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記事一覧
🌜【音読女子】メモ
読み手 キノリユノ
僕は明日の僕にメモを残した。
赤と黄色のレンガだらけの街で、迷わず君に辿り着けるように。
途中のパン屋でカンパーニュを買い、花屋では春色のチューリップを買おう。
フローテ・ローゼン通りを左。
君は退屈に窓のカーテンを眺めているだろうから。
メモに残した言葉を握りしめ、明日の僕は家を出る。
🌜【音読】ペトリコール
読み手 小福
差した傘が水滴を弾いて、激しい音を立てた。
こんな天気の時は、母さんはずっと家に居てくれたし、機嫌がいい時には黄色いレインコートを買ってくれた。
僕は毎日逆さまのてるてる坊主を作って吊るす。
優しい母さんが好きだった。どこからか土の匂いがする。服が冷たいけれど僕は外でずっと待っている。
🌜【音読】歯車のまち
読み手 石村 碧
その街は歯車でできていた。あちこちで蒸気が上がり、クレーンや鎖の動く音がする。ブリキの魚が空を泳いでいる。
僕と妹は廃棄された鉄の山で遊んだ。ネジやナットを拾い上げては合うか確かめてみる。
「お兄ちゃーん」
見上げると、大きなキャタピラが山に刺さっていた。
今日の寝床はここが良さそうだ。
🌜【音読】密室
読み手 エモジ エマ
鉄格子の間から月を見ていた。その僅かな隙間が私と外の世界を繋ぐ唯一のものだ。
ここから抜け出したい。冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みたい。
私を閉じ込めたヤツの足音が聞こえてくる。憎む気持ちもいつの間にか薄れている。
身体をスライムみたいにしてあの格子をすり抜ける。そんな夢を見た。
🌜【音読】赤い糸
読み手 石村碧
小指に結ばれた赤い糸を辿ったら、毛むくじゃらのおじさんに出会った。
「おじさんが運命の人かよ」ってげんなりしたら、相手も不服そうな顔をしていたので
殴ってやりたくなった。
よかったら、とおじさんがチョコをくれた。
寒い夜には、おじさんの毛むくじゃらが暖かいかもなって私は思った。
🌜【音読】斎藤さんの話。
読み手 エモジ エマ
"斎藤さん"は私がまだ幼稚園児だった頃から逆さまだった。
近所の桜並木にぶら下がっていて、私が通る度、斎藤さんは必ず手を振ってきた。
お母さんに聞くと「見ちゃいけません」と言った。それでも斎藤さんは私へ手を振る。大学生になった今でも。逆さまで。笑顔で。次は話しかけてみようかな。
🌜【音読】わすれな草
読み手 キノリユノ
私がお婆ちゃんになって。
貴方を忘れてしまうようだったら。いっそのことレンジでチンしてください。
貴方がお爺ちゃんになって。私を忘れてしまっても。
毎日貴方が好きなハーブティーをあたしは淹れ続けるから、大丈夫。
花満開のあの庭で。林檎みたいな甘い香りの、あのハーブティーを。