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#31 遠い空の向こうに

久しぶりに、大学の同級生である高橋くんとご飯に行った時の話だった。

高橋くんの高校生活は退屈そのものでした。
高校入学して間もなく、「うちの家系は苦しいから、大学にしても、専門学校行くにしても、学費は一銭も出せないからね」と両親は息子に告げた。

薄々は気づいていたけど、いざ目の前に空の貯金箱に書かれた400万円は想像を超えていた。

だからといって、進学を諦めて就職することに希望を持てなかった。
それに高橋くんは、その頃から大学で心理学を学びたかったらしい。

空の貯金箱に追い立てられるのと、自分の将来はこの三年で決まるという焦りから高橋くんは、学校が終わると帰宅部のように誰よりも早く校門を抜けてバイトに勤しんだ。

初めは中学校からの友達から誘われた仕事だったこともあり、しんどさだけではなく、楽しさはあった。

なので宿題を見せてもらえたり、体育のときやグループを組んでも大丈夫な社交的な会話と距離感を待てば、高校で友達を作らなくても苦労をはしなかった。

しかし、すぐにバイト先の同級生も、別々の学校で友達を作り自然と、同じ時間を度にすることも減っていた。

そのうち、三年連続で三者面談で、「高橋くんが、クラスでいつも一人で、話し相手すらいないように見えます」と親に横で言われ続けた。

一早く学校を卒業することと、貯金することを考えているうちにどうすれば退屈な日々をやり込めるかとかを考えることが得意になっていった。

私は、なんて返そうか、少し会釈をするように、グラスに口をつけると、
食い気味で、「でさ!そんな高校でもっとあるんよ」油が乗ったように彼は話を続けた。


高校3年生の冬、担任の先生が
「今日の道徳の授業は、社会科教室で映画見ます」と言った。
自分たちの使う教室ではなく、社会科教室という唯一プロジェクターとスクリーンが設置された教室に呼び出した。

その先生は、騒ぐ学生と単語帳をめくる空気の中、設営し、スクリーンを下ろした。

「みんなに映画を見てもらいます。その映画の感想文を提出して最後の道徳の授業を終わろうと思います」

そういって感想文を書くためのプリントを配り、周囲の騒ぎを止めることなく上映し始めた。

電気が消え、タイトルが流れる。

おそらく誰も知らない。当時の学生からすると古いがかなり有名だった。


『遠い空の向こうに』(October Sky)

炭鉱夫の息子である少年が、退屈な田舎町コールウッドから逃れるために自分のロケットを作ろうと思いつく。科学や理科が好きな友達を集め、インディアナポリスで開催される全米科学フェアに参加を目指そうと奮闘します。
しかし、ロケットがうまく飛ばず問題になったり炭鉱の事故で親が働けなくなったり、さまざまな事件や、どうしようもなくロケット作りは諦めざる終えなくなります。それでも見守ってきた先生が主人公たちを勇気つけ、彼ら4人は手を取り合い、夢に向かっていく希望の話である。

高橋くんの担任は、自分の代を最後に定年退職をする。
休憩時間は生徒が先生にダル絡みしても失笑して受け流す、授業は騒ぐ学生に「テストどうなっても知らんからな」と言って無視して授業を続ける。

真面目で、オンオフがしっかりあるが、授業が終わるとすぐに帰るような踊る大捜査線の和久さんのような仕事に冷めた心持ちのベテラン国語教師だったそうだ。

「夢を追いかけるような、メッセージ性のある映画だったんだ。それを生徒と一線を引くような先生が卒業や受験間近の生徒に見せたんだ。それだけで映画が終わった後、俺、ぐっと胸が熱くなってさ。
教師一筋でいろんなものを見てきて、丸くなったんだと思うんだけど、それでも定年最後に見せた、不器用な大人の最後の卒業生を送る熱いメッセージだったって思うんだ」

お互い、気づけばグラスいっぱいのオンザロックがなくなっていた。


この映画が高橋くんの退屈な高校生活の中でいちばんの思い出に残る作品となった。

会計を済ませお店を出ると、温まった体には少し秋の風は冷たく感じた。

この映画を見ていると、思い出す。
ジェイク・ギレンさん演じる、主役の目も、去り際に見せた彼の目も、
青く、空が晴れるように澄んでいた。

#自伝的小説


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