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★誕生日の物語#32
湖上に聳えるその氷城では、至る所に閉じ込められた魂の欠片がかすかな瞬きを繰り返しては切ないほどに美しく夜闇を彩っていた。
炎月のさなかでも決してとけることのない永久氷壁を前に、私は一度だけ瞑目してから、そっと足を踏み入れた。
主を失った城内は凍えた静寂に満たされ、生命の熱を一切感じることはなかった。
千億の夜を超えてなお瘴気は晴れず、生者は決して近づけない死の領域だといったのは誰だったのか。
けれど、私はここを知っている。
一度も来たことのない場所でありながら迷うことなく王の間へと辿りつけてしまう、その理由を、重厚な扉を経た先、空の玉座を目にした瞬間に理解する。
「……ああ、ずいぶんと待たせてしまったのね」
導かれるままに玉座へ収まれば、瞬くだけの光が漣を起こし、波紋を広げて、熱を帯びる。
「あなたたちの忠義、確かに受け取ったわ」
その言葉が最後の引き金だった。
城に囚われていた魂たちが祝福とともに解き放たれ、同時に、私の頭上には不可視の冠が授けられる。
「今度は私が、この記憶を語り、繋いでいく。忘却など決して赦しはしないから」
かつて滅びた国の王として、その魂を継ぐものとして、静かに強く己の使命に誓いを立てた。
*誕生石・誕生日花*
トパゾライト:確実な吉報
ガーネット:秘めた情熱・真実・勝利・友愛
フクジュソウ: 幸せを招く・永久の幸福・悲しき思い出
ウメ: 高潔・忠実・忍耐
Copyright RIN
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▶︎誕生日の物語とは?
あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開していきます。