【エッセイ】やらないことリスト。
「始まりはいつも向き合うことから。」
そう聞くと、たいていの人はこう思うかもしれない。
「それが一番つらいんだよ。」って。
実際、かつての自分がそうだった。
不安や恐怖を抱えたまま、面倒くさいと投げやりになり、気づけば自分が嫌になる。
悪循環から抜け出そうと何度も試したが、やればやるほどプレッシャーが増し、結局は続かなかった。
よくよく考えてみれば、その原因は「向き合うことの怖さ」だった。
過去に起きた嫌な出来事を思い出すと、胸がぎゅっとなる。
振り返るたびに息苦しくなって、手も足も動かなくなった。
認知行動療法でもACTでも、入り口は「自分を知る」こと。
でも、過去を掘り返すたびに心が折れていた。
・・・
だから、思いきって「向き合う相手」を変えてみた。
過去ではなく、“今の葛藤”に注目することにしたのだ。
そこで作ったのが「やらないことリスト」。
これらを書き出して、朝と晩に眺める。
やらないことを決めて、苦しみの根っこを少しずつ断ち切った。
過去の体験を深掘りして苦しむより、今の習慣を変えてみる。
もちろん、不安や恐怖は出てくるけど、そのとき注目するのは「今」の気持ち。
その苦しみに焦点を当てれば、いくらか取り組みやすかった。
実際、やってみると小さな変化が起きた。
やらないことリストの行動が出てきたときに、「出てきたな」と一度認識する。
認識したら、深呼吸して心を落ち着かせ
意識的に楽しいことを思い出し、ネガティブ思考にならないようにする。
それを繰り返していくと、落ち込む回数が減っていき、休んでも罪悪感に飲み込まれなくなった。
認知行動療法やACTは、「考え方や価値観」を理解するところから始まる。
これは変わらない。
でも、「向き合う」のは必ずしも過去じゃなくてもいい。
過去の辛さがどうしても重いなら、いったん置いておく。
同時に「やらないことリスト」を作って、今の自分にやさしくする。
それを続けると、不思議と「大丈夫かもしれない」という気持ちが少しずつ育っていった。
・・・
最後に、もう一度強調したい。
始まりは向き合うことからだけど、向き合うのは過去だけじゃなくていい。
今の葛藤や習慣を見直しながら、少しずつ自分に優しくなればいいんだ。
振り向くのは、心の体力がついてから。
そうやって過去から今へ、今から未来へとゆっくり進んでいく。
それが、いつしか大きな一歩へと変わっていくのだから。