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未来を創る人材育成と組織開発:NTTコミュニケーションズの挑戦:Aoba-BBTリカレントサミット2024大原侑也氏、政元竜彦氏

 Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」の2024年版。7月26日に、可能性をひらく、NTTコミュニケーションズの挑戦
~個々の力を引き出し、未来を創る人材・組織開発~ というテーマにて開かれました。登壇者は大原侑也氏(NTTコミュニケーションズ株式会社、人材・組織開発部門長)と政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)でした。

https://www.bbt757.com/business/recurrent-summit2024spring_summer/

 現代の急速な技術革新やAIの進展によって、企業はどのようにして人材を育成し、将来の経営リーダーを養成するかといった課題に対する新たなアプローチが求められていることが示されました。以下に、それぞれの講演の内容を振り返った上で、人事としてどんなことができるのか、

大原裕也氏のお話

 大原氏は、ICT活用やDX推進、ITコンサルティングを長年手がけてきた経験を持ち、現在はヒューマンリソース部門で人材組織開発を担当しています。講演テーマは、「NTTコミュニケーションズの挑戦と人材組織開発」であり、同社が取り組んでいる最新の人材育成施策や組織変革について詳しく説明しました。

ジョブ型雇用への移行の重要性

 これまでの「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への移行が重要であると述べました。従来の雇用モデルでは、企業がまずビジネスを作り、それに合わせて人材を配置して強化するというアプローチが取られてきましたが、デジタル化やAIの発展により、今やビジネスを生み出す前提として人材が先に存在し、その人材が新しいビジネスをクリエイトしていく時代になったと説明しています。そのため、NTTコミュニケーションズでは「ジョブ型雇用」を導入し、社員一人ひとりが自律的にキャリアを形成し、成長できる環境を整えています。

キャリア自律の重要性

 これからの時代には、社員が自分自身のキャリアを自ら考え、計画し、専門性を高めていくことが不可欠であると述べています。そのためには、社員一人ひとりが多様なキャリア選択肢を持ち、やりがいを感じながら働き続けられる仕組みを提供することが重要です。NTTコミュニケーションズでは、「ブーストパーク」という未来志向のキャリア支援プラットフォームを開発し、社員が自分の将来像を具体的に描き、そのために必要なスキルや経験を積むことができるようサポートしています。このプラットフォームでは、社員が自身の未来を自由に変更できるような柔軟なシステムが提供されており、会社と個人が共に成長することを目指しています。

ダイバーシティとインクルージョンの重要性

 同社では、社員の多様なバックグラウンドやスキルを最大限に活かしながら、個々が自分らしく働ける環境作りを目指しています。単に多様性を取り入れるだけでなく、社員が自分らしさを保ちながらも組織に貢献し、成長できる「インクルージョン」を推進しています。最近では公平性を意味する「エクイティ」という概念も取り入れ、多様な社員がそれぞれの背景や能力に応じて、必要な支援や機会を受けられる体制を整備しています。このような多様性を重視した取り組みにより、組織の生産性や創造力が飛躍的に向上し、社員一人ひとりが持つ可能性を最大限に引き出すことができるようになっています。

組織開発

 社員の成長と会社の成長が同時に進むような環境作りを目指しています。社員が心理的安全性を感じながら、建設的な議論を行い、新しいアイデアやイノベーションを生み出す文化を醸成することが組織の競争力強化につながると考えています。大原氏は、特に組織開発においては、ダイバーシティ、キャリア自律、エクイティなどの取り組みが、組織のマネジメント力を向上させるための重要な要素であると述べています。

次世代経営人材の育成

 将来の経営リーダーを育成するための具体的なプログラムを実施しており、日本国内だけでなく、世界でも活躍できる経営人材の発掘と育成を目指しています。このプログラムでは、経営者に求められるスキルやビジョン、リーダーシップを若い段階から学ばせることで、将来のリーダーとしての成長を促進しています。また、社員が自己のキャリアビジョンを持ち、それを実現するために必要なスキルや経験を積むための機会を提供することで、会社全体の競争力を高めています。

政元竜彦氏のお話

 政元氏「サイバー社会で活躍できる人材の育成」というテーマで講演を行い、特にAI時代における人材育成の重要性を指摘しました。彼は、現代の企業にとって最も重要な人材は、「構想力」や「イノベーション」を発揮できる人材であり、特にAIに代替されない人間ならではの能力が求められると述べました。

 AIや自動化技術が進展する中で、多くのホワイトカラー業務がAIによって代替される傾向にあり、特にルーチンワークや決まった答えがある業務は今後ますます自動化されることが予想されています。そのため、企業にとって重要なのは、既存の知識やスキルを持つだけでなく、新たな価値を創造できる人材であり、特にゼロから1を生み出す能力が求められています。

構想力

 未来の社会や産業の動向を予測し、その中で発生する課題を解決するためのアイデアやビジョンを生み出す力です。政元氏は、AIにはこのような創造的な思考や新しいアイデアを生み出す能力がないため、これこそが人間にしかできない価値であると強調しました。そのため、Aoba-BBTではリベラルアーツ教育やイノベーション思考を重視した教育プログラムを提供し、学生やビジネスパーソンが多角的な視点から物事を考え、新しいアイデアを生み出すためのトレーニングを行っています。

自分で考える力

  従来の教育では、正解が決まっている問題に対して答えを覚えることが重視されていましたが、これからの時代には、答えが存在しない問題に対して自分で考え、答えを導き出す力が必要です。政元氏は、このような力を養うためには、答えのない問題に取り組む教育が必要であり、Aoba-BBTではそれを実現するための教育プログラムを提供していると述べました。

イノベーションを生み出す力

 政元氏は、AI時代においてイノベーションを起こすためには、従来の発想にとらわれず、新しい視点で物事を考える力が求められると述べています。このため、Aoba-BBTでは、イノベーションを促進するためのさまざまなトレーニングを提供し、学生やビジネスパーソンが新しいアイデアを生み出すためのスキルを習得できるよう支援しています。

講演まとめ

 大原氏と政元氏の講演はいずれも、AI時代における「人間ならではの能力の発揮」に焦点を当てており、特に構想力や創造力、イノベーションが企業や社会の未来を切り開くために欠かせない要素であると結論づけています。また、個々のキャリア自律やダイバーシティの推進、次世代経営人材の育成といった具体的な施策が、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するために重要であることが強調されました。

 最後に、大原氏と政元氏は、急速に変化する現代社会において、人材育成と組織開発は切り離せないものであり、これらを両輪として組織全体のシナジーを最大化することが必要であると述べました。今回のリカレントサミットを通じて、参加者には未来を見据えた人材育成の重要性が強く伝えられ、NTTコミュニケーションズやAoba-BBTが行っている具体的な取り組みが紹介されることで、今後の企業戦略や組織開発に役立つ貴重な知見が提供されました。大変参考になる内容でした。

人事の視点から考えること

 大原氏と政元氏が示したテーマ、特にNTTコミュニケーションズにおける自律的なキャリア形成やダイバーシティ、次世代経営人材の育成に関する取り組みは、今後の人事戦略に多くの示唆を与えるものでした。これを踏まえ、企業の人事部門として考えるべきポイントを考察してみたと思います。

1. キャリア自律の促進と支援の充実

 大原氏の講演の中で強調された「自律的キャリア形成」は、現代の企業が社員に対してどのようにアプローチするべきかを考える上で重要な概念です。従来の日本企業におけるキャリア形成は、トップダウン的に与えられた職務やポジションに基づいて進められるケースが多く、社員が自主的にキャリアを築く機会は限られていました。しかし、技術の進化やビジネス環境の変化が激しい現代において、社員一人ひとりが自らのキャリアをデザインし、それに応じたスキルや知識を習得していく「キャリア自律」の概念がますます重要となっています。

 NTTコミュニケーションズが採用した「ブーストパーク」のような、社員が将来的な目標を設定し、それに向けての学習や経験の機会を提供するシステムは、キャリア自律を支援する革新的な取り組みの一例でしょう。
 人事部門としては、このようなツールやシステムを整備するだけでなく、それを活用して社員が自己成長を促進できる環境を作り上げることが求められます。例えば、キャリアカウンセリングやメンター制度を通じて、社員が定期的に自らのキャリア目標を見直し、達成に向けた行動計画を立てるサポートを行うことが考えられます。これにより、社員は組織内での成長を自らの手で実現できるようになり、企業全体としても社員一人ひとりの成長が企業成長に寄与するという相乗効果が期待できます。

 さらに、キャリア自律を実現するためには、個々の社員が自らの専門性を高めるための学習機会を提供することも重要です。企業内外での研修プログラムや業務に関連する資格取得支援、さらには社内外でのネットワーキングの機会など、多岐にわたるキャリア支援の選択肢を整えることが求められます。社員が自らの意思で成長できるよう、より自由度の高い環境とリソースを提供することが人事部門の使命でしょう。

2. ダイバーシティ、インクルージョン、エクイティ(DEI)の強化と推進

 現代の企業が多様な人材を活かすためには、単に多様な属性の社員を採用するだけではなく、全ての社員がその多様性を尊重し、安心して自分の能力を発揮できる組織文化を育むことが必要です。特に、ダイバーシティ(多様性)の重要性は強調されていますが、インクルージョン(包摂)によって、多様な人々が互いに協力し合い、組織に貢献できる環境を整えることが肝要です。加えて、最近注目されているエクイティ(公平性)の視点を取り入れることも、人事部門の重要な課題です。

 エクイティとは、全員に同じ機会を提供するのではなく、個々の能力やニーズに応じて必要な支援を提供することを意味します。例えば、同じ研修を全社員に提供するのではなく、個人のスキルや役職、キャリア目標に応じてカスタマイズされた学習機会を提供することで、全ての社員が成長しやすい環境を整えることが求められます。
 特に、育児や介護を担っている社員、障がいを持つ社員、外国籍社員など、それぞれが抱える課題に応じた柔軟な対応が必要です。企業の人事部門は、こうした社員が平等にキャリアを築けるよう、制度や環境を整備することが不可欠です。

 さらに、心理的安全性を高めることも、インクルージョンを推進するための重要な要素です。社員が安心して自分の意見やアイデアを発言できる組織文化を作り出すことは、ダイバーシティを活かすための基盤となります。これを実現するために、人事部門はマネジメント層への教育を通じて、多様な視点を受け入れ、建設的なフィードバックや対話が行われるようなリーダーシップを養成する必要があります。また、ダイバーシティ研修やワークショップを定期的に実施し、社員全員が多様性を理解し、互いに尊重し合う文化を育てていくことも重要です。

3. 次世代リーダー育成のための戦略的プログラムの導入

政元氏や大原氏の講演からも明らかになったように、企業が持続的に成長していくためには、次世代のリーダー育成が欠かせません。特に、グローバル化やデジタル化が進展する中で、従来のリーダーシップスキルに加えて、構想力やイノベーションを生み出す力がますます重要になっています。人事部門としては、このような新しいリーダーシップのニーズに応じた育成プログラムを導入し、次世代の経営人材を育てる必要があります。

NTTコミュニケーションズが取り組んでいるように、若手の段階から経営に必要なスキルを養うための研修プログラムを提供することが重要です。これには、座学だけでなく、実際の経営課題に取り組むプロジェクト型の学習や、異業種や異文化の中での経験を通じてリーダーシップを磨く機会を提供することが考えられます。特に、リベラルアーツ教育や他企業のリーダーとの対話を通じて、より幅広い視点を持ったリーダーを育てることが求められます。

また、メンター制度やコーチングを導入することで、社員が自らのリーダーシップスタイルを発見し、実際のビジネスシーンでそれを発揮できるようサポートすることも有効です。これにより、社員は自分自身のリーダーシップ能力を理解し、それを企業の成功に結びつけるための実践的なスキルを身につけることができます。

4. 柔軟な働き方の促進とサポート体制の充実

 大原氏が触れた「リモートワーク」や「フルフレックス」のような働き方は、現代のビジネス環境においてますます重要になっています。企業は、社員がどこからでも効率的に働けるよう、リモートワークのインフラ整備を進める必要がありますが、それに加えて、人事部門としては社員の働き方に応じたサポート体制を充実させることが求められます。

 まず、リモートワークにおいては、社員同士や上司とのコミュニケーションが不足しがちになるため、定期的なコミュニケーションの場を設けることが重要です。
 人事部門としては、オンラインでの1on1ミーティングやチームミーティングを推奨し、社員の孤立を防ぐ工夫が必要です。また、働き方の柔軟性を担保するためには、成果主義に基づく評価制度の見直しも不可欠です。リモートワーク環境下では、従来の勤務時間やオフィスでのパフォーマンスに基づく評価は適用できないため、目標達成度やプロジェクトの進行状況を基にした公平な評価基準を導入することが重要です。

 さらに、育児や介護をしながら働く社員のために、フレックス制度や短時間勤務制度を導入することも、柔軟な働き方を促進する上で欠かせない施策です。人事部門は、個々の社員のライフステージに応じた柔軟な勤務形態を提供し、全ての社員がキャリアを維持しながら働き続けられる環境を整備することが必要です。

5. HRテクノロジーの活用による人材育成の最適化

 「HRテック」の活用は、人事部門における戦略的な人材育成を実現するための重要な手段です。HRテクノロジーを活用することで、社員一人ひとりのスキルやキャリアパスを可視化し、それに基づいて適切な育成計画を立てることが可能になります。また、タレントマネジメントシステムを導入することで、社員の成長状況をリアルタイムで把握し、それに応じたフィードバックや研修機会を提供することができるようになります。

 さらに、データに基づく意思決定を行うことで、社員のパフォーマンスや将来的な人材ニーズを予測し、組織全体の効率的な人材配置を行うことが可能です。HRテクノロジーを活用することで、社員のスキルや経験を的確に把握し、成長をサポートするための具体的な施策を講じることができるようになります。

 今回の講演を通じ、現代の企業における人事部門は、単なる管理業務を超え、社員一人ひとりのキャリア形成や成長をサポートするための戦略的パートナーとしての役割を担うことが強く求められているということを、改めて感じた次第です。


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