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第三十三回「イタリア縦断記 その壱」~目指せニューシネマパラダイス~
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「人はなぜ旅をするのか?」
2018年7月 ベネチア
国内であれば、「旅はいつも北海道から始まる」というのがヒロキの定石だった。十代から二十代はとにかく北を巡った。当時憧れだったブルートレインをはじめとする夜行列車が全国的に廃止になるニュースを耳にして久しい。
汽車で行く当てもない旅。
本をたくさん抱え、
好きな人達の宛名だけ記入した絵葉書を鞄に忍ばせて
夜行急行列車に乗込む。
BGMは中島みゆき、それが僕の学生時代の旅だった。
学割で買う安い周遊券で一ヵ月とかエリア内なら特急も乗り放題。
懐が寂しくなれば夜行の特急列車で次のまちに移動すれば良かった。
かつて一緒に旅をした「友」のことが、頭をよぎる。
親友だったJとも、R女史ともずっと会っていない。
彼らは今、どこで何をしているのだろう…。
ぼくらの行くあてのない旅は、自由だった。
夜行特急「おおぞら」で隣り合わせた方と、何気ない会話から親しくなる。早朝5時とかに駅に着くと「うちで朝ご飯でも食べていくか?」と誘ってもらうことが何度もあった。もちろん二つ返事でお世話になり、なんとなく何日も居座り続けた。
旅から戻ると「お世話になりました。また伺いますね」などとお礼なのか、お願いなのか判断のつかない様な図々しい手紙をせっせと書いては、また次の旅に向けてバイトに励んだものだった。
長く通っていた身から言わせて頂くならば、北海道旅行は二月、六月、九月がおすすめだ。シーズンから少しずれている為に安く済むし、無駄に観光客もいないのが良い。景色も観光シーズンの時に比べても綺麗だし、美味い食べ物の旬もその時期にばっちり符合しているからだ。
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そんなヒロキの旅は三十代に入ると、「仕事を通じて仲間と出会う旅」へと変貌を遂げ、年の半分くらいは旅人のような暮らしをするようになっていた。主な仕事の内容は僕らのつくった映画の上映会でのトークショー、講演会や人材育成の講師、地域や企業のブランディングの事業など多岐にわたり、御用聞きの様にやれることは何でもやった。
次第に中部や関西、四国中国地方、南は九州へと、ぐいぐいと南に向かって何かに導かれるように各地を巡った。気づけば離島も含め千をも越える地域に知り合いが出来ていた。
最終的に、沖縄で今の妻と出会わされてから後の四十代の現在は、再び北陸や東北へ行くことが多くなってきている。見えざる流れなのか、何か意志のようなものが自分に働きかけているのだろうか。
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「イタリア縦断の旅に決めた」
さて、余談が長くなってしまった。
今回はイタリアの旅の話であった。
イタリア半島は、ご存知の通り南北に長くハイヒールのような形をしている。中央には背骨のようにアペニン山脈がそびえ立ち、温泉も各地にある。
どことなく日本に似ているような気がするのは僕だけだろうか。
またイタリアは、都市国家の名残がしっかり残っているから、それぞれのまちが一つの国としての意識を未だに持ち合わせているのが面白い。
「日本」というより「藩」としての意識しかなかったであろう江戸時代の日本を想像してもらえば分かりやすいだろうか。
だからなのかもしれないが、イタリアへ訪れた多くの人が
「一つ一つのまちがまるで宝石箱のようだ」と形容されるように、
小さいながらも魅力的な自治をしているまちが多くみられる。こういったまちをゆっくり見てまわれるのが、イタリアの旅の醍醐味だと僕は思う。
しかし、住み始めた当初の僕はせっかくヨーロッパに来たならば、近隣の国へも毎月ほいほい出かけてみようと考えていたのだ。だって、飛行機で一時間飛べばドイツやスペインにも行けるし、近くの駅から鉄道に乗って何処の国へでも行ける。すぐ目の前のアドリア海からも、船ですぐクロアチアの美しいビーチやギリシャにも行けるんだ。
ただ、残念なことに家族の滞在許可の申請中は出国しては行けないというルールがあり、それはそれでなかなか叶わなかった。
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でも、それもいいじゃないか。
こうなりゃイタリアを徹底的に回ってみようと、妻の日奈子と地図をにらめっこしながら夜な夜な作戦会議に励んだ。
調べれば調べるほど美しいまちや、美味しそうな料理が目につき正直困る。そこで考えたプランは大きく二つ。
まずヴェネツィアを中心とする北部地方へは
行けるタイミングでコツコツと巡ること。
二つ目として(時間も予算も限りがあるので)今回は思い切って
「夏のバカンスの時期に、車で一気にイタリア縦断」することだ。
最終到達地は、僕の夢の聖地であるシチリア島だ。
本稿のテーマである「ジュゼッペ・トルナトーレ監督に会うための手がかり」を見つけられたら最高だと思う。
シチリアにはナポリからフェリーで車ごと渡ってみよう。
目指すは、僕の人生を大きく変えた映画「ニューシネマ・パラダイス」(トルナトーレ監督が32歳の時の作品)が撮られた、シチリア島のパラッツォ・アドリアーノ村だ!
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