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【東京島酒『嶋自慢』の飲俗學<6>】 醪、元気です。製造工程をTraceする。
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■離島がゆえの製造施設の配置、動線の苦労。
新島の俯瞰画像をご覧いただくと解るとおり、島には平地が少なくその多くは山や丘となっている。
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『新島村史』によれば、新島は島そのものが隆起した火山で、歴史上の最新の噴火で本島の南部(画像の島右側)が形成され、中北部の陸地(画像中央から左)と地続きになったそうだ。地続き部分が平地となって島民の集住地となり、空港なども設けられた。新島酒蒸留所もその市街地の一角に建っている。
ここで、本シリーズ<4>『株式会社宮原のRootsを探れ!』の末尾に記した、社屋移転前の製造場について宮原社長の談話を振り返ってみる。
【宮原社長談】
「かつての弊社は小売店舗の裏に蒸留器をおいて、3階で麹と一次仕込み、2階で二次仕込み、地下に原酒タンクがあるという造りでした。上から下まで走り回って作業していましたが、40歳くらいのときにこのままでは体力が持たなくなる…….と思い、製造場の移転を決意しました」
想像するに、離島という地理的条件から敷地を広く取ることが難しいため、作業場の確保を横展開ではなく縦展開で行い、動線が上下する構造にならざるを得なかったのだろう。
一昨年、筆者がヒアリングにお邪魔した小さな港町にある醤油蔵も同様な構造だった。海岸沿いの狭い町域に住居が建て込んだ、そんな路地の奥。母屋の2階に今は使われていない麹室があって狭い通路と急な階段で1階に麹を降ろす動線となっていた。
そこで旧製造場にまつわる話を、宮原社長に伺ってみた。
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中央やや上に見えるレールに挟まれた四角形が籠部分(2014年9月22日撮影)
【宮原社長談】
「旧製造場では親父がつけた電動チェーンブロックに鉄の籠を釣ったエレベーターで原料を3階まで上げていました。
親父はとにかく省力化が好きで、一旦上に上げて重力で下に落とすということにこだわっていました(笑)
蒸留器も足が長くて、ホースをだーーっと伸ばして、”ドブ車”とよばれる廃液用の車のタンクに重力で廃液を満タンに入れて、捨てに行っていました。
旧製造場を解体前に最後に使用したのは、2014年3月31日の蒸留になります。ちょうど10年前です」
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新島酒蒸留所の旧製造場の配置や動線について、醸造業の生産施設に詳しい業界関係者に訊いてみると。
【関係者談】
「非効率で動線が複雑なのは他社でも多いですね。蔵建屋の継ぎ足しで、横へ横への移動が多いところが多く、どちらも動線で苦労しているようです。
嶋自慢さんの場合、横ではなく下への移動というなら、敷地の狭さのためなんでしょうが、泡盛蔵ではドラムを上に置いて麹を下に落とす工夫をしている蔵が多く、それを真似をしたと言う蔵が鹿児島には多いようです」
さて。現在の社屋に製造場を移転した際、どのような点に留意して設計したのだろうか。
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【宮原社長談】
「新製造場ではあまり上下に動き回りたくなかったので、麹と一次仕込みは2階、二次仕込みと蒸留器は1階・・とぼんやりとした構想でした。
施工してくれた建設会社の資材倉庫を見て、クレーンつけちゃうといいよね…….と思いました。
新製造場が竣工したのは2014年10月で、稼働は同年11月1日からの製麹からスタートしました。この秋で稼働10周年を迎えます」
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【宮原社長談】
「今度は2階までですし、あまり重力も使えませんね……..廃液捨てるのどうしましょう?と、蒸留器メーカーの社長に相談したら、吸うのは真空ポンプ、送るのはコンプレッサー………と目からウロコが落ちた思いでした。
なので、現在は二次仕込みだけ2階から重力ですが、蒸留器にもろみを移すのは真空ポンプ、廃液を捨てるのは加圧で送っています。
一次もろみタンクにはタイヤ?をつけて、ドラムのところに持っていって一次仕込みです。二次もろみタンクはクレーンで吊って、2階から落としやすいところに持ってきて作業をしています。
もっといいやり方もあるのでしょうけれど、現在はそんなふうに作業をしています」
あとでご紹介する二次醪のタンクの画像、櫻井さんが櫂棒を持って”蓋”を崩すシーンを見ると、タンクの周りを囲むような足場が無く脚立に乗って作業をしている。敢えて足場を作ってないのは、タンクを移動させねばならないからか、と合点がいった。
■新島酒蒸留所の醸造〜蒸留工程を改めてトレースしてみる。
ということで、新島酒蒸留所の仕込みのプロセスを追いかけてみたい。
画像については、もともと同蒸留所のFacebookやInstagramですでに公開されたもので、蔵見学の体験者にはお馴染みの光景だと思う。それに同じような画像が続いて退屈と思われるかも知れないが、記録として残すことが本シリーズの趣旨なので公開された画像はほぼ時系列に沿って再録した。
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各画像については、基本的には2024年2月下旬から始まった減圧麦焼酎『羽伏浦』の仕込みを撮影したものをメインに組み込み、一部に常圧麦焼酎『嶋自慢』やその他のアイテムのシーンが挿入されている。
ちなみに、新島酒蒸留所で仕込みに使う二条大麦はすべて国産のものを採用している。
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■一次仕込み:
●1日目
いよいよ仕込みのはじまりです。
手前味噌ならぬ手前麹で恐縮ですが、この麦麹の写真、我ながら美しい麦麹だと思います。光の具合が最高です(笑)
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●2日目
一次もろみ。一夜明けて湧き始めています。
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●3日目
発酵も旺盛になってきました。本日の出麹に差し酛します。翌週は蒸留して空いたタンクへ二次仕込みを行います。
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●4日目
気温は冷え込んでいますが発酵が盛んなので、昨日からチラー★)で温度を抑えています。3日目をピークに炭酸ガスの発生はおだやかになり、品温は下がり始めて、フルーティな香りが漂います。
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★)チラー:一定の温度に維持した水を循環させて、指定した品温に保つための温度制御装置のこと。
●5日目
4日目からはさらに温度は下がり、フルーティな香りを漂わせます。しかし、見た目はあまり変わりがありません。
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●6日目
麦の醪は麦が浮いて、”蓋”と言われる状態になります。この蓋を沈めて好気性の雑菌汚染防止や、品温を均一にするために櫂を入れます。初期は濁っている印象のもろみが、ツヤツヤとした感じになってきます。
この後、もうすぐ二次仕込みになります。
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●7日目
醪そのものは、もう見た目あんまり変化がありません。
チラーも外して、気温なりの品温の下がり方にまかせています。櫂入れして、温度を計って、周りに飛んだ麦をヘラで落とします。
本日蒸留を終えて空いたタンクに醪を移して、翌日から二次仕込みです。
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●8日目
二次仕込みです。もろみを移したら、洗浄がてら汲み水を測ります。
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『羽伏浦』も『嶋自慢』も原料は一緒ですが、『羽伏浦』の場合は仕込み時に汲み水の量を増やしてます。どれくらいかというと原料の1.5倍か1.7倍か位の感じです。
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■二次仕込み
●一次仕込み8日目→二次仕込み1日目
洗った麦を浸漬して蒸します。昨日蒸留して空いたタンクをきれいに洗浄して一次もろみを移し、さらに汲み水を加えます。蒸した麦を冷まして、これに加えて二次もろみとなります。
今回は一次もろみ8日目が二次もろみ1日目になります。
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●初日の二次醪
この段階でしか見ることができない醪の表情です。
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二次仕込み直後は麦が沈み、表面は澄んでいますが、すぐに発酵が始まり泡が発生してきます。この後、ぶくぶくと炭酸ガスの発生が旺盛になり、麦の蓋になります。
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蔵の中はいい香りが漂いますが、近づくと炭酸ガスの刺激も感じるようになります。
●4日目
櫂入れをしたところ。
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●5日目
最高品温を記録しました。蓋が厚くなってきました。
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●6日目
昔は勘でやっていた浸漬ですが、蒸しあがった麦の水分管理をするようになってから、とても香りが良くなりました。バナナやメロンを感じさせるフルーティーな芳香が漂います。
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●7日目
毎日同じ作業が続きますが、品温はゆっくりと下げていきます。昨日から次の麹つくりが始まりました。このもろみを蒸留したら、次の日に仕込むものです。限られた設備をフル回転させて、仕込は続いていきます。
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●9日目
いい香りが立ち上がってきます。続いて仕込んでいる。次の一次醪がプクプクとしてきました。
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●10日目
いい香りが立ち上がってきます。これに続いて仕込んでいる次の一次醪がプクプクとしてきました。
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●11日目
だいぶ品温が下がってきました。
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●12日目
いよいよ明日蒸留です。
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●13日目
今回は13日目で蒸留に入ります。4月いっぱいまでこの工程を繰り返していきます。
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■蒸留
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■瓶詰め
最終段階の瓶詰めに入るのは、『無濾過』タイプは蒸留の直後だが、あとは銘柄によってまちまちという。減圧蒸留麦の『羽伏浦』でも1年以上の熟成期間を置いて瓶詰めして出荷を迎える。
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以上、新島酒蒸留所のアイテムが出来上がるまでのプロセスをおさらいしてみた。
【宮原社長談】
「自分で始めたときには休みが取れなくて本当に辛かったので、ガントチャートを組む際に櫂入れだけの日をつくるようにしました。もちろん社員は土日はちゃんと休みですよ」
そういうご苦労を想うと、ありがたく飲ませていただけるだけで感謝、なのである。
次回からは商品アイテムそれぞれを詳説していきたい。