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#111「AI時代の『探究する個性』 - データで変わる教育のカタチ -」(数理的自己啓発#4)
デデデータ!!〜“あきない”データの話〜第77回「AI時代の『探究する個性』 - データで変わる教育のカタチ -」の台本の話の台本・書き起こしをベースに、テキストのみで楽しめるようにnote用に再構成したものです。
AI時代の「問いを立てる個性」が世界を変える
私は、データサイエンスのスタートアップの代表をやっていて、もうすぐで7年になる。日々デジタルとデータに関わりつつ、小学校2年生の子供がいる。こんな立場だからか、自分の子どもたちが成長する未来を考えると、「AIとどう共存していくか」が切実なテーマだと感じている。
とくに「教育」と「仕事」はAIの影響を大きく受ける領域なので、今回は「AI時代の教育論」について、私が普段から考えていることをまとめてみたい。
AIに台本のオリジナリティを査定され、ショックだった話
私はポッドキャスト番組「デデデータ! あきないデータの話」の台本を書く際、ChatGPTなどの生成AIを参照している。
ファクトチェックや事例収集にAIの力を借りつつ、そこに自分の意見を混ぜて構成しているのだが、ある日、AIにこう問うてみた。「この台本はどれくらいオリジナリティがあるか?」
すると、返ってきた数値は「30%」。残りの70%は既存の研究や事例を再編集しただけだ、という冷徹な返答だった。
それはなかなかショックで、私としては「何とか50%くらいの独創性を目指したい」わけだが、正確な情報を取り入れれば取り入れるほど、既存の知見を引用しがちになり、本当の意味でオリジナルな部分は減ってしまうという皮肉を感じた。
もっと学祭(=学問の交差点)アプローチを強化したり、新たな物語構造や時系列要因を深く組み込んだりすれば、独創性は上がると言われている。
だが、AIと競争するのは想像以上に厳しい。では、数年後、さらに強力なAIが普及したら、私の子どもたちを含む次の世代は一体どうやって「自分らしさ」を確立していけばいいのだろうか。
シンギュラリティは来ない? でも弱いAIが浸透すると、世界は確実に変わる
技術的特異点(シンギュラリティ)をめぐっては、いずれ人間の知能がAIに追い越されるかもしれないという期待と不安がつきまとう。だが、私自身は「本当の意味でのAGI(汎用人工知能)はなかなか来ない」と考えている。
そもそも今のAIは、膨大なデータを学習して判断・アウトプットしているだけで、人間がもつ身体性や歴史的な空気感、好奇心などの“暗黙知”をじかに体感できない。
ただし、たとえ「強いAI」が実現しないとしても、すでに登場している「弱いAI」だけで社会は十分変わってしまう。書類チェックやパターン解析、問い合わせ対応などの定型業務の多くがAI化され、働き方に大きな影響が出るだろう。仕事に関しては十分に影響を与えるほどに。
仕事の多くがなくなり、人間が担うのは何か
弱いAIが普及しても、人間が完全に不要になるわけではない。むしろ残るのは「クリエイティビティ」「共感」「価値観づくり」など、データ化しにくい領域だと見ている。
たとえば広告やブランディングであれば、AIがターゲット分析や情報整理をやってくれても、最終的に「これが人々の心を打つメッセージだ」と判断し、文化的文脈を踏まえて表現するのは人間の役目だ。
医療や教育の現場でも、AIはデータを提示してくれるが、その人の感情や身体を理解しながら最適なケアや指導を提供するには共感力が要る。
要するに、AIでは簡単に代替できない「独創性」「倫理感」「コミュニケーション力」が、これからの人間が活躍できる分野なのだ。
しかし、そうした能力を短期間で身につけられるほど現実は甘くない。だからこそ、常に学び直してリスキリングし、自分の強みを磨き続ける必要がある。
娘を探究学習のある小学校に入れた理由
AI時代に人間が残せる価値を考えているうちに、「子どもの教育」をどうするかが気になった。これは3年以上前の話。当時、私が注目したのが「探究学習」という方法論だ。
現在、娘が通う私立小学校では、1年生から“疑問→仮説→実験や調査→考察→発表”という探究サイクルを繰り返す。具体的なテーマが面白い。
どの食材でチーズを作ったら一番おいしくなるか
投資アプリで企業に仮投資してみたらどうなるか
種無しブドウはなぜ種がないのに育つのか
ガソリン価格がなぜスタンドごとに違うのか
こんな問いは、大人でも思いつかない。投資アプリの話など聞くと「小学生でそこまでやるの!?」と驚かされるが、子どもにとってはきわめて素朴な好奇心なのだ。
ここで重要なのは、「AIに答えを尋ねたら教えてもらえる」というより、そもそもその問い自体を生み出せるかどうかという点にある。AIは膨大な知見を与えてくれるが、ゼロから面白い疑問を生み出すことは簡単ではない。
この探究サイクルを幼い頃から繰り返せば、問う力や仮説づくりの力が自然に養われるはず。私はそれこそが、AI時代に生き抜くための重要なスキルだと感じたのだ。
「学際」な視点で個性を伸ばす
こうした探究学習は、細分化された科目知識よりも、複数の学問領域をまたぐ「学際性」を重んじる。
たとえばチーズ作りなら微生物学、食品科学、流通、農業政策、さらに環境問題にまで派生していく。何より、小学校1年生から高校3年生まで個人の探究は繰り返されていくのだから、学際的にならざるを得ない。
ある子どもは、そこから「気候変動が農業に与える影響」へと興味を広げるかもしれない。まったく別の子どもは、「乳酸菌の種類は何種類あるんだろう?」と生物学にのめり込むかもしれない。つまり、それぞれの個性が自然に発揮される土壌がこの探究学習にはある。
人間にしかできない「問いを立てる」役割
AIがますます進化していく世界で、人間が担う最大の役割は「新たな問いを設定する」ことだと確信している。すでにある問題に正解を出すだけならAIで十分だが、「そもそも問題は何か」「どう定義するのか」を発見するのは人間の感性や価値観が不可欠だ。
さらに重要なのは、その問いにどんな意味づけをするかという点だ。仮にAIがそれっぽい問いを生成してくれたとしても、「その問いを自分なりにどう位置づけ、なぜ興味を持つのか」を感情的・身体的に理解できるのは人間しかいない。
私が「娘は何に惹かれているのだろう?」と観察し続けるのは、そうした内発的な好奇心こそが将来の核になると考えているからだ。
データドリブンな教育モデルの可能性
もっと踏み込むと、個性を伸ばすためにAIを活用する教育モデルも考えられる。
子どもの学習ログや協働ワークでの発言傾向、作品の分析などをAIが集約し、「この子はアイデア発案に強みがある」「最近は投資や経済分野に興味が向かっている」といったプロファイリングを行う。
教師はそのデータを参考にしながらメンターとして、「次は違う文化圏の食習慣を調べてみると面白いかも」と提案したり、「あなたの強みを生かすなら、リーダー役よりも新しい道具を開発するポジションが良い」と指導方針を練る。
このプロセスで評価軸も「テストで何点取ったか」にとどまらず、長期的な成長や創造性、倫理観など多元的に判断していく。結果的に一人ひとりの個性が磨かれたデータが蓄積されれば、社会に出る頃には自分の得意やスタイルを明確にできるはずだ。
先生の役割は「AIと生徒をつなぐメンター」
知識詰め込み型の先生は、正直言ってAIに置き換えられる可能性が高い。だが、生徒の個性や興味を引き出し、探究の進め方をサポートし、AIが提示した情報を「それってどう思う?」と問い返しながら深めていく役割はむしろ重要度を増すと考えている。
教師もまた「共感力」「対話力」「柔軟性」を発揮し、生徒一人ひとりのペースや特性に合わせて導く存在になるわけだ。そこには大きなやりがいがあるし、AIでは代替しがたい領域だといえる。
常時リスキリングの時代をどう生きるか
私自身、データサイエンスやDX支援をやっているが、何年か後にはいまの専門知識すら古くなるかもしれない。つまり大人も含め「常に学び直して進化する」覚悟が必要だ。44歳でお金稼ぎ目的でないかもしれないが、生きているうちは仕事が楽しいから働きたい。
強いAIが来るかどうかは分からないが、弱いAIの進化だけで仕事はどんどん変わるし、子どもたちもそれに合わせて新しい働き方を選ぶだろう。
社会に出るまで15年以上かかる子どもなら、なおさら「疑問を持ち続ける力」や「新たな価値を紡ぐセンス」を育まないと、AIの出力を利用するだけの存在になってしまう。
未来を切り拓くのは「意味づけ」と「個性」
問う力、探究力、多様な学問を横断する学際性、そして共感力。これらは最終的に「自分だけの意味づけを生み出す力」につながる。個性とは周りと違う視点を持つことでもあり、その視点こそがオリジナリティだ。
私が感じるのは、「自分の問いが、誰かの役に立つかもしれない」「今ここに存在しない価値を提案できるかもしれない」というワクワク感が、AI時代の子どもたちにとって最大の推進力になるということだ。
結びに
AIが高度化していく未来を恐れるより、その存在を活用しつつ、人間にしかできない「問いを立てる個性」「探究する姿勢」をどう育むかに焦点を当てたい。学校教育だけでなく、社会人のリスキリングや地域コミュニティでの学びの場づくりなど、さまざまなシーンで「自分だけの問い」「自分が意味づける価値」を考えることが欠かせない。
この探究を続けていけば、たとえAIがどれほど進化しても、人間は「個性」と「意味づけ」という確固たる領域で輝き続けるだろう。私はそう信じている。
リファレンス:AI時代に問いを育む探究学習についての情報収集
はじめに
AI技術が急速に発展している。とりわけ、大規模言語モデル(ChatGPTなど)や画像生成AIの普及は多くの人の学習・創作・仕事のやり方を変え始めている。学習者はインターネット検索以上に豊富な情報やヒントを得られ、教師や親は学習状況を可視化し、きめ細かな指導を行いやすくなるかもしれない。一方で、「AIに何でも頼りすぎたら、人間が考える意味はどこに残るのか」という疑問も浮かぶ。
答えを得ること自体は手軽になってきた時代だが、そもそも「どんな問いを立てるか」「どのように情報を吟味し、新しい価値を創造するか」は人間にしかできない領域だ。子どもたちがその力を身につけるには、従来の暗記中心の教育では不十分だという指摘が多くの研究者・教育実践者から上がっている。そこで注目されているのが、**探究学習(Inquiry-based Learning)**だ。
ここでは、AI時代の教育改革の概要とともに、探究学習がもたらす効果と学術的根拠を概観する。さらに、AIが創造性・倫理観・メタ認知をどう変えるか、実際に探究学習を導入している学校の事例、そしてAI活用による個性伸長や評価手法などを取り上げる。最後に、これからの教育がどうシフトしていくべきかを考えてみたい。
1. AI時代の教育改革
1-1. AIは教育をどう変えつつあるか
多くのEdTech企業がAIを活用した学習プラットフォームを開発している。学習者の回答データや行動ログを解析し、弱点や得意分野を可視化し、最適な課題を提示するシステムが登場している。こうした個別最適化学習は、従来の一斉授業では難しかった柔軟な指導を可能にする。
カーンアカデミーはGPT-4を使った対話型AI「Khanmigo」を試験導入しており、学習者が課題を解くときにソクラテス式の問いかけを行うAIチュータの実験を進めている1。教師の業務を置き換えるのではなく、「解き方のヒントや振り返りのサポート」を担う補助的な役割を果たすという考え方だ。
こうしたAI学習ツールは世界各地で導入が進んでいる。特に中国のSquirrel AIは数千万人規模の学習データをもとに、高度な適応学習を提供しているという報告もある2。習熟度やミスの傾向を細かく解析し、一人ひとりに応じた教材や問題を提示する。結果的に学習到達度が短期間で向上したとの研究事例が複数出ている。
1-2. 人間の役割はどこにあるか
AIが豊富な情報や解法を提示してくれるなら、人間教師や保護者は何を担うべきか。その答えのひとつは、「価値観・倫理・創造性を含む複雑な学びを支援すること」だという主張が目立つ3。AIは大量のデータからパターンを導き出すのは得意だが、人間社会の文脈や多様な視点を踏まえた総合的判断、道徳的含意を問うことはまだ苦手だ。
学習環境や社会状況が急速に変わる時代には、「自分で問いを立て、新しい知識や発想を組み合わせて課題を解決する力」が鍵を握る。こうした力を子どもたちに育む教育が世界各国で探究されており、日本でも「総合的な探究の時間」が高校で必修化されるなど、制度的な整備が進んでいる。
2. 探究学習とは何か
2-1. 探究学習の基本的な流れ
**探究学習(Inquiry-based Learning)**は、「生徒が自ら問いを設定し、それを深掘りしていく過程で知識とスキルを獲得する」教育手法だ。具体的には次のようなステップがある。
興味・関心の喚起(どんな問題・疑問があるか)
情報収集と仮説設定(どんな解釈や解決策が考えられるか)
実験・調査・分析(データを集め、検証する)
考察・まとめ(仮説を修正しながら結論へと導く)
発表・振り返り(他者のフィードバックも得て学びを共有する)
これを繰り返すことで、問題解決能力や批判的思考力、コミュニケーション力、主体性などが育つという報告が多い4。従来の講義型授業とは異なり、生徒が自分の好奇心や疑問を起点に学びを進めるため、学習意欲が高まるケースが多い。
2-2. 学術的根拠
探究学習を導入したクラスは従来型授業のクラスに比べて、批判的思考力や課題解決力で優位な結果を示すメタ分析が複数存在する5。たとえば問題解決に要する時間やテストの成績だけでなく、「深い理解」「論理的思考」「チームワーク」が高まるという報告が見られる。
また、探究型学習者は「自分で学び方を調整するメタ認知力」を育む傾向があると言われる。たとえば、「どのタイミングで誰に相談すればよいか」「データの信頼性をどう確認するか」を繰り返し試行錯誤するうちに、自ら学習のプロセスを振り返り、改善できるようになる6。こうした姿勢は、高度なAIと共存する社会でますます重要になるだろう。
3. AIと探究学習がもたらす創造性・倫理観・メタ認知
3-1. 創造性をどう育むか
生成系AIはライティングやデザインのブレインストーミングを強力にサポートする可能性がある。ただし、AIが生成するアイデアは既存データの組み合わせであり、まったく新しい発想を生み出すのは人間の洞察が必要だという指摘がある7。AIが補助的にアイデアの幅を広げ、人間がオリジナルな視点を加えることで、より豊かな創造が可能になるはずだ。
探究学習で子どもたちがテーマ設定や課題解決を行う際、AIから情報を得るだけでなく、「なぜこれが問題なのか」「どのような価値があるのか」といった深いレベルの問いに向き合うことが重要になる。教師は生徒に対し、AIが出した答えを鵜呑みにせず「何が根拠か」「なぜその結論に至ったのか」を考察させる役割を担う。
3-2. 倫理観をどう育むか
AI時代には、データバイアスやプライバシー侵害などの問題が起こりやすくなる。たとえば自動採用AIが男女や人種で不公平な判定をしてしまう事例、生成AIが有害なコンテンツを生成してしまう事例がすでに報告されている8。こうした問題を解決するには、社会的・倫理的視点からテクノロジーを評価する力が欠かせない。
探究学習の中で「AIと人権」「AIとプライバシー保護」などのテーマを扱う例もある。生徒が問題点を調べ、専門家にインタビューしたり、賛否両論を比較したりしながら、自分なりの価値観と論拠を形成していく。こうした「リアルなテクノロジー倫理」を扱う探究は、教科書の知識を超えた学びを可能にする。
3-3. メタ認知をどう伸ばすか
AIは学習ログや回答パターンを可視化し、いつどこでつまずいたのかをリアルタイムで分析できる。これによって、生徒は自分の弱点を客観的に把握しやすくなる。適切な設計をすれば、探究活動中に「どのような情報検索を行い、どのような整理を試みたか」をデータ化して振り返ることもできる。
インテリジェント・チュータリング・システムの研究では、AIが生徒のヘルプ要請やミスの傾向を見て、メタ認知を促す声かけを行う事例がある999。ただし、AIがどれだけ賢くても学習者自身が「もう少し踏ん張って考えよう」「一度立ち止まって振り返ろう」と判断する姿勢が必要だ。教師はこうした判断を褒めたり、成功体験を共有させたりして後押しできる。
4. 探究学習を実践する学校の具体例
4-1. 国内の事例
日本でも小学校から探究学習を導入している学校がある。ある私立小学校では、学年横断的なテーマを設けて「町の特色を探ろう」といった課題に取り組む。子どもたちはグループごとに散策やインタビューを行い、歴史的遺産や地域産業の現状を調べ、スライドや動画にまとめて発表する。途中でAIを使って昔の地図や経済データを検索する子もいるが、その情報をどう扱い、自分たちなりに意味づけするかがポイントになる。
教師は「どんな問いを設定したい?」「その資料は信頼できるのか?」と声をかけ、仮説検証のプロセスをサポートする。子ども同士が対話する中で新たな視点が生まれ、楽しみながら学習を深めていく姿が見られる。学力テストの数値だけでなく、意欲や表現力も向上しているという報告がある。
4-2. 海外の事例
フィンランドは国家レベルで「現象学習(Phenomenon-Based Learning)」を導入している。たとえば「海」というテーマで、海洋生態系や航海技術、歴史上の航路、海洋汚染問題まで横断的に探究を進める。教科の枠を超えた学びは、単なる知識獲得にとどまらず、多面的な思考を育むとされる10。生徒がチームを作り、実地調査を行い、発見や提案をまとめる中で総合力が養われる。
米国のHigh Tech Highやニューテック高校ネットワークでは、地域や企業と連携したプロジェクト型学習が日常的に行われている。生徒はリアルな課題に向き合いながら、成果をプレゼンや展示会で公開する。そこにAIを組み込んだ研究開発プロジェクトも増えているという。自分たちのアイデアが社会でどう活かされるかを実感することで、キャリア意識や社会参加への意欲が高まるという報告もある。
5. 個性を伸ばすためのAI活用と評価
5-1. パーソナライズ学習と学習者プロファイル
学習分析(Learning Analytics)を活用することで、生徒がどんな科目やタスクに興味を示し、どんな場面で力を発揮しているかを詳細に把握できる。AIが多様なデータを統合し、「興味・関心」「表現の強み」「協働スキル」といった指標を生成する取り組みが進んでいる11。これを教師や本人が活用すれば、進路指導やプロジェクト編成でより適切なマッチングが可能になるかもしれない。
ただし、個性や非認知スキルを数値化することには注意が必要だ。プライバシー保護やデータバイアスの問題も大きく、AIが一方的にラベリングすることが生徒の自己評価や可能性を狭める恐れがある。重要なのは、AIが出した分析を絶対的なものとみなさず、人間が対話しながら意味付けし、活かし方を決めることだ。
5-2. 多面的な評価手法
探究学習で育まれる力はテストの点数だけでは測りにくい。そこでルーブリック評価やポートフォリオ評価など、学習のプロセスや成果物を多面的に捉える仕組みが注目されている。AIがエッセイや動画、プレゼン資料の特徴を分析して傾向を可視化し、教師や保護者が観点別にコメントする事例もある。
また、協働学習での発言内容や質問の質などをデータ分析し、チーム内でどんな役割を果たしているかを可視化する研究もある。こうした定性・定量両面の評価を組み合わせれば、「点数には出にくい成長」を捉えやすくなる。ただし、評価が複雑化すると教師の負担が増すため、AIのサポートをうまく使いながら、学校全体で評価設計を整備する必要がある。
まとめと展望
AIがもたらす情報処理能力は、子どもたちにとって学びの可能性を広げる大きなチャンスだ。疑問が湧いたとき、すぐに膨大な知識にアクセスし、手頃なヒントを得られる環境は「考えるきっかけ」を増やすかもしれない。その一方で、AIに答えを任せきりになると創造性や批判的思考が衰退する危険もある。
探究学習は「問いを立て、試行錯誤し、情報を検証し、独自の結論を導く」過程を大事にする。AI時代こそ、この学習プロセスが貴重だと考えられる。知識を詰め込むのではなく、知識をどう活かすか、どんな視点から問いを生み出すか、どう社会と結びつけるかを学ぶことが、これからの人間の強みになる。
学校や教育者はAIを道具として活用しつつ、子どもたちが「自分で考え、新たな価値を生み出す喜び」を実感できるように支援する必要がある。多くの研究や先進事例が示すように、探究学習を核に据えた教育デザインこそが、AI時代を生きる力を育む鍵ではないだろうか。
参考文献
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