教室のアリ 第20話 「5月1日〜5月4日」〈アリ的フードロス〉
オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
ポンタと給食室に行った。エサは残っていた。だから二人で少し食べた。オレの予想ではしばらく学校に子どもたちは来ない。先生が数人来て、○とか✔️とか100とか92とか27とか書くだけだ。そして、花壇のところで口から煙を吐くんだろう、多分。ポンタに体育館を説明して(ここにはエサはない)5年2組に帰った。
「あした、どうする?」オレが聞くと、
「学校、公園、ダイキくんの家、遠足の草原…コタローは他にどこに行ったことがあるの?」
「ダイキくんと行った、野球場かな」
「行きたいところは?」ポンタの質問にハッとした。ピラミッド、氷河、エベレスト、なんとかの滝…授業で写真を見て行きたいところはあるけど、『絶対に』自分ひとりの力では行けないところばかりだ。オレはアリ、教室のアリだから。
「スーパーマーケットかな、あそこにはエサがありそうだから」オレがそう答えると、ポンタは
「あしたはそこに行こう。で、いろんなエサを集めよう!」
元気な声に勇気がわいた。
〈もったいないけどありがとう〉
学校から公園と反対側にスーパーマーケットはある。風向きによってはとってもいい匂いがしてくる。オレはいろんな匂いを嗅いでいるなぁと思う。草の匂い、給食の匂い、スーパーから流れてくる匂い、体育の後の子どもたちの汗の匂い、ヒラヤマ先生の足の臭い(これはキツイ)などなどだ。そしてきょうはついにスーパーに行く。オレが長年窓から見ている感じだと9時くらいから人が集まってくる。でも一番人が多いのはお昼くらいだ。だからその前、授業で言うと3限くらいに出発した。ポンタと校門を堂々と出て、道を渡り、フェンスを通り抜け裏口からスーパーに入った。
「向こうにフルーツと野菜があるね」ポンタの鼻はいいようだ。足で指した方向にフルーツと野菜はあった。絶対に見つかってはいけない。オレたちは慎重に、でも素早く床の隅を歩いた。買い物をしているダイキくんのママのような格好をしている人間たちは床なんか見ていない。だからいろいろな場所を歩けた。チップスやハイチュウは袋や紙に包んであった。人間が開けてくれないとオレたちには足も足も出ない(アリには手がない)。そろそろぐるっと1周したかな?と思ったその時だった!
「コロッケがある!」オレは思わず叫んでしまった。
「シー」ポンタは慌てていたけど、人間に聞こえるはずはない。音楽も流れていたし…
「コロッケって何?」ポンタに質問にオレはダイキくんの家であったことを説明した。
「ボクが知らない美味しいものが、まだまだ世界にはあるんだね」ポンタの一言はこのあともずっと、オレの心に残っていく。
エサを探して歩いていると、オレたちは少し暗いところに来てしまった。周りを見渡すと、パンの端とか、少し黒くなった野菜の葉っぱとか、コロッケの外側についている茶色いところとかが袋に入っていた。その袋はたくさんあって、少し破れているところもあったから、その場でたくさん食べて、あとは運べるだけ給食室に運ぶことにした。
「こんなに美味しいのになんで人間は食べないんだろう?」
「オレにはわからないけど、『なんとかロス』って授業で言っていた気もする」
ポンタにあやふやな答えしかできないオレ…もっと授業をちゃんと聞いていればよかった。まぁ、人間には必要ないけどアリには必要なものがあるってことだ。
ありがとう、人間。
スーパーで集めたエサは給食室に運んで、キレイに並べた。きのうまでのエサは残ったままだった。そして翌日(5月3日)もその次(5月4日)も誰も来なかった。オレたちは貯めたエサを計画的に食べた。そして5月5日、いろいろなことが一気に起きた。