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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」

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男は村を去った、「天下を取りに……」という言葉を残して。少年は、男のあとを追って、村を出る、男への愛を求めて。だが、彼の前に、幾多の困難が………………。武士の野望と、少年の純愛、…
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記事一覧

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 79(了)

 それ以後のことは、正直あまり覚えていない。  気が付いたときは、三井寺本堂の軒先で、蚊…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 78

 しばらくの沈黙あと、徐に信長が口を開いた。 「仮に………………、弾正(松永久秀)が南都…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 77

 信長は、三井寺にいた。  御山と三井寺は抗争を繰り返していると聞いていた。  そのせいだ…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 76

 お供に安覚を付け、久方ぶりに山を下りた。  その際、安寿から「あまり気負わないように」…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 75

 次に目を覚ましたのは昼頃で、ぼんやりと目を開くと、安覚が心配そうに覗き込んでいた。  …

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 74

「起きておったか?」  安慈は訊く。  驚いて答えずにいると、 「逃げるぞ!」  と、安…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 73

 御山は、騒がしかった。  昼でも静寂が支配する世界だが、夜にはまるでこの世の全てが止まったような静寂………………というよりも、死が支配するような、恐ろしい世界だ。  だが、今宵は騒々しい。  三塔十六谷すべての寺に篝火が焚かれ、御山全体がそれこそ炎に包まれたように光り輝いている。  太若丸のいるお堂の庭にも篝火が置かれ、本堂にも火が入れられ、まるで昼間のようだ。  安仁たちが、本堂でお経を唱えている。  安寿は、駆け込んできた里坊の女や子どもたちの世話をしている

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 72

『三塔詮議』は、安慈を中心とする、若く血気盛んな僧侶たちが、「弾正忠、討つべし!」と、声…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 71

「世は、早い勢いで動いております」 「ふむ、また弾正忠でも動き出したかの?」  安仁の問…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 70

 ふと気が付くと、庭先に安覚が立っていた。  太若丸の顔を見て、頬を染め、慌てて目を逸ら…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 69

 御山は、春を迎えた。  降り積もっていた雪も葛湯を垂らすようにとろとろと融けだし、道に…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 68

 安慈は、僧兵数十人を集め、三井寺を脅しに行くと、山を下りて行った。  そして、そのまま…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 67

 御山として、信長の要請は無視することとなった。  あくまで寺として、信長にも、浅井・朝…

hiro75
3年前
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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 66

 寺には、寺の法というもがある。  それは現世(うつつ)の権力が及ばない法である。  現世の理(ことわり)の外にあるため、これを頼って、法を犯した者たちや権力者の悪政から逃げてきた者たちが駆けこんでくる。  当然、追手がかかる。  だが、寺に入られたら終わりだ。  その者たちを捕まえるためとはいえ、たとえ将軍でも土足で立ち入るわけにはいかない。  寺に断りを入れ、寺のほうでこれを捕まえてもらうしかない。  が、大抵寺は、自らの法を重んじ、首を縦には振らない。  ならばといって