母親に「君が感情を表に出した姿を見たことがない」と言われた件について

私の母親は筆忠実で、2・3ヶ月に一遍ほど手紙をよこします。
長らく文通している相手もいるということで
口頭よりももしかしたら本音に近い部分を晒しているのかもしれません。

それに対して私が返事を書くことは有りませんが
電話がきて通話する際はその話題を持ち出すことも間々あります。

私のこの口より饒舌なタイピングは母親譲りなのかもしれませんね。
こうして記事では多弁ですが
リアルでおしゃべりかと言われればそんなこともないので。

さて、
そんな中で先日電話がかかってきたときには話題に出さなかったこの一文。
近況報告と相変わらず過保護に私の身を案ずる優しいお節介を訊くだけで
この手紙の真意は問いませんでした。

他愛ないやり取りの流れで持ち出すにはちょっと不自然にしかならない
シリアスな内容なので憚られたのもありますが、
その実、自分でも明確な答えを持ち合わせていなかったのが本音です。

果たして、私は感情を母親には見せたことがないのでしょうか。
ちょっと自問自答してみたいと思います。

「感情を表す」ってなんだ

まず、感情を表すってつまりはどういうことでしょう。
笑う、泣く、喜ぶ、怒る。

書き出して真っ先に思いつくのは
とりあえず「怒る」に関してはほぼ皆無です。
ムッとしたりイラっとしたりすることはあっても、
それを表に出したことは確かに身に覚えがありません。

人を殴ったこともない、どころか
怒鳴ったことすらも、人生で一度もないんじゃなかろうか。

そりゃあ幼少期はあったんでしょうけど、
でも物心ついて自我が芽生えた頃をさかのぼっても
全く思いつきません。

なんか原因があるのかな……
別にイジメられても居なければ虐待も受けていないので
感情が死ぬような体験はしていないと思うんですが。

だからってわけではないんですが
ドラマとか漫画とかで見る、あの女性とかがビンタするやつ。
アレの行動原理が全く共感できないんですよね。

突発的に人を打ぶちたくなる心境って何！？
「思わず手が出た」で済ませられるわけなくない！？
もし自分が手を上げられることがあったら
一瞬でその人を嫌いになる自信があります。

では発散させられなかった怒りの矛先がどこへ向かうかといえば
深いため息とともにどこか奈落へ墜落してるのかもしれません。
諦めというか悲しみというか、
なんかそういう感情に変換されて沈殿しているような気がします。

そもそも怒らないというか、
約束を破られたり裏切られても、最初から期待してないというか。
誰かが私に優しくしてくれるわけがない、とすら思ってるフシがあるので
なんかまぁ仕方がないかなってなります。

ちゃんと落ち込んでるんですけどね。怒りにはならないというか。
諦観、が一番しっくりきます。

まして、親に対してなんて怒りの感情を覚えたことすらないですよ。
生んでくれて育ててくれて見守ってくれて、心から感謝しかないです。
弟と比較されて、「アンタ反抗期あったっけ？」とすら問われる始末です。

では真逆の感情、「喜ぶ」に関してはどうでしょうか。

まぁ人並みに笑うとは自分では思ってるのですが
確かに談笑以外の場面で目に見えて笑うことってあまりないかも。
それすらもマスクしてる（※コロナ以前からマスク常備）から
全然伝播しないよね。

よく友人にも、例えばバラエティ番組を見てて
「あ、面白くなかったらチャンネル変えていいよ」って何度言われたことか。
いや、普通におもしろいから！笑ってないだけでちゃんと楽しんでるよ！
そもそもお笑いとか大好きですし。サンドウィッチマンとか大爆笑ですよ。

――と、真顔で言ってます。
……あ、笑ってないなこれあんまり。

思い返してみれば、漫画を読んでいて突然噴き出す友人に
「んな大袈裟な」と思ってるし
ギャグ漫画も大量に所持してるのですが大概黙読してます。
堪えてるつもりは有りませんが、
堪えきれずにニヤニヤしてることはあります。

つまりちゃんと楽しいと思えてるんだから
感情はやっぱり死んでないんですよ。
笑いが表現に至るまでの水準が異様に高いだけで。

だからかもしれませんね。
アメリカンな映画にまったく共感できないの。
オーバーリアクションが鼻について仕方がありません。
いや、この理論で言えば自分がおかしいだけでオーバーじゃないのか。

あと祝われたり褒められたりするのも慣れませんね。
この年齢になってもまだそんなこと言ってるのかって感じですが。

誕生日に「誕生日だぜイエーイ」ってこともしませんし
自分がそんな感じだから極力ヒトの誕生日も祝いません。
私に祝われても嬉しくないだろう、と思ってしまいます。
喜ばせる何かも思いつきませんし。

これに関しては「自分がされて嬉しいことをしよう」と
明確な回答があるにも関わらず
私が嬉しいことといえば「ほっといてくれること」なので
ある意味ではちゃんと実行してるじゃないですか。←なんというホコタテ。
もちろんそれで喜んでもらってるなんて気はサラサラないのでご安心を。
絶対なんかしてあげたほうがいいって。

対して、「楽しい」に関しては貪欲だと思います。
音楽が聴きたい！漫画読みたい！カラオケ行きたい！アニメ見たい！
という欲望に素直に従順。

定点カメラとかで確認したわけではないので定かじゃありませんが
声帯にまで届かないだけでちゃんと笑ってるし、しっかり号泣するし。

お、これは感情を表してるんじゃないかしら？

でも全部一人でできることだし、親の前では確かにやったことないな……
親とは音楽の趣味も違うしサブカルチャーの共有は皆無です。
演歌もプロレスも運転もまったく興味がありません。
かろうじて野球が好きというのが共通。

……そもそも私は家族に影響された何かってあるんだろうか。
実家にはパソコンもないですし私の漫画なんて読まないし
なんにも共有してるものがありません。
私の前職（芸能マネジメント）なんて
結局なにひとつ理解してないんじゃなかろうか。

まぁそれで言ったら家族どころか地元の何にも影響されてないですけどね。
出身芸能人なんていないしアーティストもライブに来ない。
国民的アニメ以外放送枠はないしカラオケもスナックにしかない。

もっぱら、親がプロレスと野球を見るために契約していたスカパーで
音楽を漁る毎日でした。
カラオケも国道沿いにあるとこまでわざわざ行ってまして
……って話がズレてきたな。うちの田舎っぷりはまた今度。

そんなわけで、たしかに親の前で笑うようなこともあんまりないですね。
だって共有できる楽しみがないんですもの。
遊びに連れてってもらったりは当然ありましたが
そしてその空間は幸福を確かに感じていましたが
それで大爆笑したとかはないかもです。
私が写真嫌いなのでそんなにフィルムにも映らなかったですしね。

私の欲望を満たすものは地元にはなかった。それに尽きます。

では「泣いた」ことは。
やはり一番悲しかった出来事としては祖母との死別があります。
私はおばあちゃんっ子でもあったので、それはそれは悲しかったです。

ただ、私以上に母親の悲しみが深くて、自分の悲しみ以上に
「自分はちゃんとしよう」と強く思っていたのを覚えています。

……今気づいたんですが
私に「感情を表す姿を見たことがない」とか言っておきながら
私自身も母親が感情を表した場面も一回しか見たことがないです。

その唯一が、祖母の葬式。
すべての式典が終わって、一段落してから声を上げ泣き崩れる母。
母がこんなにも感情を表した姿を見たのは
後にも先にもその日だけのような気がします。

つまりは。
私の表情筋が特別硬いわけではなくて
そういうところですら母親似なんじゃないかな、と
たった今解明できました。

容姿だけじゃなく、感情表現もれっきとした母親譲りじゃないか！

すんごいスッキリしました。
Q.E.D
私はあなたの息子です。
あなたの葬式で初めて、私は大々的に泣き崩れて感情を表すでしょう。

Afterword

書き始めたきっかけと、
書こうとしていた内容とはかなり変わってしまいましたが
ひとまず一つの解決を得られてよかったです。

今度電話がかかってきたときに言ってやりますね。
「お母さん、人に感情を表した姿を見たことないって言ってるけど
こっちだってお母さんが感情を表した姿は一回しか見たことないよ」
って。

そもそもあなた誕生日すら教えてくれたことないじゃん。
そんなとこすらむっちゃ似てるやんうちら。

多分おばあさんも思ってたよ？
「あんた私が死んで初めて感情を表したんじゃない？」って。

想像するだけで目頭にクるものがあるから、
できればこれ以上はもっともっとずっと先で、
私の感情を溢れさせてくれればと願います。

母の日には、また美味しそうなものを送るからね。
あなたの愛する息子より。