一度は行きたいあの場所”新京極スタンド”
一度は行きたいあの場所。
そんな言葉を聞いた時、自分の頭の中に
どのような場所が思い浮かぶかを
考えてみた。
結婚する前に妻と行こうと言いながら
色々な事情で行けなかったフランス。
本場プレミアリーグを見れるイギリス。
好きな映画La La Landの舞台になった
ロサンゼルス。(厳密には行ったことがあるが)
こうして思い浮かべてみると
どうしても物理的に遠い場所が
頭に浮かんでくるらしい。
「一度は行きたい」というぐらいなので、
行きたいと思いながらも簡単には行くことができない
憧れのような感情を持つ場所がどうしても
頭に浮かんでくるのであろう。
だが、上記したような場所について
記事にできるかというと
それほどの熱量は私にはない。
行ってみたいことは行ってみたいが、
心の中で憧れにしておくのも
悪くないような気もしている。
それではストーリーにならないので
この話題で記事を書くことをやめようか。
そんな風に思ったとき、ふとある場所が
頭の中に浮かんできた。
それが、京都の四条河原町にある
「スタンド」という店である。
この店は一体何屋さんかというと
カテゴリーとしては「居酒屋」になる。
「は?居酒屋なんかいつでも行けるんやから
気になってるなら行けばいいやん」
そんな風に思うかもしれない。
私もそう思う。
しかし、それがなかなか難しいものなのだ。
今日はその「スタンド」について
お話しようと思う。
新京極スタンド
この店の正式名称は「新京極スタンド」。
先ほども書いたように居酒屋で、
京都市の中心街である四条河原町でも
色んなお店が並ぶことで知られる
新京極商店街の中にある店である。
京都に修学旅行に行く学生は
必ず一度はこの新京極商店街を通るので
関西になじみのない人も一度は
この場所の前を歩いたことがあるかもしれない。
京都に生まれ育った私にとって
四条河原町は中学生頃から”遊びに行く”ようになった
場所である。
家からはバスで行かなくてはならないし、
当時は変な道をウロウロすると
カツアゲをされたりしたので
少し勇気がいる遊びではあったが
服を買ったり、ゲームセンターに行ったり
アイドルやタレントのグッズが売っている店に行ったり
映画を観たりできる四条河原町は
私たちにとって少し背伸びをしながら遊びに行ける
そんな場所であった。
その中でも主にウロウロするのが
新京極商店街である。
かれこれ10年近くこの商店街には
足を踏み入れていないが、
四条通から新京極に入ろうとすると
林万昌堂の天津甘栗のいい匂いがして
その香りを鼻に残しつつ北上すると
カタカタという音とともに
次々と機械で焼かれていくロンドン焼きを
横目で見ながら服屋や古着屋に入るのが
当時の定番であった。
そんな場所である新京極商店街に
私が行き始めた頃からあったのが
”京極スタンド”である。
当然当時はお酒を飲むわけではなかったので
あまり意識を向けることはなかったのだが、
この店は今から25年ほど前から
既にレトロなオーラを放っており
何だかそこだけ時間が止まったような
不思議な雰囲気が店先から漂っていた。
店の前にはショーケースがあり、
そこに樹脂で作られた食品サンプルと
値段が書かれていたが、
そこになぜか「チーズ」が置かれており
「チーズはサンプル作らんでええやろ」と
心の中でいつもツッコミながらその前を
通っていた。
そんな私も大学生になり、
お酒を飲める年齢になった。
友人たちとお酒を飲みにこの四条河原町の界隈を
ウロウロしたこともあったが、
当時は飲みに行くと言えば、
この新京極商店街のすぐ近くにある
木屋町が定番であった。
飲み放題つきのプランを3000円程度で
楽しむことができる店が並んでおり、
そのような店でカラフルな安っぽい酎ハイを飲むのが
たまらなく楽しかった。
だが、そんなお酒の楽しさを知ったにも関わらず
私は新京極スタンドに行くことができなかった。
それは、この場所が自分のような若輩者を
受け入れてくれない場所だと思っていたからである。
既に40歳に入った今となっては
「そんなこと気にせず入ったらええねん」と
背中を押してやりたい気持ちであるが、
当時の私にはこの店に入る勇気がなかったのだ。
そうして、新京極スタンドが気になるけれど
店に入れないまま、
私は社会人になり京都を離れた。
離れたと言っても在来線で1時間半ほどの場所なので
時々京都に帰って実家を満喫していたが、
四条河原町にくりだす機会は殆ど無くなった。
いつしか私は結婚し、子供が生まれ、
京都に帰るときは母に子供を見せることが
一番の目的になった。
正直、今回この記事を書くまで
新京極スタンドのことは頭の片隅にも
残っていないと思っていたが、
”一度は行きたいあの場所”と考えたとき
この店のことがふと浮かび上がってきた。
二十歳前後の私が心の中にしまっていた
この店への憧れは
20年間の時限タイマーが設置されていたらしい。
40歳になり、中年の枠に足を踏み入れた私にとって
新京極スタンドはもはや受けれ入れてくれない場所では
無くなったのだ。
ちょうど4月末に大学時代の研究室のOBで
近況報告会が四条烏丸で開催される。
少し面倒ではあるが新京極スタンドまでは
全然歩ける距離である。
会食の場所は既に決まっているが、
2次会としてコッソリと行くことはできる。
”一度は行きたいあの場所”というテーマなのに
その場所に1か月以内に行けるというのは
何だか趣旨からズレてしまう気もする。
だが、新京極スタンドは紛れもなく
私の中で一度は行きたいあの場所だったのだ。
また機会があれば店の訪問記を
noteで書きたいと思う。