夢、催眠などによる非常に古い(「原始的な」)連続
ジェンドリンは自身の様々な著作において、「夢の中・催眠状態」、「日常の体験」、「フォーカシング体験」の3つの違いを論じています。しかし、この違いについて、それぞれの著作において異なる用語を当てています。そこで、そうした用語どうしの対応関係を私は整理することを試みました。
『プロセスモデル』の「第VI章B: 行動空間の発展」の中に、「d)ピラミッド化」という節があり、非常に古い (「原始的な」) 連続について論じられています。
夢や催眠などの中での体験について、上記の文章が彼の先行著作の中でどのように書かれてきたかを振り返り、それぞれの著作で使われている用語どうしの対応関係を整理してみたいと思います。
まず、「原始的な」連続は、「人格変化の一理論」 (Gendlin, 1964; ジェンドリン, 1966; 1999) の中の「25. 極端に構造拘束的な体験過程の様式 (精神病、夢、催眠、CO2、LSD、刺激遮断)」の節で初めて言及されました。しかし、当時の著作では、そのような体験は「暗黙的機能の欠如」として否定的にしか論じられていませんでした。
次に、「原始的な」連続は、「フォーカシングにおけるイメージ、身体、空間」 (Gendlin et al., 1984) において初めて積極的に考察されました。
その2年後、著書『夢とフォーカシング』 (Gendlin, 1986; ジェンドリン, 1988) の中の「生きている身体と夢の理論」では、私たちの体験は「未完成、完成、完成以上」 (Gendlin, 1986, pp. 153–4; ジェンドリン, 1988, pp. 185-6) [*2] に分類され、こうした体験は「未完成」と位置づけられました。
「未完成」な出来事は、日常の体験やすでにフェルトセンスが形成されている体験とは異なりますが、「形成されるものは、ちょうど必要とするもの、生きられなかったり欠けていたりしたものだと私たちは理解することができる」(Gendlin, 1986, p.155; ジェンドリン, 1988, p. 187)とされ、その独自の意味が明示的に語られるようになりました。
上述した彼の著作の変遷を振り返ると、それぞれの著作で使用されている用語は、下記の表のように対応します。
注
*1) 上記の引用(Gendlin, 1986)にある「いくつかの通常の関連が入り込んでいない」とは、『体験過程と意味の創造』における7つの機能関係の中の「関連」という意味で使われていることは明らかでしょう。
*2) 原語は “unfinished, finished, and more than finished” であり、『夢とフォーカシング』 (ジェンドリン, 1988) において「未完了・完了・完了以上」と訳されていました。しかし、「未完了・完了」は、『体験過程と心理療法』 (ジェンドリン, 1988) において“incomplete, complete” の訳語としてすでに採用され、普及しています。両者の指し示す範囲は異なるので、混同を避けるためにここでは “unfinished, finished” の方に「未完成・完成」の訳語を割り当てました。
文献
Gendlin, E. T. (1962/1997). Experiencing and the creation of meaning: a philosophical and psychological approach to the subjective (Paper ed.). Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン; 筒井健雄 [訳] (1993). 体験過程と意味の創造 ぶっく東京.
Gendlin, E.T. (1964). A theory of personality change. In P. Worchel & D. Byrne (eds.), Personality change (pp. 100–48). John Wiley & Sons. ユージン・T・ジェンドリン; 村瀬孝雄 [訳] (1966). 人格変化の一理論 体験過程と心理療法 (pp. 39-157) 牧書店. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 村瀬孝雄・池見陽 [訳] (1999). 人格変化の一理論 セラピープロセスの小さな一歩:フォーカシングからの人間理解 (pp. 165–231) 金剛出版.
Gendlin, E.T. (1986). Let your body interpret your dreams. Chiron. ユージン・T・ジェンドリン; 村山正治 [訳] (1988). 夢とフォーカシング:からだによる夢解釈 福村出版.
Gendlin, E.T. (1997/2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.
Gendlin, E.T., Grindler, D. & McGuire, M. (1984). Imagery, body, and space in focusing. In A.A. Sheikh (Ed.), Imagination and healing (pp. 259–86). Baywood.