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人間関係の食わず嫌い

私は社会人になってずっと技術職で
働いてきた。

最初に入った会社では
生産技術という仕事をして、
工場の生産改善をしたり、
製造不良と日々向き合っていた。

その会社では品質管理にも配属され
海外工場の品質管理のサポートなどにも
携わった。

そして今の会社では商品開発に
ずっと携わっている。

こうして職種は変われどずっと
技術畑で生きてきたのだが、
実はずっと苦手としてきたものがある。

それは営業マンである。

誤解のないように言っておくが、
営業をしている人が嫌いというわけでもなければ
特定の苦手な人がいるというわけでもない。

営業マン全体として何となく苦手というか
どこか少し怖いのだ。

私の最初のキャリアである生産技術では
それほど同じ会社の営業と接することは
なかったのだが、
同期会などで、営業に配属された同期と
会う機会があった。

そのとき、営業の同期達は
お客さんの話なのか分からないが
とても内輪の話をしている印象があった。

なので、私は彼らとあまり深く話をすることなく
営業の仕事についての理解も乏しいまま
その後も仕事を進め、
ある時に品質管理に移動になった。

品質管理は出荷品質に関わる部署なので
顧客からの問い合わせに対する回答や
クレームへの対応もしなくてはならない。

そうなると必然的に営業の人と
関わる機会が出てくるのだ。

とは言え、私はどちらかというと
品質管理の中でも、海外を含めたグループ企業の
品質管理サポートを任されていたので
営業の方と直接同行したりする機会は
あまりなかった。

そんなとき、とあるクレームが発生した。

それも海外工場製の製品で、
過去に同じクレームを受けて改善したと
報告されたものの再発クレームである。

そうなると品質管理の担当者としても
対応をしなくてはならない。

そこで、まず営業マンが顧客先に
取り急ぎ訪問して、
その後に改めて品質管理担当者と共に
訪問することとなった。

その顧客は遠方だったので
私が空港に降り立つと、
営業マンが迎えに来てくれていた。

過去に面識があったので、軽く挨拶して
早速車に乗り込むと、
若手の営業マンが運転席にいた。

私の数年後輩で今は彼がその会社の
担当をしているらしい。

そして彼らと車の中で軽く打ち合わせを
し始めたのだが、
どうも会話が断片的で話が続かないのだ。

こちらが提示したことに対しては
「それでいいと思います」などと応対はしてくれるが、
そこに愛想のようなものはほとんどなかった。

何だか嫌な気分を抱えつつも
顧客先に到着して、
面談がスタートした。

すると、先ほどまでの愛想が嘘かの様に
営業マンの話し方が激変したのだ。

品質管理の担当者として私を連れてきたことや
車の中で話した技術的な見解などを
スラスラと話し、
それをしながらも顧客の反応を見ながら
随時話し方をコントロールしているように見えた。

私はこの時、この人を怖いと感じた。

お客さんの前でするような態度をずっと
社内でとるわけにいかないのは理解しているが、
あまりにギャップが大きかったからである。

そうして打ち合わせが進んでいき、
私から技術的な観点で
今後納品する商品にはその不具合品が
入ることはないことを説明すると
顧客は納得してくれた様子であった。

なんとか私のミッションは果たしたと
少し安心して面談を終えて、
車に乗り込んで顧客先を後にした。

そうして車が走り出してしばらくすると
先輩も若手も営業マン二人は
顧客先に行く前のような顔に戻っていた。

そこで先輩の方の営業マンがおもむろに
口を開いたかと思うと、
そこから若手営業マンのダメ出しをし始めた。

それを聞いている間、私はどうしようもない。

田舎道だったので景色が面白いわけではなかったが
景色を見ながら嵐が通り過ぎるのを待っていたが
なかなかにダメ出しは長く、
20分ほど続いてようやく終了した。

そうして、空港に到着し私は営業マンたちと
わかれたのだが、
最後はどういうわけか彼らは顧客に向けるような
愛想のいい笑顔を作り、
「今日は来てくれてありがとうございました。
とても助かりました」と言って見送ってくれた。

私は内心、彼らが何を考えているのか
全くわからなくて怖いと感じていた。

品質管理に在籍していた期間にクレームだけでなく
前向きな案件で同じように営業マンと一緒に
顧客先を訪問する機会がこれ以降何度もあったのだが、
程度ややり方に差はあれど、ほぼ全員が
内向きと外向きで大きなギャップを持っており、
どの人ももれなく何を考えているのかわからないという
怖さを私の中に残していったのである。

もちろんであるが、私も顧客の前で見せる対応を
いつも会社内でしているわけではない。

しかし、そのスタンスは基本的に変わらないし、
社内に向けても顧客に接するのと同じぐらい
丁寧に接しているという自負はある。

それは社内こそ信頼関係が重要であるし、
お互いが気持ちよく仕事ができる事が
仕事の基本だと思うからである。

営業の仕事をしていると
もしかすると嫌な顧客や
ややこしいことを言ってくる人が
多いのかもしれない。

そうしてストレスを抱えたままで
営業所に戻り、
社内で同じように愛想を振りまけるかと言えば
それは難しいのかもしれない。

彼らの背景を想像することはできても、
私はやはり彼らが何を考えているのかがわからなくて
何となく苦手意識を持っていたのだ。

そうして紆余曲折あって私は今の職場に
転職をした。

今の会社は中小企業なので、
本社の中に製造も営業もいる環境である。

私にとって初めて営業の人たちと
同じ職場に出社する機会となった。

もちろん同じ建屋とはいえ、オフィスは違うので
そんなに顔を合わせるわけではないが
仕事を進めていくうちに彼らと接する機会が
多くなってきた。

この頃も私の中では営業マンに対する
怖さが残っていたので、
最初私は恐る恐る彼らと接していたのだが、
話をしていく中でお互いに共通して
持っている考えがあることに気づいたのだ。

”いいものを作ってお客さんを喜ばせたい”
という考えである。

今の会社は中小企業なので、大企業のような
大ロットを安価で提供するビジネスモデルではない。

どちらかというとニッチなニーズを的確に満たし
少々高単価でも顧客に提供するビジネスである。

そうすると営業マンは顧客にいかに寄り添い
ニーズを引き出し、
そして私たちはそのニーズを的確に商品として
形に仕上げるかが重要になってくる。

これに気が付いてから、私の中で
営業マンに対する苦手意識や怖さが
消えていった。

仕事や色んな活動をしていると
あの人は何を考えているのだろうかと
思うことは少なくない。

もともと人の心は見えないように
できているものなのでこれは仕方ない。

だが、その人たちとも
どこかで共通する考えが必ず
存在しているはずなのである。

自分が苦手と拒否し続ける限り
共通する部分は決して見えないであろう。

私が営業マンへの苦手意識を克服したように
何かを共にすることで
それは見えるようになる。

人間関係もまさに食わず嫌いで
嫌いと言っている人が多いのである。

こんなことを言っている私も
まだまだ苦手な人が沢山いるが、
可能な限り食わず嫌いにならないように
その人たちと何かしら関わってみようと思う。

それでも合わない人とは距離を置けば
いいだけなのだ。

人間関係の食わず嫌いがないか
一度あなたも確認してみてはいかがだろうか。

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