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非財務資本と株式価値〜PBR1倍と10倍を分かつもの〜

昨今、「非財務資本」という言葉が注目されています。

東洋経済(2022年1月22日号)の表現を借りれば、「非財務資本が生死を分ける」。同紙は、SONYとAppleの簿価純資産は同じでも時価総額が18倍違う(当時)ことを引き合いに出し、この差は非財務資本によるものである、と説きます。

では、その「非財務資本」とは何なのか、私なりの解釈を綴っていきます。

以下には会計用語が出てきますが、苦手な方もぜひ最後まで読んでいただければ。今、ファイナンスと人事を切り離す方が難しい時代になった、と考えています。

【略称一覧】
(会計用語を日本語で言うことは少ないので、基本英語表記しています) 
損益計算書=PL、貸借対照表=BS、簿価純資産=BV、時価純資産=EqV、

現金100億円=簿価純資産100億円=時価総額100億円?

ここで質問です。

「Cash100億円、BV100億円」の会社が「今」誕生したとします。そして「今」、この会社に100億円超の価値がつくことがあり得るでしょうか?

答えはYES、です。が、その会社のBSにはCashが100億円載っているだけです。もしその会社を100億円以上の価格をつける人がいれば、何に対して価値を見ているのでしょうか?

例えば、①創業者の能力。他にも、②人脈、③アイデア、④スタッフ間の文化、、、いくらでもあります。会社が成長してくると、ここに⑤ブランド、⑥顧客リスト、、、等々。

これを会計的に言うと「オフバランス資産」、今で言う「非財務資本」、ということになります。

足し算じゃなくて、掛け算

会計的な考え方をするならば、「BV+オフバランス資産=EqV」となります。しかし、私は「足し算ではなく、掛け算」だと考えます。

まずは「目に見える資産(on balance)」が起点になります。しかし、そこからCashを創出する過程で、必ず「目に見えない要素(off balance)」を経由します。

つまり、非財務資本は「係数(Coefficient)」だ、というのが私の解釈です。言葉では分かりづらいと思いますので、以下の通り図解してみました。

(分かりやすさのため、負債を全額他人資本と設定しています)

言い換えると、「どれだけ優れた資産を持っていても、オフバランス要素の質が低ければ、会社の価値は上がりづらい。それどころか、毀損されこそする」と言うことです。

毀損されている会社、それこそがまさにPBRが1倍を切っている会社、ということになります。

(解説)PBRとは(ご存じの方は読み飛ばしてください)

PBR=Price Book-Value Ratio。計算式はEqV/BV。今BS上に蓄えている「資本」を、株式市場はどの程度に評価されていますか、という指標です。

これが1倍を切っているというのはどういう状況か。仮にBS上のAssetが夫々今日の価値で正確に評価されているのであれば、「あなたの会社はAssetの価値を毀損させていく会社なので、今すぐ清算し、Assetを全てCashに換えて、株主に返してください」という状況です。

つまりは、会社としての価値を認めてもらえてない、ということです。

ですが、現在PBRが1.0を切っている会社は、プライム市場において50%近くに上っています(!)。グローバルで見ても、日本企業のPBRは異様に低い。

PBRが1.0を下回る、ということは「非財務資本が足し算ではなく掛け算であるという前提に立たないと説明できない」、と私は考えています。

非財務資本の正体

私は、非財務資本のほぼ全ては「企業文化」に繋がっていると信じています。

AssetからCashを産む過程で必ず人が介在します。全自動倉庫のECも、SaaSも、必ずそう。そして、その「人」たちの行動や成果は全て、企業文化に紐づいています。

どれだけ優秀な人でも、腐った企業文化の会社にいれば、パフォーマンスは落ちます。また、一つの素敵な文化で統一された会社の放つエネルギーはとんでもないものがあります(企業文化に関してのより詳しい内容は、前回のNote参照)

では、その企業文化を司るものは何か。前回も触れましたが、それこそがPurpose・Mission・Vision・Value・Code of Conduct、です。

PMVVCCの質が下がる→PBRが下がる

「当たり前」では人の魂は震えない

PMVVCCを「言葉にする」のは大変です。社長の想いを言語化し、それを皆で研ぎ澄ませ、伝わりやすい言葉に変え、、、一文字にありったけの想いを込めて作っていきます。

ですが、ベンチャーにおいては、その素地はもうあるのです。やること、やれることは限られている。やりたいことも明確。なので、それを言語化するプロセスは大変ですが、その素地は元々ある、それこそがベンチャーです。

これが、会社が大きくなってくると途端に難しくなります。何故なら、やること、やれることが増えてしまい、全てに共通するものを作ろうとすると非常に「総花的」になってしまうから

例えば、こんなPMVVCCを見たことはないでしょうか。

公正で健全な事業活動をする
活力に溢れた企業風土を作る
環境に十分に配慮する
円滑なコミュニケーションを通じ、チームワークと総合力を発揮する …etc

これを読んで、あなたの魂は震えるでしょうか?スクロールした私は、もう内容を覚えていません。それくらい、「当たり前」のことが書いてあります。

「当たり前」のことは、PMVとして北極星の役割を果たしませんし、VCCとして日々の行動にも反映されない。究極、意味が無いのです。

ベンチャーがベンチャーでなくなる日

今、セルソースのPBRは20倍程度です。他にも、PBRが5倍、10倍のベンチャーさんは沢山あります。一方、過去そういった会社たちが今PBR1倍前後を彷徨っているケースも沢山あります。

「PBR1倍の引力」に吸い込まれるのはいつなのか。私は、それは

・PMVに「やらないこと」が明記されず、総花的になった日
・VCCが浸透されなくなった日

だと考えています。つまり、

いつまでもPMVVCCを研ぎ澄ませ、全力を持ってその浸透を図り続けられるかどうか、が「突き抜けベンチャー」のままでいられるかどうかの分水嶺であり、必要条件である

これが、私の考える「非財務資本と株式価値の関係」から派生した、一つの結論です。

じゃあ、セルソースは?

セルソースは、経営企画部の下にHR戦略チーム、という組織があります。私は人事の専門家ではありませんが、ここにそういった方々に入っていただきながら、ファイナンスを出自とする私が経営企画部長を務めています。

つまり、まさに「ファイナンス✖️人事」を体現する組織構成になっています。

うちの社長がそこまで考えてこの形にしたのか分かっていませんが笑、非常に理に適っていると思います(このNoteを書いていて、改めて思いました)。

この部が発足した4月以降、「より研ぎ澄まされた人事制度、仕組み、仕掛け」を実現するべく、人事の皆様と一緒に考えています。

企業文化は、会社が大きくなればなるほど維持が難しい。前回のNoteで書いた通りです。

ですが、セルソースが大企業になった時も未だ素敵な文化があり、ステークホルダーの皆様から「こいつらなら何かやってくれそう」と思っていただける、従業員の笑顔も時価総額も最高な会社を作っていきたいです。

そして、その実現に向けて一緒にTryしてくれる方がおられたら、いつでもご連絡ください!

では、また来週。

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