12歳の肖像 ~ ヘルマンとふたりのハンス
(1)ヘルマン・ヘッセ、12歳の肖像
一時期、19世紀の子供たちの白黒写真を集めてた。
ヘルマン・ヘッセの子ども時代の写真もなかなか良い。
左は12歳、中央は3~4歳、家族の写真では10歳。
12歳の写真を元に描いてみた。
エリート校入学前の記念撮影らしい。
頭良さそう。なまいきそう。キレッキレ。ちょっとかなしそう。
猛勉強して入学したのに、
「ぼくは詩人以外のなにものにもなりたくない」と言いだして、
ドロップアウト。
親や周りのおとなは眉をひそめる。あんないい学校に入って、いい将来を袖にして、もったいないって言うだろう。けど、
「詩人」の代わりに「作家」「絵描き」「アーティスト」「ギター弾き」と入れると、なんだかロックだね。ぐっと自分に近くなる。
(2)『車輪の下』の主人公のモデルは、弟?
(※ネタバレ注意※ ヘッセの小説『車輪の下』)
若い時のヘッセの小説は、主人公が死ぬ話ばかりだ。
だから「車輪の下」の主人公ハンスがとつぜん死んでも、驚かない。
驚かないけど、どうして主人公を『ハンス』にしたのだろう?
これ、弟の名前じゃないか。
寓話的な親殺しや、再生のための自分殺しならまだしも、
5歳も年下の弟と、同じ名前・似た性格の主人公を死なせるってひどくない??
弟のハンス・ヘッセは、兄と同じ学校へ進学した。
兄は問題児だったが、弟はフツーに卒業して、就職・結婚した。
ヘッセ家の写真を見てると、兄弟顔はそっくりなのに、温度差がスゴイ。
攻撃的な兄の視線。お父さんも鋭い。弟は気苦労が多そう。
『逆らわなければいいのに。
何も逆らわずに、4年間黙ってやりすごせば、卒業できるんだ。』
-車輪の下、主人公ハンスのセリフ
(3)弟『ハンスの思い出』
芸術と自己主張の塊、兄のヘルマン・ヘッセ。
自分の事は語らない、保守的な生活を営む弟ハンス・ヘッセ。
ふたりの人生は違いすぎる。おとなになるにつれて、兄弟は疎遠になった。
しかし『車輪の下』から30年経ったある日、弟はとつぜん死んでしまった。
わたしは、小説でハンスが死ぬのは驚かなかったが、
この事実を知ったとき、とても驚いた。
『車輪の下』のハンスの死と、なにか関連性があるのだろうか?
兄のヘルマン・ヘッセにとっての弟ハンスは、幼少時の記憶しかない。
だからヘッセが、大人になった弟を語る時、伝聞に想像が入る。
語っているうちにだんだん、自分の中のもうひとりの人格、30年前に書いた『車輪の下』の主人公ハンスが、混じってしまう気がする。
大人たちに好かれ、社会に従順であろうとした素朴なハンス。
ハンス・ヘッセは陽気な人で、音楽と子どもとゲームが好き。
兄と同じように芸術家気質を持ち、
それゆえ事務や商社の仕事には向いていなかったようだ。
しかし、向いてなくても仕事は辞めない。(兄は何度も職場を逃亡)。
家族を抱えて失業することを恐れていた。(兄は家族を捨てて放浪)。
家族や同僚の前でも自分は語らない。(兄は自分語りな文筆家)。
将来の選択肢はたくさんあったはずなのに、小説でも、30年後の現実でも、
ヘルマンは創作を続けて生き、
ハンスは死んでしまった。
ヘルマンが、学生時代に反省して、ハンス的な人生を歩んでいたら…?
ハンスがもし、学生時代に目覚めて、ヘルマン的人生を選んでいたら?
80年も前の人を想って。空想にふける。
ハンス・ヘッセとは、どんな人だったんだろう?
(4)ヘッセの手紙
『世の中に美しいものがたくさんあると思うと
自分は死ねなかった。
だから君も、死ぬには美しすぎるものが、
人生に多々あるという事を覚えておいてほしい。』
ヘッセの言葉の中で、一番好きなのがこれ。
でも、内容は比喩的で、オーバーに言ってるのかと思ってた。
今回調べてみたら、『車輪の下』のハンスと同じように、ヘッセは退学後、森で自殺未遂してる。もうね、全然比喩じゃなかったよ。
情景を想像する。
6月、ドイツの黒い森で、
買ったばかりのピストルを持って、青ざめている14歳の少年。
風が吹き、差し込む光、空、鳥の声、
樹、新緑、水の反射、小さな花と虫、
周囲の美しさに心奪われ、我に返ったのかと思うと、可笑しい。
生きてれば、嬉しいし、死ねば悲しい。
死ななくてよかった。それだけで、ありがとうと言いたい気持ち。
わがままな苦労人、ヒッピーでロックなヘッセ、大好きだ。
(5)ハンスの夏休み ~ 『出発点』
そんなことを考えながら、
今夏、『ハンスの夏休み』という話を描きました。
東京都お茶の水駅~湯島にできた画廊のOPEN企画展に参加します。
原画と一緒に本も置かせてもらう予定です。
★画廊『出発点』http://shuppatsuten.jp
★2020年11月3日(火)~8日(日)
★しゅっぱつ展 ~絵本で旅しよう~ 絵本作家3人展
詳細は、また追ってお知らせします。
この記事を最後まで読んでくださって、ありがとうございました!(*‘∀‘)