ポップコーンと秋空のドレミ
♫
小さなドレミを背中に聞いて
校舎裏 きみと食べたポップコーン
秋空に 何度も何度も繰り返す
ぜんぶ同じふりをした
似たもの同士をくっつけて
借りた言葉の空っぽドレミ
ポップソングは後で聴こう
ひとつの箱庭 詰められた
烏合の花束 名前はみんな
並んで揺れる揃いの服は
装う木々から目をそらし
ただばらばらに指揮を見ていた
あくびと叫びが混ざりあう
あの子と この子と その子の涙
重なる和音の奏でる不興
キンコンカンコン チャイムが鳴れば
かしげた音符も口つぐむ
混ざった音階 昇り降り
マンネリ蹴ったマンホール
はじける声を背中に聞けば
きみが跳びはね 手を振った
またあした!
♩
ぜんぶ知らないふりをして
ぼろぼろ崩れた群像劇
お構いなしに始まるドレミは
ポップアップの声もかき消す
水をやっても芽は出ないのに
どこにも届かない 喉が熱い
並んで座る揃いの服は
よそ行き顔して胸そらし
ただこんこんと空咳続けた
互いに違いに気づかずに
押しあい 圧しあい 潰しあい
前へならえのパイプ椅子
軋む床板 出番が来れば
損得はじいて手を繋ぐ
干からびたコーンを土に植え
空っぽの芯でコンクール
何かが強く痛んだって
暗がりのなかじゃ気づかれない
中身が黒く傷んだって
暗い色着て見えなくなった
本当は はじけてあちこち飛んでいくのに
同じ色 並んだふりした箱のなか
難しい言葉借りてきて
簡単なことに気づかずに
ぜんぶ知ったつもりになった ちぐはぐな時代
♩
ぜんぶ同じわけはない
休めの合図を待たないままに
どこへそこへとはじけたドレミ
ポップコーンも騒ぎだす
秋晴れの花壇に まぎれて飛んだ
幼いちょうちょの まだ白い羽
誰かが口笛 吹いた午後
装う日々から身をそらし
正しく移ろう四季を見ていた
地面は鈍色 木の葉は黄色
あの子は屋台のチョコバナナ
ママに だだこね泣いていた
右向け右と そっぽを向けば
きみが跳びつき 手を引いた
ポップコーンを はんぶんこ!
♫
どこかで鳥が さえずり出した
知らないメロディ 小さなドレミ
並んで座る揃いの服は
背丈も髪も ちぐはぐで
だけど ひとつの箱をつついた
見ててと はじいた一粒は
大きな口をかすめもせずに
コンクリートに ぺしりと落ちた
あわててひろって はたいたきみと
アルト ソプラノ 笑い声
チャイムはもうすぐ鳴るだろう
じきに冬がくるだろう
ポップコーンの残りも少し
春にはちがう色着るきみと
少しのあいだ 息をした
話したことは覚えてないけど
おいしかったこと 忘れはしない
知らないメロディ 何度も何度も繰り返す
小さなドレミを背中に聞いて
校舎裏 きみと食べたポップコーン
あれは塩味だったっけ
──「ポップコーンと秋空のドレミ」 終
▼ 同じ詩集に収録している作品です(※続きものではありません)
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