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田舎の女子高生に一瞬だけ訪れたビリヤードブーム


高校生の頃の私は、今思うとなかなか変な方向に尖っていた。
よくわからないが、とにかくかっこいいことがやりたかった。
遅咲きの中二病である。
そして「なんか大人っぽいクールな趣味が欲しくない?」というとてつもなく子どもっぽいアホな理由で、その誘いに乗った友人と2人である部活を立ち上げた。

それが「ビリヤード(特訓)部」である。


活動内容は、やったこともないビリヤードをこっそり練習し、将来ビリヤードに誘われた時に「ビリヤード?まぁそんなに上手くないけどルールくらいはわかるよ。」みたいな顔してさらっとかっこいいショットを打ち「すっごーい!」とイケイケの女の子に言われて一目置かれることを最終目的とした部活だ。
私はなぜか高校生の時、こういうモテたい男の子の謎計画みたいなことをよく考えていた。


さびれた田舎町で、高校生が遊べる場所は少ない。
カラオケや映画館などはあったものの、どれもなかなかお金がかかるし、毎週行くわけでもなく「何か新しい面白い遊びはないものか」と暇を持て余した私たちは新たな刺激を求めていた。
そこで、手を出したのがなんかかっこよさそうな「ビリヤード」である。

そして私には、目をつけていた練習場所があった。
あまり栄えていない古びたボーリング場の一角に、2台だけ置かれていたビリヤード台。
土地柄のせいか時代のせいか、ビリヤードやダーツは今ほど誰もが気軽に楽しむようなポジションではなく、いつもそのビリヤード台は空いていた。

ちなみにボーリングはやらなかったのかというと、1年に1〜2回くらいはやったものの、正直私は安くはないお金を払ってなんだか不思議な靴を履き、わざわざ重い玉を転がすというのがあんまり好きにはなれなかった。女子高生的に言うと「え〜?ボーリング〜?ビミョー。玉重くてダルいし靴ダサくな〜い?」って感じだ。

その点ビリヤードは、なんだかよくわからないけど大人の人がお酒でも飲んで談笑しながらやるものみたいなおしゃれなイメージがある。偏った映画の見すぎだろうか。
バーテンダーのような格好の人がやるというなんとなくの想像でそう思っていただけかもしれない。中二病改めモテたい男子病にかかっていた私にはぴったりのかっこよさである。

いつも使われていないビリヤードなら、混んだり待ったりすることもない。
しかもボーリングよりも利用料金が安かったこともあり、私たちはビリヤードができちゃうかっこいい女子高生になろうぜと、2人で個人的に部活を発足したのである。


部活動初日、まず最初に私たちは近くにあった古本屋さんに行って、ビリヤードのルールが書いてある本がないか探した。
なんにも知らないため、まずはビリヤードがなんたるかを学ばなければならない。

これが表紙の絵面的になんとなく覚えている、おそらく買ったであろう本だ。これだったかもしれないし、これではなかったかもしれない。
こんな感じの本だった。

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図解コーチ ポケットビリヤード


当時見た時も、なんだか時代を感じるな...と思ったのを覚えている。
文庫本だったので、あぁポケットに収まるビリヤードの本ね、なるほどと「ポケット」と言うのがなんとなくお手軽感があって簡単っぽいという勝手な解釈をして、私たちはこれを買うことにした。

後から知るのだが、ポケットビリヤードとはその名の通りルールに従ってボールをビリヤード台の「ポケット」へ落としていく競技の総称であり、決してお手軽などという意味ではない。


本をぱらぱらとめくった私たちはまずビリヤードにはいくつもゲームの種類があることにびっくりした。
もっと言うと、ボールの数が15個もあるというのもそこで初めて知った。
ラインのように色が塗られている、いわゆるストライプ、ハイボールの存在も知らなかった。

「へ〜なんかすごいねぇ。8の黒いやつを最後に落とした人の勝ちみたいな感じだと思ってたね。」
なんて言いながら読みすすめる。

どうやら私たちがイメージしていた「8を落とすやつ」というのはナインボールというゲームらしい。本を読んで8ではなく9だったことが判明。
そして9を落とすのは最後でなくてもいいらしい。
いろいろと間違っている。


ともかくじゃあまずはそれをやってみるか、と私たちはその場でなんとなくルールを頭に叩き込みボーリング場へ向かった。

カウンターへ行き、「ビリヤードやりたいんですけど。」と言ってみる。
カウンターにいた店員も「え?ビリヤード?君達が?」といった表情だ。
私たちはさも「いつもやってますけど何か?」というような涼しい顔をして得意げにボールを借りた。

こんなおしゃれな難しいっぽい大人の遊びに手を出している女子高生なんて、我々くらいなのではないだろうかと、私たちはなんだか得意げな気持ちになる。

さっそく借りたボールを台ヘ運んで、先程付け焼き刃で覚えたナインボールのルールを思い出す。
そう、ここで本を広げてはいけない。
台の上で2人で本を眺めてふむふむなんてやっていると初心者なのがバレてしまうからだ。
スマートな大人のように、知った顔でビリヤードを嗜むのがビリヤード(特訓)部のスタイルである。


9つのボールを向こう側にならべ、白い手球を手前にセットする。

「よし、じゃあブレイクショットってやつ、やろう。」

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