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『文』『詩』

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思ったこと感じたことを書き殴ったような文。 共感やこんな感情もあるのか、をコンセプトに。 不定期更新。
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#小説

文【初夢とは】日記

初夢とは元旦の日の夢をいうのか。 それとも二日目の朝に見た夢をいうのか。 調べればすぐに出るだろうけれど。 もし元旦に見た夢が、心の臓が凍りつくような、おみくじの大凶に書いてあることよりも最悪な、恐怖映画よりも恐ろしい夢だったならば。 二日目に見た夢を初夢にしたくなるだろう。 もし元旦に見た夢が、好物を食べているときの幸福感のような、好きな話を語らっているときのような、幸せしか詰まっていないようなそんな夢だったならば。 その夢を初夢にしたくなるだろう。 結局は、己の都合が良い

掌編小説風日記【海老】

私が食べられないものの一つ。 それは海老。 茹でると赤く色付いて、調理法によっては色々な歯触りが楽しめる。 あの海老。 嫌いで食べられないわけじゃない。 むしろ大好きで。大好きで、大好きで。 食べ過ぎてアレルギーになった。 さっくさくになったパン粉をまとうエビフライも、魚のすり身とあらく潰した海老の二つの食感が楽しめる海老しんじょも、パラパラとしたお米の中に潜んでいる小海老探しが楽しい海老チャーハンも、マヨネーズのまろやかさと大きな海老にテンションが上がってしまうエビマヨ

文【大切な人達への道標】SS

今、そばにいてくれる人達を大切にしよう。 そう思っているのに。 ほんの少しの何気ない悪意が、私の視界を黒く塗り潰す。 懸命に光を探すけれど、闇に突き落とされたかと錯覚するほど。 何も見えない。 大切な人達を蔑ろにした罰だ。 今あるもので満足しなかった罪だ。 何処からともなく、そんな声が聞こえてくる。 恐くて涙さえも出ないけれど。 そんなときは、呪文のように 「ありがとう」 と、言い続ける。 ただひたすらに。 声に出ているのか、心の中で呟いているのかは分からないく

文【鉛筆のような人生】

生きるために文章を綴っているけれど。 綴れば綴るほど、私の命が削れていく。 売れる文章を書かなければ、生活だって出来なくなる。 あと一歩。 前に踏み出せたら。 と考えてみても、何処まで歩けば、その一歩になるのだろう。 矛盾している、私の生きる術。 鉛筆のような人生。 これだけ生きても、芯の色はまだまだ薄く。 消しゴムで消されてしまうような。 周りが暗すぎて、自分の文章さえも見えない。 私の残りの鉛筆は、あとどれくらい綴れるのだろう。

文【名前】小説

名前を呼ばれないということは、こんなに恐怖を感じることだったのかと。 私は最近、感じ始めている。 生き物であり、人間である私を形作るものの一つなのに。 名前を呼ばれないということは、私以外の誰かでも良いのではないか。 そう思ってしまうほど、大切なもののはずなのに。 私も他の誰かを、名前で呼ぶことが減ったなと、ふと感じた。 相手に求めすぎるあまり、大切な何かを忘れていた。 私が名前を呼ばれたいと願うころ、君も名前を呼ばれたいと考えていたのではないかと。 歳を重ねるごとに、

文【睡魔の海】

眠気に抗わず、睡魔の海を揺蕩う。 流れに身を任せ、ただ漂う。 思考回路の奥深く。 深層心理の底までも潜り込んで。 深く深く眠りにつく。 睡魔の海から抜け出し、冒険が始まるよう祈りながら。 大それたものじゃなくていい。 道端に可愛らしく咲く花を見つけるくらいの そういう冒険でいい。 僕はベッドに繋がれたままの身体を 虚ろであろう瞳で見つめながら そう願わずにはいられない。 あぁ、今日も。 睡魔の海が襲ってくる。

文【文字の形】

巡る。廻る。めぐる。 僕ら物書きは、自分の知らない無意識の、深層心理の中でさえも。 言葉がめぐっているのだろう。 いや、言葉ですら無いのかもしれない。 単語かもしれないし、つらつらと連なった意味不明な文字の羅列かもしれない。 それを書き出して。書いて書きまくって。 自分でもなにを書いているのか分からないくらいに書き出して。 やっと認識できる形になるのだろう。 それをさらに、削って磨いて。 どうすれば良いのか考えて。 叩き割ったり、粘土のように捏ねくり回したり。 薄

文【言える勇気】

「助けてください」 その一言が出てこない。 ほかのくだらないと思われるような言葉は次々と出て来るのに。 「助けてください」 その言葉だけは笑顔の裏に隠し、心の奥底にまで追いやり、自分でも気が付かないうちに忘れている。 心も叫ぶのをやめて、静寂を纏っている。 「大丈夫です」 自分の言葉で自分自身が傷付いているのさえ 気が付かない。 足元ばかりを見ている。 「大丈夫です」 視野が狭くなっていく。 殺した言葉は戻ってこない。 似たような言葉が浮かぶだけ。 でも、

文【ある光の独白】

自分の後ろにある長い影が、ときおり羨ましく見える。 私もそこに沈んでしまいたいと。 だが私の足の下にさえ影があるにも関わらず、私はそこに入れない。 何も邪魔するものはいないはずなのに。 もう沈んでしまおう。 そう思うたびに、前に見えるものが愛おしく思えて、沈めないのだ。 時には私の姿すら見えないほどに。 時には肌が焼け焦げるほどに。 さんさんと。じりじりと。 その痛みに耐え切れず。 消えてくれと叫んだこともある。 もう嫌だと泣き叫んだこともある。 でも、それでも。

文【暗い暗い暗闇の誓い】

手のひらで目を覆えば暗闇が訪れる。 覆っている手を離せば光が訪れる。 暗い暗い暗闇は、いつもそばにいる。 自ら進んで目を覆うものもいれば、腕をめいいっぱい広げて光を享受するものもいるだろう。 私は前者だが。時たま光にあやかりたいと、思うこともある。 だけれど暗闇に慣れすぎた目には、明るい光は眩しすぎる。 止めてくれと叫び、手のひらで目を覆っても、光は指の隙間から瞼の隙間から入り込み、容赦なく眼球を攻撃してくる厄介さを持つのだ。 それでも、光に憧れてしまうのは、反対側

文【それでも私は爪を切る】

「なぁ、爪よ。なぜにお前はのびるのだ?」 そんなことを思いながら、今日も私はお世辞にも上手いとは言えない、ド下手くそな爪切りを、だるいだるいと言いながらも、自分自身に披露している。 ……なぁ。切られるとわかっていて、何故にのびるのだ。やっと切れたと、整えたと思うても、一週間後には邪魔でしようがないほどにのびている。爪よ。 人体とはそういうものだと論じられれば、はぁそうですかと答えるしかない。お前さんよ。 私はお前が邪魔で鬱陶しくて、痛みにこらえながらも、硝子ヤスリで限界

文【頭の中の猛獣】

私の頭の中には猛獣がいる。 しつこく獰猛な猛獣が。 ずしんずしんと歩き回ることもあれば、何かを齧っているようなときもある。 何が足りなくて暴れ回っているのか。 私には皆目見当もつかない。 たまに首筋まで降りてくる。 肩まできたときは最悪だ。 どうしたらこの猛獣を追い払えるのか。 さんざん試したが、未だに居座り続けている。 一番煩わしく思うのは、寝る時だ。 目を瞑っても、猛獣が走り回り、獲物を探している音がする。 うるさいと自分の頭を叩いても、猛獣には届かない。 それどころか、