もの言わぬモノたちと、カメラで話す
「写真の魅力は、何ですか?」
「えっ……と……」
就活の面接で答えにつまったその瞬間、私の頭の中を、これまでの短い写真人生(約3年)が走馬灯のように駆け抜けていきました。
写真をやっていなければ出会えなかった人の顔や、私の心を動かした風景、写真展、写真仲間たちとの会話……。
写真の魅力の断片は次々に思い浮かぶのに、私は、それをどう言葉にすればよいのか分かりませんでした。
私の写真を見たことのない相手に、何と言えば伝わる?
そもそも、なぜ私は写真が好きなの?
帰りの電車の中でも、私はずっとそのことを考えていました。面接の結果云々は抜きにして、ちゃんと答えられなかったのははまずいぞ、と思っていました。
写真のどこに惹かれているのか。
それは、自分が写真を撮る理由に直結する質問だったに違いないからです。
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私が写真を始めたのは、大学に入ってからです。(なぜ写真を始めたかについては、またの機会に……!)
周囲には中学や高校から写真をやっていた人もいて、レベルの違い・意識の高さに圧倒されることもありました。
しかし、写真を撮っている人たちの見ている世界の美しさに魅了された私は、何としても彼らと同じ世界を見たい、いや、自分なりの世界の見方を確立させたいと思って写真の技術を磨いてきました。
……では、私が手に入れた”私なりの世界の見方”とは?
私は、これまで自分が撮った写真を見返し、その答えを探しました。私が撮るのは、風景写真というジャンルで(スナップも撮るので、どちらか曖昧なものもあります)、被写体は本当にさまざまです。
見返して、ますます分からなくなったような気がしました。私の被写体選びには、どうも脈絡がないのです。
花だけを撮る人。
鳥ばかり撮る人。
いつも光と影を探している人。
自分の周囲にいた写真仲間を思い浮かべると、自分は、何の軸もなく撮っているのではないか? という疑念が頭をもたげました。
でも、そうではないはずなのです。
適当に撮っているのではないのです。写真を撮る瞬間、被写体は違えど、いつも同じことを考えているという感覚があるのです。
……でも、いったい何を?
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その答えに近いものを、これまでに書き溜めた雑記の中に、私は見つけました。「写真への考え」という題の短い文章です。
誰に見せるつもりでもなく、何かに突き動かされるように書いたと分かるものですが、大いに共感したので、そのまま載せます。(一部ミスと思われる箇所がありますが、悪しからず)
最後の方は「何様?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こんな言葉を選んだのは、おそらく、この文章を書いたのが、家族に自分の作品を悪く言われた後だったからだと思います。
「どうしてもっと綺麗な写真を撮らないの?」とか、「どうしてこんなものを撮るのか分からない」とか。
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家族から酷評される写真の被写体は、もの言わぬモノたちです。
先ほど載せた木や花(花は比較的好かれる)、動物、光や影。そして、苦手な方もいらっしゃると思うのでここに載せるのは断念した虫たちです。
実を言うと、私も、虫は苦手です。カメラを持っていない時に彼らに遭遇したら、私は、脱兎のごとく逃げ出します。
でも、カメラを持っている時は違います。
ファインダー越しに彼らを見ると、彼らが決して襲ってこないこと、彼らは彼らなりに生きていることが、感じられるのです。
やはり、
カメラは翻訳機で、
写真は対話の軌跡を描くものなのです。
カメラを持って被写体と対峙する時、私は被写体と”話して”います。いつもは怖い虫とも、いつもは見上げるだけの木とも、いつもは通り過ぎてしまう花とも。
どんな気持ちでここに生えているのか?
どんな気持ちで飛んでいるのか?
水面に落ちていく雨の刻むリズムは?
その日、その場所での、一度きりの出会いを味わうように、私はシャッターを切ります。
その時、頭の中にあるのは、構図でも、ISO感度でも、シャッタースピードでも、露出でもなく、”彼らとどう話すか?”ということだったのです。
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ここまで読んでくださった方がどれくらいいるのかは分かりませんが(長いのに読んでくださって、ありがとうございます!)、今回、私は、今の自分に語れることを精一杯言葉にしたつもりです。
「写真の魅力は、何ですか?」と聞かれてうまく答えられなかった悔しさが、ここで少しは果たせたような気がします。
私にとって写真の魅力は、”もの言わぬ被写体と、カメラを通して話せること”です。
そして、言葉を使わずに交わされた会話の軌跡を、目に見える形で、他人に見せることができるというのも、写真の魅力だと思います。
まだ話したことのないモノたちが、世界には溢れています。
彼ら全員と話せることはなくても、その日、その場所での出会いを大切にして、これからも写真を撮り続けたい。そして、その時の感動を、静かな会話を、表現していきたい。改めて、そう思いました。
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