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電脳虚構#13 | ホークアイ



Chapter.1 博士と助手


「どうです?私のこと見えてますか?」

少し目を逸らした隙に博士は目の前から姿を消した。

「これはすごい、まるでステルス迷彩だ。」

空間がニュルっと歪み、透明な空気に色がつく。
その色は徐々に人間の輪郭へと形成されていき、博士の姿が現れた。

「そうこれがカメレオンの能力なのですよ。
 きっとヒットしますよ、この擬態能力は。」

遺伝子工学の研究が進み、あらゆる生物の能力、その遺伝子を人体に取り込むことが可能となった。

その技術が国の研究機関から、民間事業でも商用利用の認可が下りた昨今。
「今が商機!」とばかりに各民間企業が独自の研究開発に乗り出した。

このラボも、ある企業に雇われて博士を中心に急ピッチで開発を行っている。

「擬態能力は確かに人気でそうですね。
 まだどこの会社もやってないはずです。」

そして博士はモニターを操作し、ある実験室の映像に切り替えた。

「この被験者にはネコの能力の付与したんですよ。」

「ネコ?・・高いところから着地する能力とかですか?」

博士はニヤリと笑い、マイクを使って被験者に指示を出した。

「ゴロゴロゴロゴロゴロ〜〜〜
  ゴロゴロゴロゴロゴロ〜〜〜」

喉を鳴らし、床に寝そべり悩ましい姿をみせた。

「あの甘えたときの喉を鳴らす仕草。
 ネコは若者の間で最も売れるコンテンツ。これなら人気爆発も間違いなしです!」

「はぁ・・喉を鳴らす能力、、、す、すごいと思います。」

博士は世界的な権威のある方だ。
が、しかし天才肌なだけにかなり世間の価値観からは逸脱している節がある。

ウマの能力を付与させて「ニンジン嫌いを克服できる能力」。
ゾウの能力のときは、鼻をポンプのように使い「シャワーが出せる能力」。
ナマケモノに至っては「長時間ぶら下がっていられる能力」、など。

ネコに関してもそう、実用に足りるようなヒットする能力ではなさそうだ。

連日の研究に「売れる商品」への着地点を確実に見失っていた。
特にお歳を召されているため「若者像」にかなりのズレがある。

その軌道修正を行うのが、私の仕事の中心を言っても過言ではない。


そんな迷走する中、ライバル企業は続々とヒット商品を売り出していた。

イヌ、ネコの能力「猫語・犬語がわかる能力」
ゴリラ・カンガルー「腕力・ジャンプ力」

などの定番の能力。

モグラの「穴を掘る能力」は土木作業関係で人気の能力となった。


ウチの会社はまだ、これといったヒット商品に恵まれていない。
このカメレオンの能力は初のヒット商品になるかもしれない、そう思った。


Chapter.2 鳥類の能力


「博士!今回のコンペはこのカメレオンで行きましょう!」

私は博士がまた変な方向に行かないように針路をここに決めた。
しかし、博士はいまいち納得していない様子で首をかしげた。

「空間擬態能力は素晴らしいが【若者】が必要としているか問題ですね。
 この新しい技術は若い世代に受け入れられなければヒットにはつながらないんですよ。」

そういうと、博士はある資料をみせてくれた。

「そこでこれです。これは今の若い世代で大ブーム間違いなしの能力。
 そう”タカ”の能力なんです!!」

”タカ”・・
鳥類の研究はまだ未知のところが多く「空を飛ぶ能力」などは、どの企業も喉から手がでるほど欲しい技術だった。

「タカ!?は、博士?・・タカの能力の付与に成功したんですか?
 だとしたらこれは世界的なニュースになりますよ!
 これが商品化できれば、ライバルとの遅れも取り戻せる!」

抜けているところも多々あるが、その才能は世界随一とも言われている。
やはりこの人についてきて間違いはなかった。

「う〜〜む、キミは勘違いしているようですが、空を飛べたところで【若者】の支持は得られないでしょうね。

論より証拠!この能力は【実際に味わう】ことでその価値がわかるもの。
どうです?キミ自身で”タカ”の能力を受けてみないですか?」

確かに「空を飛べる」能力だけならタカである必要はない。
鳥類ならもっと適切な種もいるはずだ。

博士がタカにこだわる理由・・・。

・・・そうか!「ホークアイ」か!

古来から「鷹の目」は千里眼といわれるほどだ。

人間の8倍もの視力、1キロ先の獲物を判別できるほどの能力だ。
アニメや映画でもスナイパー役の特殊能力「ホークアイ」の人気は高い。

これなら実用性はもちろん、確かに若者に与えるインパクトは大きい。

この「鷹の目」が付与されたら、きっと見える世界は一変するだろう。
博士のおっしゃる通り、この能力は傍からみて理解できるものではない。

実際、能力を得て体感して初めてその価値を味わえるものだ。

「わかりました!タカの能力を体験してみます!」

能力の付与は丸1日かかる、カプセル型の装置に入り微弱の電流を流し少しずつ遺伝子情報を更新していく。

大きな期待と少しの不安をかかえてカプセルへ入った。

Chapter.3 鷹の目


そして、翌日。

「気分はどうですかね?
 さ、さぁ!タカの能力の感想をきかせてください!」

カプセルからでると博士が前のめりで立っていた。

一日、カプセル内で眠っていたせいか、まだ意識も肝心の目の焦点も定まっていない。

背伸びをして目を数回パチパチする。徐々に視界が定まってきた。

ん?おかしいぞ?・・視力に変化はみられない。
いつも通りの慣れ親しんだ自分の視界だ。

何か特殊な環境下でなければこの「ホークアイ」の能力は発動しないのだろうか。

「博士、すみません。このホークアイはどんな状況で使えるんですか?
 室内じゃあまりその効果を実感できなさそうなのですが・・」

そういうと博士はけげんそうな顔をした。

「ホークアイ?鷹の目のことですか。
 キミは何を言っているのですか?そんなものでは若者のハートはゲットできませんよ。」


・・ホークアイ・・じゃない?じゃあなんなんだこの能力は・・

そのときに両手にカァーーと熱を感じだ。
手のひらから、じんわりと爪にかけてホカホカとした感覚だった。

慌てて手を見ると、なんと爪が獣のように伸びていた。
それは真っ赤な色をした獰猛な獣の爪だった。

「獣の爪・・これがタカの能力なんですか?」

「そうです!この爪こそが若者の注目を集める最終兵器!
 ここまで言えばキミもわかるでしょう。

 まさしく今!若者の間で大ブームなのがそう!

 ・・・激辛です!」

激辛・・・!?
まさかと思い、その真っ赤な獣の爪の先をおそるおそるかじる。

実際に味わう能力、その言葉の意味をやっと理解した。


・・その爪はまさしくトウガラシそのものだった。



橘鶫TsugumiTachibanaさんのこの企画に参加させていただきました。

グリフィンって実は「鷲獅子」って実際は「鷹」じゃないんですよね?
なので本来は「イーグル・アイ」が正しい(笑)

物語のオチを優先させる為に、強引に「鷹」と言い張って創作したことを深くお詫び致します。
鷹だったら「グリフィン」ではなく「ピポグリフ」がきっと正しいのでしょう。

橘鶫様、素敵な作品使わせていただきありがとうございました!



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