【椎名誠『岳物語』 7日間ブックカバーチャレンジ デジャブの4日目】
・・・君のいない世界など夏休みのない八月のよう。- RADWIMPS -
令和最初の八月は夏休みのない八月だった。八十八夜も過ぎて、木々が夏らしく茂っている。五月晴れの今日は、久しく再開された御前崎のパシフィックカフェに来てみた。そして、なんともなしに高校時代の夏に読み耽った、『岳物語』について書きたくなったのだ。
僕が椎名誠さんをはじめて知ったのは、中学三年の時である。キリスト教徒の母が近くに住む教会の23歳のお兄さんに、僕の個人研究をお願いして週一で聖書のレッスンを受けていた時のことだった。
「これ、椎名誠さんの小説にあったセリフだね」
彼は何かの拍子でそんなことを言った。
そのお兄さんは教会の方針から大学を出ておらず、車いじりが趣味だった。カローラ・レビンという名車に乗り、十代の頃には夜な夜な峠を攻めていたのだと話してくれた。愛知県のキャンプ場とか、兄弟が住む軽井沢にも泊めてもらった。
なにか説得力があったのだ、彼の言葉には。キャンプ場の貸しテントの中でアルミ缶にガスライターのガスを詰めて簡易ランタンを作って見せてくれた時には、彼の兄貴に「ねぇ、だからそういうことしないで」と怒られていた。
だけどもそのキリストの兄貴は、「何でヤメロヤメロって言うんだろうね。嫌だね」と話してくれた。なんというか、内から湧き出る冒険心を抑えられない人なのだった。そんな所に僕は、何とも言えない生命力とか統率力のようなものを感じていたのかもしれない。
世間一般のものさしで測ったら正しくはない。ただ、彼には突き進まなければならない独自の世界があって、その世界の中で彼はどうしてもそれをしなければならなかった。
ご存知の方も割といらっしゃるが、僕は学習塾を始めるまでは極めて大人しい性格をしていた。夏休みに入っても浮いた話など一切無かったし、そもそも40くらいになるまで女の子と話ができる人間ではなかった。
キリストの兄貴が話題に出してくれた椎名誠さんの本は、高校に入ってからになったが地元の安間書店さんで立ち読みすることにした。『ハーケンと夏みかん』が一番気になったけれども、この『岳物語』は夏休みの課題図書になっていて、結局こちらの方を半ば強制的に読むことになったわけだ。
本というものの中には、常に理想世界が描かれているのかもしれない。岳少年はご存知の如く野性味あふれる冒険少年。当時の私のこんな風に生きたかった、が、まさしくそこにあった。理想世界だと言っても悲しみも苦しみもあるのだけれども、、、あるのだけれども明らかに、、、明らかにだ、、、こんな風に悲しみたかったし苦しみたかった、俺は。
それがあった。
時代はいつしか昭和から平成になったし、さらに一つ、令和にまで進んでしまった。夏休みも最後の部活も甲子園もオリンピックも、全ての夢を奪われた少年たちは果たしてどんな本に助けられて、自分たちの世界を作り直してゆくのだろうか。
・・・・君のいない世界など夏休みのない八月のよう・・・・
またうちの塾に岳たちが来る。俺が夢を叶え過ぎたから、あいつらの夢まで吸い取っちまったのかもしれない。そんな風に、ふと思う時があるのだ。
・・・・・まぁ、でもお蔭でいい夢見させてもらってる、ぜ!! またバレたら謝ってやるよ。しかたんねぇなww!・・・・・
お読みいただきまして誠にありがとうございます(^▽^)/
めっちゃ嬉しいです(^^♪
学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)