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少女は卒業しない

言葉に出来ません。
書き出しから敗北宣言ですが、
久方ぶりに大変良い意味で心を掻き乱された作品と出会いました。

現在劇場公開中の中川駿監督作『少女は卒業しない』。2013年に『何者』で直木賞を受賞した朝井リョウの連作短編小説が原作となっている。
廃校が決定している田舎の高校。
この高校を卒業する4人の女子高生を主人公に、それぞれの卒業式までの2日間を描く。

私は『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督、2021年)で主演の河合優実を知りました。
この作品で彼女の演技にすっかり心奪われてしまい、『PLAN 75』(早川千絵監督、2022年)や『愛なのに』(城定秀夫監督、2022年)など
欠かさずに観に行っている。
もちろん、『少女は卒業しない』も彼女が出てることをきっかけに観に行ったのだが、出演者全員の演技にまたもすっかり魅了されてしまった。
時々、垣間見える彼女たちのありのままの動き、言葉、表情。
全く台詞を感じさせない彼女たちの役の溶け込み具合に映画を観終わったいま、思い返し、感激する。まるでドキュメンタリーを観ている、いや、同級生の1人になったようだったか。
この演技を引き出した中川監督の手腕はお見事。
中川監督は顔と空間の撮り方が非常に巧みな監督だと感じた。
度々表れる卒業生たちの横顔。
その横顔の視線の意味、フレーム内の配置、そして顔で見せる演技。
ロングショット、ウェストショットからのアップショット。そのアップショットには、明確に彼女たちの心の機微が読み取れる。
構図的には素直な画だが、中川監督と撮影の伊藤弘典にしか撮れない画がそこにはあった。
また、中川監督の空間の捉え方。
扉を開けて教室に入る。
扉を開けて教室から出る。
同じ動きの繰り返しの中で描かれる彼女たちの感情と関係性。
まだ私自身うまく言葉で出来ず、読者諸君には申し訳ないが、教室という特別な空間の解釈と、卒業と扉、そのイメージをなんと見事に映画に消化し、描き切った演出力に脱帽である。

タイトルの『少女は卒業しない』。
卒業とは何か?卒業とはなんだろうか?
誰かが決めた季節で、誰かが決めた学校の制度で設けられた卒業という1日。
人生の中のその区切られた1日には、出会いもあれば別れもあり、続きもある。校舎から蘇る記憶には、美しいものも、酷く悲しいものもある。
永遠に消し去ることの出来ない、区切ることのできない、”思い出”を胸に彼女たちは次の世界の扉を開くのだ。

評価: ☆☆☆☆

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