
時間が止まった町に迷い込んだ話
昨日とある場所に出張した。
先方とのアポは13:30。
調べてみると最寄り駅から徒歩2分とのことなので、
電車で行くことにした。
日ごろあまり行くことのないエリアなので
少し不安はあったものの、
同じ近畿圏内だし、駅自体はそこそこ大きそうなので
駅前で食事でもしながら時間調整をして
訪問先に向かおうと思っていた。
電車での移動の場合、万一電車が遅れたりすると
相手に迷惑をかけてしまうので、
先方の最寄り駅に50分前に到着する電車に
私は乗り込んだ。
有難いことに電車は特にトラブルなどなく
時間通りに最寄り駅に到着した。
さて、どこでお昼を食べようか。
そう思いながら駅を降りた私は愕然とした。
駅前には驚くほど何もなく、
個人が経営していると思しき駐輪場と
営業しているのか怪しいぐらい古びた建物の
パチンコ屋しか見当たらなかったのだ。
先方への行き先を見た時には
駅近くにビジネスホテルがあることを確認していたので、
そこの宿泊客が行きそうな店なら
駅前にあるのではないかと楽観的に
思っていたのだが、
予想は見事に外れたわけである。
とはいえ、地方都市ならばこのようなことは
特に珍しいわけではない。
車社会なので駅前はそれほど栄えておらず、
近くの大きな道の周りに
色んな店が並んでいるパターンも多い。
地図を見てみると、歩いて数分の場所に
比較的大通りがあることが分かったので
私はそこに向かうことにした。
大通りまでの道には家や個人商店のような店が
立ち並んでいるのだが、
天気が曇っているせいかノスタルジーに溢れており、
時間が止まった街に迷い込んでしまったかのような
錯覚を私は覚えた。
そんな風に思いながら歩いていると
狙いの大きな道に到着した。
見晴らしのいい道に立ち両側を眺めてみる私。
だが、そこには「すき屋」などの看板は
見当たらなかった。
それどころか、コンビニの看板すら
視界には入ってこなかったのである。
これはエラい場所に来てしまった。
時間を調整するどころか、
食事にもありつけない可能性があるではないか。
とは言え、さすがに駅前なので
歩いてみれば1軒ぐらい食事をするところは
あるだろう。
そう思い、再び駅周辺を歩いてみることにした。
そこからしばらく歩くと、
とても古びた看板だが「北京」のような文字が書かれた
中華料理屋のような小さな看板が見えた。
なんだ、町中華があるじゃないか。
そう思い私は歩みを進めたのだが、
そこにあったのは店構えもボロボロで
とてもお客さんがいるように思えない店であった。
一応「営業中」という札はかかっているものの、
昼時の中華料理屋から漂うような
匂いも活気も一切感じられない。
店舗というよりも廃墟に近いような
そんな店だったのだ。
ここまで来るのに既に10分以上歩いていた私は
一瞬この店で妥協してはどうかと思ったのだが、
流石の私もこの店に入るのは怖い。
店の扉を開けた瞬間に
キョンシーが跳んできても困るので、
お札を持っていなかった私は
結局その店を見送ることにした。
そうして、そこから数分駅周りを歩いたものの
結局どこにも食事が出来そうな場所は
見当たらない。
これはもう駅で時間まで待って、
面談が終わった後に帰路で遅い食事を
とるしかないのか。
そんな風に思いながら駅に戻り、
ふと駅の反対側を見てみると、
その地方に多く展開するスーパーのチェーンが
駅前にあることに気が付いた。
もしかするとこのスーパーの中に
マクドナルドなどがあるかもしれない。
地図によるとこの駅の近くには高校があるので、
その可能性はかなり高そうである。
そう一縷の望みにかけて私は駅の反対側に
降り立ち、意気揚々とそのスーパーの中に入った。
昼時ということもあり空いている店内を
私は足早に歩き、
何か飲食店がないかを見て回ったが、
残念ながら黄色いMの文字は見当たらなかった。
その代わりに、イートインスペースがある
聞いたこともないようなたこ焼き屋が
そこにはあった。
正直あまりそそられる外観ではない。
だが、何も食べられないよりはずっといいし、
あの北京と書かれた中華に入るよりは
ずっとハードルは低い。
そう思い、そこでたこ焼きを食べながら
時間調整をすることにした。
小さい聞いたことのない店なのに
なぜか券売機制のようで、
どれにしようかを選ぼうとしたのだが、
商品の説明が何も書かれていない。
セットと書かれているものは
たこ焼きとたい焼きがセットになっていると
唯一説明が書かれているが、
昼ご飯としてそのセットは気分が乗らない。
店員さんに聞くのも面倒なので、
結局何かわからないまま私は
スペシャルたこ焼きを選び券を購入した。
言うまでもないが、キャッシュレス決済など
使えるはずもない。
出てきた半券をおじさんに渡し、
ものの1分ほどで私のスペシャルたこ焼きが
出てきた。
スペシャルなわりに早いではないか。
そう思いながら受け取った箱を開けると、
上にチーズとネギが乗ったたこ焼きが
そこにあった。
何か裏に特別なものがあるかと思い
つまようじでたこ焼きを持ち上げてみるが、
何も変わった様子はない。
これがスペシャルかと思いながら、
私はそれを早速頬張った。
たこ焼きとはハフハフといいながら
恐る恐る食べるべき食べ物だということは
40年にもわたる関西人生活で十分理解している。
なので、いきなり頬張るのは本来危険であるが、
なぜか昨日の私は全く恐れることなく、
たこ焼きを頬張った。
恐らく見た目からなんとなくそれが熱々でないことが
分かっていたのであろう。
実際食べてみたソレは熱々ではなく、
私は口の中をやけどすることも無ければ
ハフハフとすることもなかった。
なんだかエラいところに来てしまったが、
席に座って時間調整ができるだけでもありがたい。
既に結構店探しに時間を使っていたので
たこ焼き屋にはそれほど長く滞在することなく
目的地に向かうことになった。
面談自体は非常に有意義なもので、
今後の開発につながりそうな内容が色々と
見えて私は内心ホクホクしながら
最寄り駅に向かった。
次の電車はいつかと思い電光掲示板を見ると、
何と次の電車まで30分以上も
待たなくてはならない。
もうあのたこ焼きを食べながら待つのは御免である。
結局駅のベンチで出張報告をサッと書いて
後は本を読みながら電車を待つことにした。
キャッシュレス決済やマイナンバーカードの導入を
どんどん進めていき、
社会のDX化を進めていくというのが我が国の
ミッションの一つであるが、
それを議論している都心では考えられないような
時間が止まった町が日本全国には沢山あるのかもしれない。
もちろん、そのような町にもいずれ
導入していくことになるのだろうが、
どんどん前に進む都心部との格差は
どんどん広がるばかりなのではないだろうか。
少なくとも昨日訪問した町にこの流れが来るのは
まだしばらく先であろう。
面談も含めるとほんの数時間の滞在ではあったが、
何だか色んなことを考えされられる出張となった。