木漏れ日のように優しく世界を見守るまなざし。
苔玉に霧吹きすること。
目覚まし時計なしで起きること。
人とあまり話さない仕事を
探そうとしていたこと。
ビルの合間に佇む神社の
木漏れ日の下で、パンを食べたこと。
日曜日にトイレ掃除をすること。
自分でも思い出すことがない断片的な記憶が
映画を観ることで蘇ることがあります。
新年の最初に観た映画
「パーフェクトデイズ」
ヴィム・ヴェンダース監督
役所広司さん主演の映画です。
主人公は公衆トイレを
清掃する仕事をしています。
早朝、彼は決まった時間に目を覚まして
歯を磨き、苔玉に水をやり、
棚に均等に並べられた財布や鍵を
手に取り、玄関を出ます。
所作一つ一つに、無駄がない
それは何百回も繰り返してきた
ルーティンのように。
自販機で、缶コーヒーを買って
車に乗り込むと、カセットテープの音楽が
朝の街に流れはじめます。
トイレ清掃のお仕事
適当に仕事をこなすことを
「やっつけ仕事」と言うけれど
彼はその対極のように公衆トイレを
隅々まで磨き上げます。
ただ単に汚れを落とすだけでなくて、
空間全体を浄化するかのような
丁寧な仕事ぶり。
どこか神聖で、敬虔なものを感じさせます。
トイレに人がやって来た気配を感じると
清掃を中断して、さっとトイレを離れます。
すべての動作に意味があって
ルーティンだけど、機械的にしていなくて
体温を感じる、仕事への姿勢に
感銘を受けました。
それは、他に仕事がなくて
仕方なく選んだのではなくて
自分の意志で、清掃員を
選んだのだと感じるほどに。
登場する公衆トイレの
1つ1つがアート。
著名なデザイナーや建築家が手掛けた
そうですが、美しいです。
機能的で洗練されていて
丸太、角材、ガラス、ライトアップ、
イカ、階段、影・・
それぞれにモチーフみたいなのがあって
美術館を探訪してるみたい。
ノスタルジックでアナログ感
デジタル全盛のなかでは
「発信しないことは、存在しないと同じ」と
いうけれど。
主人公はデジタルから
切り離されたような生活を送っています。
部屋の中にはスマホもテレビもなくて
生活家電もありません。
目覚まし時計さえも。
食事も、洗濯も、お風呂も家の外。
ゴミもほとんど出なそう。
テーブルの上は、苔玉の居住スペースです。
精神的な豊かさ
家電はないけれど
お金がなくて貧しいでもなくて
こだわる部分には、とことんこだわる。
それは掃除の仕事のように
整然とした部屋だったり
本や音楽、写真、自然、人。
日々の繰り返しの
刹那に美しさを見い出す。
繰り返しに見えて、
どれひとつ同じ日はない。
見終わった後はきっと
本や音楽の幅が広がります。
見えないものが
見えるように。
私は幸田文さんの本を
読みたくなりました。
主人公は一見孤独に見えるのですが
いくつものサードプレイスのような
場所と自分軸、精神的な豊かさを
持っているように感じます。
過去に心に深い傷を負ったのかなって
感じるのだけれど
世間が彼を見つめるまなざしは
ときに冷たくもあるけれど
世界を見つめるまなざしは
木漏れ日のように優しくて。
一方で三食とも外食で偏った食生活で
病気にならないのかなとか。
真冬や真夏は、家電なしで
大丈夫?生活できるのかなとか。
どこか理想郷のような
ファンタジーを感じる場面もあります。
映画『すばらしき世界』との対比
同じく役所広司さん主演の映画
『すばらしき世界』と
対比しながら観ました。
きっと2作品を観た人は
同じように感じますよね。
「こうであってほしい」と
「こうであってほしくない」が
交錯するように。
スモールワールド
きっと世界にはいくつかの
スモールワールドがある。
それぞれのスモールワールドには
隔たりがあって普段、交わることは少ない。
でもどのスモールワールドの住人も
トイレは共通している。
映画を見終えたあとnoteを開くと
「お陰様」という言葉に出会いました。
お陰様で今日を迎えられました。
最後までお読みいただき
ありがとうございます。
みなさんの毎日が
素晴らしいものでありますように。
年末年始のたくさんのコメント
本当にありがとうございました。
パーフェクトワールドはないかもしれないけれど
パーフェクト・デイズはある。
そんな毎日を積み重ねたら。
久々の映画の感想記事です。
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