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オフィスひめの通信 23号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2012年7月

-病気はなぜ起こる? 動脈硬化の成り立ち-

 今回は活性酸素と動脈硬化の関係についてみてみましょう。
 傷が出来るとあっという間に血液が固まって出血が止まります。一方、血管内で血栓がどんどん出来たら大変ですね。正常な血小板と血管内皮細胞(血流に接している細胞)の間では血栓を作る働きと血栓を予防したり溶かしたりする力がほぼ拮抗して大きな血栓が出来ないようになっています。血栓が出来て血管が詰まる時はこの拮抗が破られた時!多くは何らかの傷が原因となることが多いのです。
 少し前までは、血液中のコレステロールが高いと動脈の内膜にコレステロールがたまって動脈硬化が起こるという考え方が主流でした。したがって動脈硬化の予防もコレステロールを下げることに主眼が置かれていました。ところが正常なコレステロールは内皮細胞をすり抜けて動脈壁にたまることはありません。動脈硬化が起こるにはリポ蛋白(コレステロール運搬体)が変形して性質が変わっていること、血管内皮細胞がはがれたり傷ついたりして機能が低下していることが条件となります。


図「からだサポート研究所 アテローム硬化とAGEs」より 一部改変

 リポ蛋白を変形させたり、内皮細胞を傷つけたりする最も大きな要因は何でしょう?活性酸素ですね。したがって動脈硬化予防の第一戦略は活性酸素を消去することです。
 動脈硬化の予防には内皮細胞の細胞膜の性質も大切です。血小板からは凝集を促進するトロンボキサンA2という物質が出ます。トロンボキサンA2は細胞膜にあるアラキドン酸という脂肪鎖から必要に応じて瞬時に合成されます。一方血管の内皮細胞からは血液凝固を防ぐプロスタグランジンI2という物質が出ます。面白いことにプロスタグランジンI2もアラキドン酸から出来ます。細胞膜にEPAという脂質の割合が多いとトロンボキサンA2の代わりにトロンボキサンA3が、プロスタグランジンI2の代わりにプロスタグランジンI3が出来ます。トロンボキサンA3は血液凝固作用が弱いので血栓が出来にくい状態を作り出すことが出来るのです。動脈硬化予防の第二の戦略は細胞膜の脂質組成を変えること、具体的にはEPAなどのω3系の脂質の摂取量を増やすことが大切です。
 抗酸化ビタミンとω3系の脂質で皆さんもぜひ健康長寿を目指してください。


暮らしに役立つ栄養療法-糖質制限の普及 更にその先を目指して-

 糖質制限食が糖尿病治療の一つの選択肢として公式に認められました。糖尿病学会に否定され続けた年月を考えると隔世の感があります。当クリニックでも糖質制限食の指導を希望されて訪れる患者さんがかなりの勢いで増えています。
 普及に伴って心配されることがいくつかあります。例えば「糖質制限食」という言葉が独り歩きして糖質以外なら何でも食べてよいというような誤った食事療法が広まると、よい結果が出なかった時に「糖質制限はだめだ」と評価されてしまうこと。糖質制限を行う際には最低限次のことにも注意しましょう。

  • 加工食品や揚げ物には糖質がたくさん含まれています。摂りすぎに注意しましょう。

  • 野菜や果物には糖質の多いものもあります。特にジュースは糖分の吸収が早いので注意しましょう。

  • 動物性たんぱく質の割合を増やしましょう。植物性たんぱく質(大豆製品など)だけでは必要なアミノ酸が摂れません。

  • 摂る油脂の種類に気を配りましょう。ω6系を減らしω3系を増やしましょう。

  • 面倒なカロリー計算は不要!でも太っている人はカロリー過多に注意!痩せている人はカロリー不足に注意しましょう。

 もともとたくさん食べられない方、消化しにくい体質の方が糖質制限食を始めるとカロリー不足になりがちです。穀物が減った分のカロリーはたんぱく質や脂質でしっかり摂らないと体のたんぱく質が壊れてしまいます。これでは健康な体は作れませんね。
もともと食事療法は個別の事情や体質に合わせた調節が大切です。一律の指導に従うのではなく、結果を見てやり方を修正し自分に最も適した食事療法を身に付けて下さい。


マグネシウムの話-カルシウムとマグネシウムは兄弟-

 前回まではカルシウムの働きや調節機構について説明してきました。今回はマグネシウムのお話です。
 体内のイオンの多くは影響し合って働くペアのイオンを持っています。亜鉛と銅、カリウムとナトリウムなどが一例です。これらのイオンはバランスをとって互いを牽制しあったり働きを調節したりしているのでブラザーイオンと言われています。
 カルシウムのブラザーイオンに当たるのはマグネシウムです。カルシウムの細胞内の濃度の調節が血管の収縮やホルモンの調節に関わっていることは前回お話ししましたね。マグネシウムにはカルシウムの細胞外へのくみ出しを促進したり、カルシウムチャネルから細胞内に流入するカルシウム量を調節したりする働きがあります。カルシウムにとってマグネシウムはゲートキーパーの役割があるのです。

オーソモレキュラーjpより

 マグネシウムは筋肉内に多く含まれていて、血液中の濃度が下がるとすぐに補充されるのでなかなか欠乏に気づきません。カルシウムと同様、ストレスや高血糖の時には尿中の排泄が増えて体内のマグネシウム量はかなり減っています。カルシウムの重要性はよく知られているのでカルシウムの摂取を増やす方は多いのですが、カルシウム摂取量だけを増やしてしまうとカルシウム、マグネシウムのバランスが極端に悪くなります。摂取比は1:1が理想的ではないかと栄養医学では考えます。
 マグネシウム不足で起こる症状は疲労感、こむらがえり、意欲減退、食欲不振、不整脈など多彩で漠然としています。蟻が這っているような神経痛を訴える方もいます。また心筋梗塞や脳梗塞になった時にマグネシウム不足の人はより重い障害が出ることが多いようです。虚血の場所に血液が再び流れるようになった時、血液中のマグネシウム濃度が下がるのでその影響がより出やすいからと考えられています。
 日頃注目されることの少ないマグネシウムですがカルシウムの兄弟分として大切にしてあげてくださいね。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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