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1、星座という概念自体人が作ったもの【『地上の星』独り言多めの読書感想文】
例えば寺や城が好きな人がいる。同じものを見ても知識の量で楽しみの深さが変わり、その物事に精通していることは、楽しむための絶対条件。
〈「この字書には母という言葉だけではないぞ。母君も母御もかかも、すべて書く」〉
〈「おせん、それが言葉の持つ温もりだ、母のことを、日本の子らはかか様と呼ぶ。その優しい響きを伝えてこそ、南蛮人にも日本の深さや奥ゆかしさが解される。私はな、そんな字書を作りたいのだ」〉
〈「どんなささやかな言葉でも、南蛮人にとっては夜道を照らす星になる」〉
〈「ふだんおせんたちが何も考えずに使っている言葉は、どれほど豊かで美しいものか。それを残らず伝えることができたら、南蛮人はどんな長い航海をしても日本をこの目で見たいと願うだろう」〉
文字。白黒の線に過ぎないものが星となり、道標となる。それも理解あってこそ。理解しようとする意思があってこそ「それ」が応える。連鎖する。縦にも横にも。
好かれたいというならば、まずは己が好きになる必要があって、その道すがら及んだ理解が他者との差別化の役割を果たす。個人に対する深さは「縦」、応用の効く真理は「横」。いずれにせよ目に見えるものばかりではない。見えたとしてもそれは氷山の一角。
愛する行為はどこまでも孤独。孤高で至福。そのために言葉を選び、行動を選ぶ。指針。ふさわしいのは「かか」か「かか様」か。そのこと自体翻訳云々は関係ない。その人にふさわしい音、その人が受け取りやすそうな言葉を、丁度プレゼントを選ぶかのように吟味する。
絵として圧倒するものと知識によって奥行きの出るもの。単純な行為が際限のない奥行きを持つのは理解ありき。それは他者に決して見えぬもの。言葉は、白黒の線に過ぎないものはその共有を助ける。あるはずのない橋をかける。
縦に横に。点と点に過ぎないものが、そうして繋がる。形を成す。