
【読書】探偵が早すぎる〜事件が起きてからじゃ遅すぎる!
■探偵が早すぎる
■作:井上真偽
ある日突然、大金を相続し、資産家となってしまった女子高生・一華と、彼女の命を狙う親族たち。
次々と仕掛けられる殺害の罠を前に、雇われたのは犯罪防御率100%の探偵でーー
*
ドラマにもなったミステリ小説。
タイトルだけは知ってたのですが、今回初めて読んで、その価値観と世界観に思わず引き込まれてしまいました。
この物語の最大の魅力は、『探偵の二律背反』が存在しないというという点。
古くから、推理小説とは推理すべき謎の提示ーー概ね被害者と加害者が存在してこそ成立する。
でもこの物語においては、すべての犯罪計画が未遂で終わるし、その終わらせ方が秀逸!
とにかく面白いのひとこと。
軽妙な語り口とコメディ感を漂わせつつ、その裏側での探偵無双が小気味良いんですよ。
何が起きようとも、表側にいる彼女に裏方の存在を感知させない手腕と展開。
どれほど狡猾に裏側で策が練られようとも、守られるべき令嬢がいる『表側』では『何も起きていない』という、見る視点で変わるところも小説ならではの構成。
狙われるお嬢様こと一華の、常識人としてのツッコミと善良さに好感を持ちつつ。
謎めいた家政婦・橋田と、お嬢様こと一華のやりとりといったコミカルさと、なんとも言えない信頼にも似た関係性にほっこりしつつ。
家政婦や一華の友人、親族たち、そして探偵という個性的かつ憎めないキャラ造形と、過不足ない因果応報っぷりは読んでいて心地よいのもポイント。
カエサルのものはカエサルに。
あるいは、目には目を。
こんなにも清々しい聖書やハンムラビ法典の活用法は初めてかもしれないです。
この作家さんの別の話を読んでみたくなる作品でした。