!」
「スーパーファミコンとマリオのカセットか。これはちょっと欲張りすぎじゃねぇか?」
「そんな事ないよ!僕、今年いい子にしてたも
ショートショート:思い出
「別れよう」
彼女から放たれたその一言で、3年間にわたる僕らの関係に終止符が打たれた。
大学に入学してすぐ出来た彼女。
大好きだった。
止めたかった。
でも出来なかった。
電話越しにごめんなさいと泣く彼女の声を聞いて、彼女を幸せにできる男は僕ではない事を悟った。
電話を終えた後、僕も泣いた。
ひたすらに。
それから酒を飲んだ。
浴びるように。
そして眠った。
泥のように。
翌朝、スマホの画面を
ショートショート:秋の夕日に照らされて
僕は今、とても悪い事をしている。
学級委員を務める僕が、こんな事をしてもいいのだろうか。
いや、良いはずがない。
本来なら降りろと言うべきだし、そもそも乗せる前から強く拒否するべきだった。
「ねぇ、もっとスピード出せないの?」
後ろで横向きに座ったまま優が言った。
「馬鹿言え!2人乗りは慣れてないんだよ。て言うか明日先生に何言われるか分かんないぞ」
「あはは!正門出る時にコラー!何やっとるかー!
ショートショート:最初で最後のお願い
とある日曜日。
僕は今、駅前の柱に寄りかかって人を待っている。
今日は同じ陸上部で1つ年上の先輩とデートをする約束をしているのだ。
既に約束の8時を20分過ぎているが、一向に連絡はつかない。
暇を持て余した僕は、しばらく人間観察でもしながら待つことにした。
スーツ姿のサラリーマンに、部活姿の中高生、酎ハイを片手にベンチでくつろぐ中年の男。
周りを見渡すと色んな種類の人間がいる。
と言っても世間はも
ショートショート:ブラックタキシード
人間の価値観は、育った環境によって大きく変わる。
逆を言えば、環境が変われば人間の価値観は簡単に変わる。
しかし、人間は自分の慣れ親しんだ環境を簡単に変えようとはしない。
何故なら、そこには拒否感、躊躇、畏怖と言った様々な感情がストッパーとなるからだ。
一方で、そのストッパーを壊し、自分の知らない世界に身を投じる事で、どう変化が起きるのかという興味も併せ持っている。
これは人間の真理である。
「