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教室のアリ 第22話 「5月5日」②〈雨のち晴れ、だったのに…〉

オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

〈チーム『コタポンまる』結成〉
 
お互いに6本の足を絡ませて、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。笑顔と涙で顔はグチャグチャになった。ポンタはニコニコしながらオレたちを見ていた。シロツメグサ事件から何年経ったかもわからない。本当に久しぶりに『仲間』が目の前にいる。オレポンタ、そしてまるお。学校の給食室に3匹のアリがいる。人間が見たらなんとも不思議だろう(アリのことなんか気にしてないか…)。5月5日の夕方(ここにきたのはお昼だったのに)、3匹で5年2組に帰った。雨は止んで、雲さんたちもどっかに飛んでいき、窓からは元気な太陽の光が差し込んでいた。おんなじくらい、オレは元気になった。
 教室に帰ってまるおといろんな話をしたよ。あの日、まるおはオレとは別班でエサをとりに行き、大きいアメのカケラを運んでいたらはぐれてしまい、難を逃れたこと。巣に帰って悲しい風景を見てしまったこと。飛んでいる蜂を眺めながら公園の隣の小さな保育園に逃げたこと。保育園の子どもたちはエサをたくさんこぼすけど、いきなり泣いたり、動いたり、寝転んだりして予想外のことばかりするから、潰されそうになり、命の危険があったこと。だから、違う場所に移動しようかと思っていたけどなかなか覚悟が決まらなかったこと。ちなみに「星組」に住んでいたそうだ。で、隣の大きな建物(小学校)にいつか引っ越そうと思っていたんだって。オレと同じように一人で生きてきたけど、度胸を決めて小学校に侵入したら、エサがありそうな部屋(給食室)に迷い込んでしまったんだ。で、隅を歩いていたら棚にキレイに集めてあったエサを見つけた。ひと通りまるおの話が終わると今度はポンタが自己紹介をした。オレは遠足での出来事を説明した。

〈ダイキくん、マジでピンチ〉
その時、大人の声がした。
「今度の中間テスト次第かなぁ」
「野球は続けさせてあげたいですし、僕から親にそんなことを言うのはおかしいと思うんです」
「そんなこと?そんなことってなんだ!学力テストの平均点をダイキがどれだけ下げていると思っているんだ!」話しているのは、ヒラヤマ先生と白髪の先生だった(花だん煙コンビ)。二人は後ろの扉から勢いよく教室に入ってきた。
「ダイキくんの席は?」
「ここです。」と、ヒラヤマ先生は答えた。白髪は机の引き出しを力任せに開けると、ため息をついた。
「ひどいな。この汚さが勉強への姿勢そのものだ。」
とっても雰囲気は悪い。カーテンの隙間から夕日が入ってきて光景はいい感じなのに…。オレたち3匹は心配になって二人の姿が見えるところまで移動した。何かできることがあるかもしれない(ま、そんなことは『あり』はしない。アリだけに…なんちって)。
「これはいつのテストだ?」
23と赤い字で書いてある紙を手にとって白髪は言った。
「3週間くらい前です。」
「こういうところだよ、ダメなのは!連休が明けたら、親に学校に来てもらおう。私も同席して話をする。」
「でもシュニン、(ふむ、白髪はシュニンと言う名前なのか?)ダイキくんは成績が少し悪いだけで、運動神経抜群で、体は大きく…体が大きいからといって威張るわけでもなく、イタズラもしませんし(給食の残ったパンをランドセルに詰め込む癖はある)、ムードメーカーですし…」
「もういい!決定だ!伝えておくように。」そう言うと、シュニンは教室を出て行った。ヒラヤマ先生はダイキくんの机を片付けた。(潰れたジャムはゴミ箱に捨てたから後から食べよう)そして、カーテンを開けて夕日を眺め、深く息を吐いた。合わせるようにオレたちも息を吐いた。
「テストってなに?」まるおの質問にどう答えていいかわからなかったけどオレなりの意見を言ってみた。
「この子は、頭がいいとか悪いとか、人間を分けるんだ。紙1枚で分けるんだ」
まるおはポカンとして、ポンタはうなずいていた。
 蝿との戦い…まるおとの再会…ダイキくんの大ピンチ…
疲れた、本当に疲れたよ。横を見たら2匹はいびきをかいていた。オレも寝よう。

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